1992.05.02
役立たずのホテルマン
ザ・マンハッタン Manhattan Room
怒-5

新しいホテルばかりがひしめく幕張でも、最もスタイリッシュでエキサイティングな外観を持つ自称スモールラグジュアリーホテル「ザ・マンハッタン」は、当初ビジネスホテルとしてオープンすべく進めていた計画を、なにを血迷ったのか急遽超高級ホテル路線に舵を取りなおして、それを無理やり押し通してしまったホテルだ。この無謀さを、よく周囲の者たちが直視していられたと思うと、その感覚が恐ろしい。しかし、建ってしまったのだからぜひ成功して欲しいものだ。このホテルが軌道に乗り、日本が世界に誇れるような素晴らしいホテルになれば、この界隈全体に活気が出るだろうし、日本のホテルの水準も上がることだろう。

エントランスはまるで個人の邸宅のように柵で囲まれ、とても気安く入れるような雰囲気ではない。正面玄関にも常時係りが立って、お客さんの到着を待ち構えている。ところが、立っている人間は本当に素人だ。マニュアルに書かれた仕事以外、一切できなさそうだし、やる気もない様子だった。車をつけると、人を見下すように威圧感たっぷりの態度で扉を開け、荷物を乱暴に扱っておろす。玄関に立っている人間がこんなに感じが悪いのでは、食事に来るお客さんも少ないだろう。洗練度に基づく敷居の高さがあるのではなく、単にお客さんを驚かせて入りにくくさせているだけだ。バレーパーキングはないので、自分で地下の駐車場に停めにいくが、1泊につき1,500円の料金は高いと思った。

チェックインを行うレセプションルームは、ちょっとしたパーティーができるほどのスペースがあり、ゆったりとしている。向かって正面に2台のデスクが並び、それぞれに立派な椅子が添えられている。そこに腰掛けてチェックインをするが、係りの女性はみなツンケンして極めて感じが悪かった。客室へのエレベータはカードキーをさし込まないと客室階には停止しないので、セキュリティ面では安心感がある。

今回利用したマンハッタンルームは約50平米を確保したジュニアスイートタイプの客室で、室内もとてもデコラティブで豪華な内装になっている。当初の計画では、この位置にスタンダードタイプ客室が2室割り振られるはずだったらしい。エントランスの床は石張りでリビングスペースとベッドスペースは絨毯敷き。ソファセットとライティングデスクがあるが、ダイニングセットはない。また、ベッドの幅はあまり広くない。エントランスから回り込むような形でドレッシングコーナーとミニバーがあり、こちらも床が石張り。天井には凹凸の飾りが施されていて、高級感を醸し出している。

バスルームにもかなりの面積を割いており、総大理石張りでいい雰囲気。ただ、バスタブ横にルーバーがあってベッドルームに向けて開放できるのは良いが、ルーバーに密閉性がないにもかかわらず、トイレに扉を設けずルーバーの正面に設置してしまったので、音が筒抜けでよろしくない。アメニティは豊富で石鹸には純金入りというホテルでは珍しい商品を採用している。小型TVも備え付けられている。

窓ガラスはブルーでサングラス的な効果があるという。リビングスペースにはTVと共にビデオデッキが用意されているが、館内ではビデオテープの貸出は行っていない。その辺にもサービスに積極性がないことがうかがえる。客室は埃が随所に積もっており、清掃状況はあまり良くなかった。また、ベイシンを照らす照明は案内された時点から電球切れしていた。ルームサービスメニューは比較的充実しており、各レストランからのスペシャリテをオーダーできるしくみで、西洋銀座を模しているようだった。

滞在中に、履いている靴の先をどこかに引っかけてしまって、ほんの一部だが皮が剥けたような状態になってしまった。ミラノでやっと探したお気に入りの靴で、とても大事にしていたからショックだった。ボンドがあればキレイに修復できそうだったので、レセプションの係にボンドを貸して欲しいとお願いすると、「ご用意しておりません」といい切られた。仮に、館内のことは個人の持ち物も含め完全に把握しているとしても、他に答え方があるはずだ。

「館内どこにもないんですか?」と念を入れると「はい」とだけいわれた。「ではとりあえず応急処置で糊を貸してもらえますか」というと、「お貸しできる糊はありません」という。だめだ。まったく話しにならない。他の係にこの付近でそれを入手できる店はないかと尋ねたが、探す気がないらしく、わからないと答えられた。「コンビニエンスストアもないんですか?」と聞いてはじめて、それならどこそこにあると教えてくれた。まったく役立たずだ。彼らの首の上20センチには、いったい何が詰まっているのだろうか? この調子でサービスに当たっているのなら、このホテルの将来は見えている。人手に渡る日もそう遠くないだろうし、相当の値引きをしなければだれも来てくれなくなるだろう。

「ザ・テラス」

2階メインダイニングは空調設備の不都合とやらで、半年間のクローズ期間真っ只中だそうだ。開業早々なんともお粗末。仕方なしに、1階オールデイダイニングで食事をした。メニューはフレンチを中心にしながら、エイジアンフードも取り入れたバラエティー豊かな商品構成だ。料理は良い出来映えで、実力を感じさせた。

ワインは初代女性ソムリエの野田宏子氏がサービスに当たっており、彼女の存在が店の雰囲気を引き締めているようだった。料理はおつまみ程度に考えることにし、シャトーラフィットロートシルト'82を堪能した。素晴らしいワインがあれば、そこはいつでも極上の空間になる。

「スプレンディド」

最上階に位置するメインバー。映画をモチーフにした華やかな雰囲気だが、各席はパーテーションで孤立しているので、落ち着いて過ごすことができる。メンバーと宿泊客専用。西洋銀座のG9を気取っているらしい。しかし、チャージ3,000円は高すぎる。宿泊客をバカにしているようだ。ナイトキャップに軽く一杯飲んだだけで、ひとり5,000円を越えてしまう。5,000円のアレキサンダー。やはり高すぎる。

Y.K.