1993.03.31
エキスプレスプレス
神戸ベイシェラトンホテル&タワーズ Towers Suite
喜-2

タワーズマネージャーの出迎えを受け、スムースにチェックインできた。部屋に入るとテーブルの上には大きなフルーツバスケットが。ウェルカムフルーツはあちこちのホテルで常套手段のようにサービスされるが、これほど賑やかなのは見たことがない。なかなかうれしいサービスだ。客室はよく手入れされていて、傷んでいるところはほとんどない。清掃も行き届いていた。

バッグに収納してきたスーツにしわが入っていて、エキスプレスサービスのプレスに出そうとしたところ、最終受付時間を少々過ぎてしまった。チェックインして、すぐに出せば間に合っのに、うっかり忘れていたぼくが悪かった。このスーツは今夜メインダイニングに着ていくものなので、しわのままでは困る。客室係にアイロンを借りようとお願いしたら、ちょうどすべて貸し出し中とのことで、マネージャーに何とかならないか相談してみることにした。

多くのホテルでは、クリーニング関係は外注業者が定時に受け取りに来て、工場で仕上げ、また定時に届けるシステムをとりながら、エキスプレスサービスに限って、ホテル内の施設で対応する場合が多い。すべての行程をホテル内で行うのが一番安心だが、そのサービスを行うっているのは、帝国ホテルやフォーシーズンズなど一部のホテルに限られている。逆にこのホテルではエキスプレスサービスの品物も、外注業者が扱っているのだという。つまり、館内にはクリーニング施設はないというわけだ。

マネージャーは近くのクリーニング店などにも電話で掛け合ってくれたが、結果はNG。じゃぁ、近くの電気屋さんでアイロンを買っちゃおうと思ったが、なぜかみんな休み。貸し出し中のアイロンが入っている客室に電話を掛けてもくれたが、いずれの留守中。留守中ということは、それらすべてのアイロンは、今は使用されておらず、ただ客室に置かれているだけなのだ。

方やこうして必要としている人間の手元にはなく、不要なところで眠っている。なんだか悔しいが、仕方がない。「アイロンの数が少ないのなら、使用後は速やかに回収するようにした方がいいですよ」とだけ言わせてもらって諦めた。仕方ない。今日はしわくちゃのスーツで食事だ。

外出から戻って寝室に入ると、そこにはアイロンとアイロン台が置かれていた。早速マネージャーに電話をして、丁重に礼を言った。多くの場合、お客さんが諦めれば、ホテル側もそれ以上はしてくれず、忘れられてしまう。本来なら、こうした対応こそスタンダードになって欲しいものだが、今の日本のホテル事情では、残念ながらこうしたささやかな親切でさえも、忘れられないほどのエピソードになる。

夜になってバスルームを使ってはじめてわかった。またしてもシャワーブースから水が溢れる。幸いにも、シャワーブースのすぐとなりにバスタブの排水溝があるので、タオルをのり巻きにして、即席のバイパスを作り、水害から守った。深夜だったのでクレームにはせず、チェックアウト時に説明だけした。すると、チョコレートをくれた。ラッキー。

1993.03.31
Birthday
「ラ・コート・ドール」神戸ベイシェラトンホテル&タワーズ
楽-5

友人たちが開いてくれた一週間遅れのバースデイパーティ。その気持ちだけでもうれしいが、「ラ・コート・ドール」だというから、喜びも一層大きい。今回は店の奥に位置するフローリングの半個室にある大テーブルでの食事だ。モダンなデザインのテーブルを生かすために、クロスは掛けずマットを敷いてある。オープンから9ヶ月が経ち、オープン当初から優秀だったサービスがより充実し、料理は一新したにもかかわらず安定して、ものすごい実力の店に成長した。

しかし、心配なのは、フランス料理不毛の地、関西で、本場さながらに塩加減が強烈な料理が、日ごろのお客さんに受け入れられるのかということだ。関西の“おばさま”なら「こんな塩っからいもん、年寄りに食べさせよって、あんたら、どういうつもりなん!?」とガツンといいのけてしまいそうだから恐い。ぜひ妥協せず、本場の味を貫いてもらいたいものだ。

今回も、料理はますます元気だった。アミューズにはチーズをシューで包んだタルトと仔ウサギのレバーのタルト。続くスープが圧巻だった。説明は後でするから飲んでみて欲しいといわれ口にしてみると、軽やかで品のいいオマール海老のビスクという感じ。何だと思います?と尋ねられ、印象のままに答えると、「実はカリフラワーだけしか使っていないんです。お魚のだしは一切加えていません。カリフラワーを長い時間かけてゆっくり加熱してこしらえます」と説明してくれた。このカリフラワーのスープは魔法の料理だ。

次のオードブルは北海道産の帆立貝、ニンジンのソース。ほとんど生の状態で、表面にだけ軽く焼きいろがついている程度だが、本来の甘みが生きており、添えられたニンジンとほうれん草のフライがその甘みを強調させ素晴らしかった。魚料理はマトダイのポワレ、そらまめのソース。いつもながら、皮がパリとしているのに、中の身はふっくらとして柔らかいこと。温度も高く、非常においしい。

メインディッシュは仔牛のモモ肉とリドボー、レバーの取り合わせ。薫り高いトリュフがふんだんに入ったマッシュポテトが添えられている。それぞれ、ソースがとてもクリアーで軽い。だから胃に負担が少ないから、これなら毎日でも食べられる。その後チーズをいただき、アヴァンデセールのバニラビーンズの軽いソルベに続いて、苺のミルフィーユ。更にチョコレートでできたバースデイケーキがサービスされた。ワインはクリスタルとモンラッシェ、それにラトゥール。店のみなさんからは花束までいただき、本当に楽しい晩餐だった。

Y.K.