1993.06.26
助言のないソムリエ
「パストラル」ホテル西洋銀座
楽-3

昼の避暑地のような明るく爽やかな雰囲気とは異なり、夜は照明をしぼってロウソクの明かりを頼りにする。ホテル西洋銀座のパンフレットにある写真のような、優雅なテーブルセッティングを期待して出掛けると、ガッカリするかもしれない。位置皿は花々をあしらった華やかなもので、ナプキンやテーブルクロスは張りのある麻でできており、銀器の手入れも行き届いているので、クラスは感じられるものの、シンプルなセッティングには控えめな印象を受ける。

料理は夏のコース23,000円を注文した。内容はアミューズに続き、冷たいメロンと手長海老のコンソメスープ ミントの香り、フォアグラとアナゴのソテー バルサミコビネガー風味 たっぷりのトリュフを添えて、あわびのエスカロップ グリーンカレーソースとワイルドライス添え、グレープフルーツのほろ苦いグラニテ、鳩のロティ フォアグラと砂肝と共に、ナチュラルチーズ、グランデセール、小菓子、コーヒーという構成。いつも素晴らしい料理を味わえるので、このゴージャスな内容のメニュを見ただけで、おのずと期待も高まるが、なぜか今回はどうしたことかと思うような皿が多かった。

コンソメに手長海老の風味がないのはなぜ? バルサミコ酢に圧倒的に負けてトリュフがまったく香らないのは? あわびにまったく歯ごたえがないのは? など、高級な素材を使えば品質はどうでもいいのかといいたくなるような出来映えだった。それらを質問しようと思うと、給仕はそばにいない。必要な時に必ずそばにいないようでは、高級店とは言えない。サービスは、黙っていても店がやらなければならないことに関してはパーフェクトだ。タイミングも素晴らしい。しかし、お客さんが持っている個々の要求条件を積極的に満たそうとか、付加的なサービスを実現しようと心がけるならば、もっと客席に注意を払ってもらわなくてはダメだ。

ワインリストを眺めながら、あれこれ検討していても、アドバイスは一切なし。我々には必要ないと思ったのかもしれないが、ぼくらは素人なのだから、ソムリエの見識だけが頼りなのだ。品揃えは、ホテルダイニングらしく多岐に渡っており、価格帯も幅広い。また、年代ものは飲みごろのものばかりで、見ているだけで楽しいリストだ。高いレベルにあることを踏まえての苦言だが、一流店では許されないことが今回は目立ってしまった。たまたまであることを祈りたい。

1993.06.26
デリカシー
第一ホテル東京 Junior Suite
哀-1

今年4月にオープンした第一ホテル東京にはじめて宿泊した。ビジネスホテルの草分け的存在として多くのビジネスマンに親しまれてきた新橋第一ホテルが、国際第一級ホテルを目指したエレガントなホテルに生まれ変わった。標準的な客室は32平米で、最新のホテルの水準から見れば決して広いとは言えないが、シャワーブースを設置した広いバスルームや、オーダーメイドのファニチャーなど、贅沢な設備をウリにしている。また、19階と20階に特別階「プルミエールフロア」を設け、よりパーソナルで洗練されたサービスの提供を実現している。

今回は、その「プルミエールフロア」にある64平米のジュニアスイートを利用してみた。ラックレートで80,000円というお値段だ。この客室を予約するのに、なぜか一苦労した。宿泊予約に電話をいれジュニアスイートの予約を申し出ると、スイートの予約はマネージャーの許可がないと入れられないので、確認しており返し電話を入れると言われた。国賓用のスイートを用意してくれと頼んでいるわけでもなく、たかが80,000円のスイートを取るのに、マネージャーの許可とは恐れ入った。結果的には翌日電話があり、希望通り用意できると言われたのだが、予約の度にこのような面倒があるのだったら、よそを利用しようという気になってしまう。

当日は、まず正面玄関で荷物をおろし、駐車場に車を停めて、チェックインのためにプルミエールラウンジに案内してもらった。駐車場は地下だが、リフト式なので出し入れが面倒だ。ドアマン以下皆まだゲストの扱いに不慣れなのか、消極的かつ無愛想な人ばかりで、ホテル全体がこんな雰囲気なのかと思っていたが、プルミエールラウンジでは、若い女性アテンダントが皆感じよく迎えてくれ、不安は吹き飛んだ。

感じはいいが、なにかにつけて「〜のほう」と言うなど、言葉づかいがやや気になった。このラウンジでふるまわれるコーヒーは薫り高くて上質だった。器は大倉陶園だが、スプーンは洋白銀だった。ラウンジ内には蘭の鉢植えが飾られているが、ちょうどエアコンの吹き出し口直下に置かれていて、苦しそうだった。だれもそれに気付いてあげるデリカシーは持っていないのだろうか? 

客室へ案内してくれたアテンダントは、室内の設備について非常に細かく説明をしてくれたが、肝心なことを言い忘れていった。というのは、客室エントランス脇に白いボタンがあるのだが、何のボタンなのか表示がない。リージェントホテルでは、バトラーボタンのある位置なので、不用意に押してバトラーが飛んできたのでは申し訳ないと思い、恐くて触われなかった。ところが、外出から帰ってライトを点けようと思って各照明のスイッチを押してもまったく反応しない。どうしたことかと困っていると、その白いボタンが目に付いた。きっとマスタースイッチなんだろうと、思い切って押してみたら、部屋中の照明が一斉に明るくなった。最初に説明してくれれば慌てずに済んだのに・・・ 

室内のインテリアはきらびやかでどちらかというと女性向きだ。特別階だけは天井が高いので開放感がある。室内はワンルームタイプで、第一ホテル東京ベイのジュニアスイートやザ・マンハッタンのマンハッタンルームによく似た構造になっている。半分がリビングスペースで、もう半分にベッド、バスルームがあり、バスルームにはルーバーがあって、それを開放すると室内との一体感が出る。

リビングスペースにはソファセットと4人用ダイニングセットがあり、客室中央にはライティングデスクが置かれている。家具はオーダーメイドとはいえ、スイートに設えるにしては安っぽく見える。それにひきかえアームチェアは大きくて立派だ。ベッドはハリウッドスタイルで、ベッドサイドにはカウチソファも用意されているほか、大きな人造の観用植物が部屋に彩りを添えている。バスルームはそれほど特筆するほどの造りではないが、スペースは十分に取られている。

トイレは洗浄型ではなく、ベイシンもひとつしかない。また、シャワーブース内の湯温調節ノズルが背中に当たって、温度が変わってしまうことがある。水圧も低くて物足りないし、照明が明るすぎて、夜は困ることがある。引出しが少ないので、長期滞在には向かない。

「ラウンジ21」

21階には高級日本料理店や鉄板焼店と、スカイラウンジがあり、エレベータホールから各店までの廊下はひときわ天井が高く、窓辺にはちょっとひと休みするのに便利なベンチシートがたくさん置いてある。一番奥に位置しているラウンジ21は都会的なインテリアで、ブースのコーナーやカウンターなどいろいろなセクションがあるが、一段低くなった窓際の席が眺めもよくオススメできる。

土曜日の夜だったこともあって、店内は混み合っている上に、テーブル同士の間隔が狭いので、窮屈な印象があったが、サービスは悪くない。すくなくとも昨日の舞浜のホテルに比べれば格段によい。テーブルチャージはなし。ライブ演奏などもなく、メインバーも兼ねているような感じだ。日中はランチタイムを設けており、これがかなりオトクで、近隣のビジネスマンやOLに人気。

日本料理「雲海」

「雲海」といえば、全日空ホテルの日本料理店だが、新橋第一ホテル時代から入居しており、そのまま残っている。昼に4,500円の「縁高」というランチをいただいた。ビジネスエグゼクティブ向けのオーソドックスな内容だったが、炊き立ての御飯がとても美味しかった。その御飯を3杯もおかわりしたあげくに、しまいにはテーブルにお茶碗を落として割ってしまうというとんでもないお客さんを演じてしまった。申し訳なさそうにしていたのに、従業員は非常に冷たかった。もちろん悪いのはぼくだけれど、フォローくらいしてくれたっていいのに。

カフェバー「TRAX」

カラオケルームを付帯したユニークなコンセプトのカフェバーで、昼間は軽食やデザートも提供している。食後のデザートとして、ブランデーのきいたマロンのパルフェとコーヒーのセットを注文した。食器や制服がおもしろいデザインで遊び心のある店だ。バーテンダーは女性だとのこと。店内BGMもポピュラーソングで若い客層を狙ったようだが、果たしてうまくいくのやら・・・

Y.K.