1996.02.17
懐かしい空間
キャピトル東急ホテル Executive Room
楽-3

このホテルは、元東京ヒルトンだったが、1984年にヒルトンが新宿に移転したのを機に、東急ホテルが後を継いだ。一日も休業することなく引き継がれたので、ヒルトンのレジストレーションカードに記入してチェックインし、東急のレシートをもらってチェックアウトしたゲストもいた。以来、10年以上の年月が流れたが、ヒルトンのスタイルはほとんどそのまま踏襲され、東急ホテルの中では群を抜いて国際色豊かな客層に恵まれている。

ヒルトン時代の顧客が、新宿に移らず、そのまま残ったケースも少なかったというから、それ相当の充実したサービスを提供していたのだろう。建物自体も1995年に客室等の改装を行ってはいるが、概ね昔の面影を残しており、一昔前のホテルの雰囲気を存分に味わえる。最新のゴージャズなホテルと比べると、さすがに見劣りがするものの、館内のいたるところで、燻し銀のような、日本的な良さが感じられる。

建物もそうなら、人材もまたそうだ。このホテルには職人気質を持った、昔ながらのホテルマンが多い。ドアマンの出迎えはしなやかで品格を漂わせているし、地下のシューシャインにいたっては、職人芸そのものだ。

客室もまた昔風だ。ヒルトン時代を偲ばせる、窓の障子やクローゼットのふすま。やや暗めの照明。使い込まれた家具。クロゼット内のネクタイ掛けひとつ見ても時代を感じさせる。バスルームは改装後、たいそう立派な、高級大理石張りになったがスペースは以前のままなので、最近のホテル事情からするととても狭いという印象だ。

客室全体としては32平米ほどの面積を割いているので、開業当時の水準を大幅にクリアしているが、バスルームの面積比率は低い。かつてはバスルームがいかに軽視されていたかがよくわかる。新築のホテルだったらこの倍の面積をバスルームに当てるだろうと思われるほどだ。背もたれの高い椅子はとても座り心地がよいが、比較的テーブルが低いことと、冷蔵庫が騒々しいことが難点。

9階、10階はエグゼクティブフロアになっているが、ラウンジを設けているわけではなく、見た限りでは、エレベータホールと廊下の間に仕切りがあることと、アメニティが多少豊富だということぐらいで、特別な付加価値に乏しく、料金の開きを納得させるだけの説得力はない。とりわけ眺めがよいというわけでもないので、スーペリアで十分だと感じた。

夕食はレストラン「オリガミ」でとった。混み合っていたが、カウンター席を勧められて、そこに落ち着いた。この字状になっているカウンターは、中央がサービス人のステーションを兼ねており、さまざまな仕事の様子を眺めながら食事を楽しむことができる。サービス人たちはよく教育されているばかりでなく、率先して楽しみながら、よい仕事をしているように見受けられ、好感度が高い。

料理はバラエティーに富んでおり、セットメニューも手頃な価格だ。カウンター越しに半ばオープンになった厨房を覗くこともでき、忙しく立ち回る料理人の姿を眺めているのも楽しい。店内には高級感こそないが、常連とみられるゲストの姿の多く、ホテルのレストランならではの雰囲気に満ちていた。コーヒーショップとしては、かなりの優良店だ。

Y.K.