1997.02.16
応急処置
ホテルインターコンチネンタル東京ベイ ゲストリレーションズ
喜-5

パスタのオイルを新しいアルマーニのスーツにはねてしまった。胸元にくっきりスポットができている。ホテル内のレストランだったので、直ぐにゲストリレーションズのスタッフにエクスプレスでドライクリーニングに出したいとお願いした。このホテルではどんなに急いでも2時間はかかるのだそうだ。

だが、困ったことに次のアポイントまであと1時間40分しかなく、替の服もない。この汚れた服で仕事に出かけたらどんな印象だろうかと危惧しながらも、もはや諦めるよりないと覚悟を決めた。なのに、ホテルのスタッフは諦めていない。応急染み抜きを持っているスタッフがいないか館内を探し回ってくれる人、ランドリーのセクションに連絡を付け、よい方法がないかアイデアを聞いてくれる人。いつもは静かな午後のクラブラウンジが、にわかに慌ただしくなった。

このセクションのスーパーバイザーをつとめる人もこの騒ぎを聞いて出てきて、汚れたの上着を持って直接ランドリー担当の部署に行き、何とかならないものか相談してくると言い出ていった。待つこと10分。見事に染みが消え、全体に軽くプレスまで掛けてくれている。聞くと、何か特別な薬剤をシュっとスプレーして、トントンとつまんでくれただけだそうだ。餅は餅屋で。

当然、最低でもエキスプレス・ドライクリーニングと同等の料金を請求して欲しいと申し出たが、結局無料にしてくれた。思いがけないことは、いつでも感動もの。でも、どこでもこのようにことが運ぶとは限らない。むしろ、諦めざるを得ない状況になることの方が多いだろう。同じ事柄において、一方で苦い経験をし、また一方で感動的な経験をしたとすれば、どちらの顧客になりたいか、考えるまでもない。今回喜−5にしたのは、スーツの染みが取れたからではない。よい仕事をしている人の仕事ぶりに触れられたからだ。よい仕事をしている人を見るのは、実に楽しい。

Y.K.