1997.10.02
デート用ホテル
ザ・リッツ・カールトン大阪 Club Suite
哀-2

日本で初めてのリッツ・カールトンが大阪にオープンし、大阪駅周辺は激戦区になった。ホテル好きなら一度は泊まりたいと憧れる最高級ブランドのリッツ・カールトンだが、ホテルマンたちにとっても憧れの存在であるらしい。日本全国から大勢のホテルマンが面接に押し寄せたというから、抜擢されたホテルマンたちはさぞかし優秀なのだろうと、出掛ける前から期待が膨らむ。

開業前に準備室の責任者と話す機会があり、「大阪のホテルで導入されているサービスはすべてリッツ・カールトンでも導入します!」と非常に気合が入っていたことも記憶に新しい。今回初めて宿泊するに当たっては、大きな期待を込めて出掛けた。

まず、車で到着すると、バレーパーキングで係りが車を回してくれる。エントランス前もライムストーンが敷き詰められ、落ち着いた雰囲気だ。少々ガサツだが、テンションの高いドアマンに出迎えられ、館内へと入る。

だが正直言ってガッカリした。豪勢に見せかけてはいるが、たいして高級な造りではない。相当予算を削ったような気がする。また往来するお客さんたちが雰囲気を悪くしている。たとえ見物に来るのでも、ロビーに入るのならまともな格好をして来てもらいたいものだ。ロビー階は迷路のようになっているので、初めてだと、迷ってしまいそうだ。逆に慣れればこの複雑さが良くなってくるのだろうが。

チェックインのためエレベータでリッツ・カールトンクラブラウンジへ向かう。キーをささないと止まらないシステムなので、チェックイン時はベルマンのマスターキーで上がる。エレベータはウッドをふんだんに使ったあたたかい感じの造りだが狭かった。到着を知らせるベルの音がとてもノスタルジックだ。

リッツ・カールトンクラブラウンジは非常に広い面積を割いており、このホテルがクラブフロアに半端でない力を注いでいることがよくわかる。着物を着たコンセルジュが出迎えてくれ、チェックインをする。しかしながら、客層が極めて悪い。下品な身なりで知性の感じられない大きな声を出している中年男性が多く、ロビー同様雰囲気がだいなしだ。働く人たちが気の毒なくらいだった。

オープンまもないせいか、コンセルジュたちの言葉づかいが気になった。日本語の勉強をきちんとしないとダメだ。「今日はクルマですか?」と聞かれたが、せめて「今日はお車でお越しですか?」と言って欲しい。駐車料金はバレーパーキング込みで1泊3,000円だそうだ。びっくり。東京の一等地だってそんな値段を取るホテルはない。高級ホテルは概ね駐車料金は無料だ。このあたりから、このホテルのいやらしさを感じ始めた。

客室はクラブスイート76平米。入るとまずリビングがあり、奥にフレンチドアで仕切られたベッドルームと、バスルームがある。それぞれはさほど広くないがとても機能的で、日常的に利用するにはちょうど良い規模の客室だ。リビングにはソファーセットとライティングデスクはあるが、ダイニングテーブルはない。ルームサービスでとトロリーが運ばれてきた時のために、肱掛椅子はふたつ用意されている。

ベッドルームはコーナールームになっていて、大きな窓から非常に開けた景観が望める。照明を落として窓際のカウチソファにもたれて外を見渡すと、空中に浮かんでいるような気分になる。ベッドと寝具はとても上質で寝心地の良さはトップクラスだ。

バスルームは白い総大理石張りで、ダブルベイシン、トイレは扉で仕切られている。もちろんシャワーブースもあるがバスタブにはシャワーカーテンがあり、それも2重で外側はレースの飾りつきだ。アメニティは豊富で上質だしタオル、バスローブも文句無しと、非常に良く仕上がった客室だと言える。入口脇のコンソールには焼き物のキャンディーケースが置かれ、中には本当にキャンディーが入っている。こうしたちょっとした演出が上手い。

しかし、客室清掃状況はあまり良くなかった。まずつやのある素材の家具にたくさんの手垢が付いていた。また、ティーバッグやランドリーバッグなどの置き忘れがあったり、バスタブが清潔に清掃されていなかったなど、不十分なところが目立った。夕方のメードサービスは、ただベッドカバーを外し、氷を運んでくるだけで、タオルの交換などは行わない。これでは1日2度のメードサービスとは言えないだろう。また、ランドリーはオーバーナイト仕上げがなく、都市型国際高級ホテルとしてはお粗末だと思った。良かった点は、客室係の電話対応の印象だ。それは極めて素晴らしいものだった。

クラブラウンジでは、1日5回に渡り朝食から夜のデザートまで無料の料理と飲み物を楽しむことができる。今回はすべてのレストランを利用する目的があったので、ラウンジの飲食物はあまり楽しめなかった。席数も十分にあるし、バトラーやシェフまでが出てきてサービスに当たっているのは、非常に充実したレベルにあると言える。

今回の滞在中に、ルームサービスを含むすべてのレストラン・バーを利用した。料飲施設全体の印象は、宿泊のコストパフォーマンスに比べて非常に割高感があるということだった。駅前の立地で宿泊客以外の需要を大きく見込んでのことだと思うが、レストランの料金はこの近隣でいちばん高いのではないだろうか。宿泊の場合は、クラブフロアを利用し、ラウンジで提供されるものでおなか一杯にするのがいちばんオトクだと思う。

ところが、仕事等で宿泊している場合、人と会ったりしなくてはならないことも多いし、その際食事を伴なうケースだって多いわけだ。外来のゲストとラウンジを利用するわけにはいかないから、結局レストランを利用することになるが、そういう仕事がらみで利用する場合にはこのホテルよりも帝国ホテルや阪急インターナショナルの方が安心だ。ここのレストランはせいぜいデート止まり。オフィシャルで使うと、とんだ恥をかくかもしれない。

中国料理「香桃」では、まず席に付くと「おすすめメニュー」を渡される。昼で8,000円というコースのみしか載っていない。他にメニューはないのか尋ねて、初めてグランドメニューが出てくる。これではよほど8,000円のコースを押し売りしたいとしか思えない。また、店内で大声で携帯電話を使っている人がいた。こういう人に限って着信音も大きい。そして頻繁に掛かってくる。少しでも気遣いを見せてくれればガマンするが、あまりにも非常識だったので、従業員に注意してくれるよう頼んだが、何もしてくれなかった。

シーフード&フレンチ「ラ・ベ」はゴージャスな雰囲気だが、狭いスペースに席を詰め込み過ぎて窮屈だ。演出の仕方によっては非常にエネルギッシュで活気付いた感じになると思うが、実際は落ち着かない雰囲気だった。それは、サービス人の動き方によるところが大きい。埃を立てながら、街場のカフェでのサービスのように慌ただしく席をぬって動いている。無駄な動きが多いのと、動作が洗練されていないからこうなる。会計を頼もうと視線を送るが、だれもこちらを見ていない。テーブルのすぐ横を通る人でさえ見ていない。ファミレスのウエイトレスだってもう少し気が利いているだろう。

地中海料理「スプレンディド」の一角に「カフェ」がある。まるでウェイティングコーナーのような雰囲気だが、サンドイッチやパスタなどの軽食を扱っている。しかしコンセプトが半端なので、そのうち他の業態に変更するだろう。その他の店舗は話題に上げるまでもない。ルームサービスも同様、高級ホテルのインルームダイニングとしては、笑いが出るほどの粗末な料理だった。

期待が大きかったので、それを裏切られて「哀」。

2001.05.07
近くて遠いホテル
ザ・リッツ・カールトン大阪 Superior Room
楽-3

アメニティ

久しぶりにリッツ・カールトンに滞在した。この周辺も開発が進み、ハービスとJRに挟まれた以前は空き地だった場所にもリッツ・カールトンと同じくらいの高さのビルが建っていたが、これらのビルが一部の向きの客室からの眺めを大いに阻害しているようだ。せっかくリッツ・カールトンに滞在しても、わずか道路一本隔てた目の前に隣のビルがそそり立っていては興ざめだろう。

だが、今回の部屋は中之島方面を望む一室で、幸い見晴らしは比較的良かった。客室はスーペリアルームでもゆったりした造りで、一人での滞在には十分な広さだ。インテリアはリッツ・カールトンらしい落ち着いたテイストでまとめられている。アメニティは非常に充実しており、見た目にも華やかだ。ただ、同じパッケージに入っていても、石鹸のクオリティは以前にくらべて低下した。

チェックインの対応はスムースで、スタッフはテキパキしていて愛想もよく、なかなか好感がもてた。1階のショップは、ホテルのロゴショップとしては品揃えが充実しており、炭せっけんや香りの良いキャンドルなどの少しめずらしい品物もあって、店の中を眺めているだけでもなかなか楽しめる。

無料で利用できるプールは、レーン1つが「会員専用」となっていた。リーガ・ロイヤルのように混雑しているプールならともかく、こんな閑散としたプールで会員専用レーンを作る意味がどれほどあるのかは不明だが、たまには混雑することもあるのだろうか。

朝食には和食でもとろうかと思い、5階レストランフロアの奥にある「花筐」に行ってみたが、その日は1階の「スプレンディド」で和朝食も供しており「花筐」は朝食営業をしていない旨が入口に掲示されていた。これをみたとたん、和朝食を食べようという気持ちはすっかり萎えてしまい、仕方なく外に散歩に出た。朝の梅田の街を一回りした後、「スプレンディド」で朝食をとったが、ビュッフェあり洋朝食ありのレストランで和朝食を食べる気もしなかったので、アメリカン・ブレックファストを注文した。これはとくに可もなく不可もないといった程度のものだった。

空港バスの一部はこのハービス大阪を発着地にしているが、実際のバス乗り場は梅田寄りの旧ホテル阪神跡にあり、リッツ・カールトンから歩くには少し距離がある。これはJR大阪駅からでも同じだが、リッツ・カールトンは、歩くには少し遠く、タクシーに乗るにはあまりに近すぎるという、いかにも中途半端な距離にあって困る。

バス乗り場にはリッツ・カールトンへの直通電話が設置してあり、荷物の多いときなどにこの電話で呼べばベルマンが荷物を持ちに来てくれるようだが、ホテルからバス乗り場に行くときには違うらしい。この日はチェックアウト後空港行きのバスに乗るつもりだったので、会計中に荷物を持ってくれたベルマンの「この後はどのようにご出発でしょうか」という問いに空港行きのバスに乗るつもりだと答えたところ、それではこちらでといってフロントの前で荷物を返された。

ハービス大阪のバス乗り場はおろか、ホテルの出入り口まで見送るつもりもないようだ。別に驚きはしなかったが、少しがっかりしたことは否定できない。終わりよければすべて良しというが、逆に最後の印象がよくないと、滞在全体の印象が輝きを失うものだ。

昼の室内 ライティングデスクとアーモア

2001.12.02
見えないチカラ
ザ・リッツ・カールトン大阪 Superior Room
楽-3

正面玄関ではなく、JR大阪駅方面から徒歩で到着したのだが、フロントの近くまでくると、すぐにベルガールが気付いて荷物を受け取り、フロントカウンターに案内してくれた。そこまでは実にスムーズにことが運び、さすがだなと感じていた。

しかし、それもつかの間。フロントには都合3箇所で手続きができるようになっており、その3箇所あるうちの両脇の2箇所で、2組のゲストがそれぞれフロント係と対面しながらチェックインをしていた。ベルガールに案内されたのは、空いているカウンター中央だった。そこには係が不在だったので、しばらく待つことになった。

程なくしてカウンター左側が空いた。すると、係は顎を突き出し、気取った仕草で「こちらへどうぞ」と言った。係が一歩横にずれれば済むところを、ゲストの方を動かしてはばからないところからして、はなもちならない。心のどこかで客を客と思っていないことの顕れだと思われても仕方のない行為だ。もし、システム上の都合かなにかで、係が移動できない状況にあるのだとすれば、もっと謙虚で丁重な態度で臨まなければならない。だが、文句をいうとあっさりと移動してきたので、それが難しい状態ではなかったようだ。

すっかり気分を悪くしてチェックインを終えたが、その後はすべてが快適だった。客室のメンテナンスや清掃状態は、実に素晴らしかった。若干の汚れはいたしかたないと思っていた窓ガラスでさえ、ピカピカに磨き上げられていた。ベッドサイズは180×205センチ。客室天井高は265センチある。品のよい照明器具は、すべてスイッチが独立している。調光ができるのはナイトランプだけだが、オン・オフで雰囲気をコントロールできる。

バスルームは10平米に迫る面積を割き、白の大理石を基調に仕上げたゴージャスな空間だ。十分に足を伸ばせるバスタブや、高い水圧が心地よいシャワーブース、独立したトイレ、豊富なアメニティが並ぶダブルベイシン、肌触りのよいタオルやバスローブなど、設備も備品も非常に充実している。

入浴を終えてさっぱりしたところで、なにかルームサービスでもと思いメニューを見ると、美味しそうな料理がバラエティ豊かに並んでいる。ところが、メニューに記載された料金のほかに、デリバリーチャージ280円、サービス料13パーセント、税金が加算されるとあって驚かされる。例えばアメリカンブレックファスト3,600円を1人前注文すると、実際の会計では4,500円を超える額となる。このホテルの朝食のレベルに、その値段の価値を見出すのは難しい。

チェックアウトの直前、ランドリーから仕上がって戻っていたシャツを着ようと、包装をほどくと、驚いたことに出す時には明らかになかった汚れが、斑点状にシャツのいたるところに付着していた。爪で軽く擦ってみると剥がれ落ちる汚れであったが、数が夥しいのでひとつひとつ対処している余裕はなかった。客室係に電話をいれ、責任者に客室まで来てもらい、現物を見てもらうことにした。

客室に来たハウスキーピングのマネージャーは、とても感じのよい女性で、しかも頭がよかったおかげで、話はスムーズに運んだ。預かった衣類をこのような状態にしながら平気で返してくる業者に対してどうするのかは、ホテルの裁量にかかっているわけだが、ホテルに直接の責任はないのだから、ここで客室係相手に文句を言っていても始まらない。彼女はできる限りの対処をする姿勢を見せていたので、こちらもそれを信じて任せることにした。

ひとたび事務所に戻った彼女から電話が入り、改めて仕上げて届けるまでに2〜3時間が必要だとのことだった。それまで客室をこのまま利用できるようにしてあると言ってくれたが、45分後には人と外で会う約束があったため、結局一度チェックアウトをして、用事が済んでからもう一度、シャツを受け取るためにホテルへ戻ることにした。

もし、彼女の態度が最初から横柄だったり、最善を尽くす努力を見せなかったとしたら、こちらは一歩も譲る気になれなかったと思う。善処する人の姿を目の前にして、それ以上を求めることはできないだけでなく、一層の信頼が湧き上がってくるものだ。

このホテルでは、見えないところで働く人ほど、スキルが高いという印象があった。

Y.K.