1999.06.03
銀座ならではの風格
「レカン」銀座
喜-5

9年ぶりに「レカン」へ出掛けた。店内は改装されたと聞いてはいたが、赤やゴールドを基調としたオープン当時からのテイストはそのまま残っており、多少こぎれいになったなという印象を受けただけだった。銀座通りの雑踏から扉を押し開くと、赤い絨毯敷きの階段があって、途中の踊り場で180度回り込むと、階段の下で出迎えるメートルドテルの姿が目に入り、彼の立ち姿を見るだけで「高級レストランに来たな」という気分にさせてくれる。

名前を告げると一見コワモテなメートルの表情が自然な笑顔に変わり、恭しくテーブルへと案内してくれる。この日、テーブルについてからのサービスは、終始一貫して見事な連携プレーで、不満や疑問はなにひとつなかった。

昼のコースは5,000円(オードブル+魚or肉+デザート)、6,000円(オードブル+本日のスープ+魚or肉+デザート)、8,000円(オードブル+魚+肉+アヴァンデセール+デザート)があり、オードブルとメインディッシュには選択肢が用意されている。12,000円のフルコースはシェフのお勧め料理で構成されているようで、係りが説明すると書かれていた。もちろんその他にアラカルトがある。

シャンパンを飲みながら、料理をどのようにしようかと悩んでいると、我々が昼コースよりもアラカルトメニューに興味を持っていることを察してか、季節のスペシャリテが書かれた差込メニューを「よろしければこのような料理もご用意できます」と手渡してくれた。さらにそのメニュー以外にも同じ素材を使って別の調理法が可能だと、細かく説明をしてくれた。

アドバイスにしたがって、オードブルとメインディッシュの2皿を注文した。ワインのリストは圧巻で、充実した品揃えを誇り、年代物についてはお値打ち感がある。ハーフボトルのみのリストが用意されているが、こちらから尋ねない限り進んで持ってくることはないと思う。

ぼくもワインはたくさん飲めない方なので、ハーフボトルの存在はありがたいが、グランメゾンにおいては、ハーフボトルのリストを用意しているにしても積極的に差し出すべきではないとも思っている。ぼく自身、グランメゾンでハーフボトルを頼むのは邪道だと考えている。

オードブルは旬の野菜が多種盛りだくさんに入った煮込みにフォアグラとトリュフを添えた一皿。個人的には野菜の甘味が出てくるまでじっくり火を通したものが好みだが、青くささや歯ごたえを十分に残したこの料理は、野菜の新しい味わいを発見させてくれた。メインディッシュまでの間、少々時間があいたが、カルティエの飾り皿を置きながら、「お届けまでもう少しお時間を頂戴します」とそっと一言。そもそも時間の掛かる料理を注文したのだから、待つ用意は十分にあったが、このように一声あるだけでも、ありがたく思う。

南瓜の種が入ったパンを食べながらおしゃべりに興じていると、メインディッシュが運ばれてきた。アラカルトならではの迫力ある料理は、めいめいが好みで注文した品すべてが目の前でゲリトンサービスされ、その見事な腕前を見ているだけでも十分に楽しかった。

ぼくが注文した羊の岩塩包み焼きは、ミネラルたっぷりのマイルドな塩味が深くまでしみ込んで、ソースなしでも十分に美味しくいただける味だった。キャベツに包まれたフォアグラが添えられ、シラップ漬けにしたアプリコットとチーズ風味のピュレと共に、よいアクセントになっていた。

デザートは、ワゴンに乗った各種ケーキの他に、スフレ状のレアチーズとマスクメロンのスープ仕立てがアラカルトであると案内されたので、マスクメロンのスープ仕立てを注文した。不評のケーキワゴンに比べて非常に高価だったが、グランメゾンでの食事を締めくくる一皿としては、こちらの方が相応しいと感じた

アラカルトで注文したので、アミューズがあり、食後のコーヒーはダブルソーサーで提供され、小菓子が出た。この小菓子が実に美味しかった。また、コーヒーのおかわりも、飲み終わる頃には用意が調っており、新しいカップを持って「もう少しいかがですか」と勧めてくれる。タイミングや物腰もパーフェクトだった。化粧室は改装され清潔だが、タオルの用意はなく、ペーパータオル。小菓子を乗せた銀盆は、洗ってから濡れたまま放置しておいたのか、スポットがたくさんついており、それだけが残念だった。

Y.K.