1999.07.04
斜陽
第一ホテル東京 Superior Room
哀-3

滞在中に出会った従業員たちは、みな礼儀正しく謙虚でにこやかと、気持ちのいい人たちばかりだった。特に若い従業員の努力は賞賛に値する。だが、何というのだろう、カッコよく決まらないのだ。一生懸命なのはわかるが、ことがスマートに運ばない。少なくとも気持ちが伴なっているから、決して不愉快に思うことはないし、こちらも進んで協力しようという気になるのだが、時には気の毒に思うことすらあった。

彼らは「精一杯よい仕事をしたい」と真摯な姿勢を保っているのに、実際にどう行動すればスマートにことが運ぶかを、背中で教えてくれる先輩に恵まれていないようだ。今は自信が持てない表情をしている彼らが、実体験から多くを学んで、颯爽とサービス出来るようになるのを期待したい。

ホテル自体は、名門ホテルだけで構成されるリーディングホテルズオブザワールドに加盟し、超高級路線を狙っている。実際に東京でリーディングホテルズオブザワールドに加盟しているのは帝国、オークラ、フォーシーズンズだけだ。世界的に名が通り定評のあるホテルと肩を並べるには、追いつかない部分がたくさんある。

毎度思うことだが、まず客室メンテナンスが悪すぎる。絨毯の染みも、剥がれかけた壁紙もそのまま。家具や扉は濡れたタオルでサッと拭くだけで真っ黒になるほどだ。大切に管理すれば素晴らしいはずの内装が、無惨な状態になっている。

また、このホテルは場所柄、オヤジ比率が極めて高いホテルだ。だから、昼間のロビー周りもタバコの煙がものすごい。それなのに、内装はどちらかというと女性的で、用意された備品やアメニティーも女性をよろこばせるものが多い。今はどのホテルでも女性客ばかりにターゲットを向けていることが多いが、思い切ってビジネス仕様を追求し、ウエスティンゲストオフィスやインターコンチネンタルビジネスルームなどのように、付加価値の高い客室づくりをしてみたらどうかと思う。

今回利用したスーペリアルームは32平米と総面積は広くないが、バスルームにかなりの力を入れている。石は部分的にしか用いていないが、ペイズリー柄の白いタイルを張り詰めた空間に、真鍮の蛇口やタオルハンガーがアクセントになり、明るくきらびやかな印象だ。アメニティは極めて充実しており、なおかつ高品質だ。石鹸がふたまわりくらい小さくなったのと、シャンプー類のボトルの蓋が金色から透明になったこと以外は、目立った変化はない。

タオルは厚手で刺繍入りの高級品で、バスローブを備える。このあたりは帝国ホテルに負けていない。ティシューやコットンのケース、アメニティのトレー、タンブラーはすべて陶器だ。バニティミラーは仏BROT社製という気の入れよう。バスルーム内ではBGMを聞くことができる。ベッドルームはバスルームに面積を割いた分、比較的狭く感じる。

しかし、110センチにやや欠けるという小ぶりのベッドを除いて、家具はすべて大型サイズ。ライティングデスク上に湯沸かしポットが常備されているのはちょっとダサい。2台あるベッドのうち左側のベッドは、ベッドの下にもうひとつのベッドが収納されており、すでにシーツも張ってあるので、ベッドから引き出して、脚を立てればエキストラベッドがすぐに用意できる仕組みだ。エキストラといっても他の2台のベッドと同等の仕様だ。

ナイトテーブルでは各照明の照度をコントロールすることができて便利だ。通常は常備灯がどこかに用意されているはずだが、この客室はどこを探しても見当たらなかった。ルームサービスは24時間。深夜でも一通りのバラエティが揃う。プレスは基本的に1時間仕上げ。このあたりは国際第一級ホテルとして模範的だと言える。以前は東京タワーの全景が見えていたが、間にビルが建ち、アタマしか見えなくなってしまった。哀。

ベッド アメニティグッズ

「アンシャンテ」

マホガニー調のシックな内装がノスタルジックな雰囲気を醸し出しているオールデイダイニング「アンシャンテ」には、数種類の個性的なセット朝食の他に、豊富なアラカルトが用意されているが、残念ながら朝食券で利用できるメニューには限りがある。入口で朝食券を呈示すると、席では専用のメニューを手渡されることになる。

それでも、単純にアメリカンブレックファストに限定せず、メインとなる皿を卵料理、フレッシュフルーツ、オールブランとバナナなどから選択できるようにしているのは、素晴らしい配慮だ。卵料理は、日本語の記載では「フライ、オムレツ、スクランブル、ボイルの中からお選び下さい」となっていたが、英語の記載によると「Two eggs prepared any style〜」となっている。なら、ポーチドエッグも可能だろうと思って注文してみたが、「こちらからお選び下さい」と断られた。

でも、英語の表現だとAny Styleになっているけれど・・・と言って見たら、「はい、かしこまりました」と一度は聞き入れてくれた。ところが、程なくして奥から戻り、「Any Styleというのは目玉焼きのことなので、こちらからお選びいただきたいのですが」と言う。別にセットの料理でそれがだめなら、追加料金を支払って別にオーダーするのは一向に構わないのだが、ポーチドエッグの作り方を知らないのではそれも話しにならないだろうと思って「シェフはポーチドエッグの作り方を知らないんですか?」と尋ねた。

するとどういうわけか「承知しました」と言って引き下がり、しばらくすると美味しく出来た傑作のポーチドエッグが出て来た。なにも、頑固にポーチドエッグに執着することもないと思われるかもしれないが、いつも習慣になっていることを曲げると、どうもサイクルが狂うような気がしてしまう。このポーチドエッグには選択したソーセージと温野菜が一緒に盛り付けられ、見た目にも美しかった。

その他、ジュース、フルーツ入りヨーグルト、モーニングロール(又はトースト)、コーヒーという構成。コーヒーは酸味の少ないダークローストで、個人的には好みに合っていた。おかわりのタイミングもよい。因みに朝食券なしで利用する場合、アメリカンブレックファストは2,800円。これは東京の最高級ホテルでの標準的な価格だ。テーブルクロスが掛けられたテーブルに、燕尾をまとったメートルに案内されるだけでも、朝から気分がいいものだ。

開業当時年齢層の高かった従業員は、全員若い従業員に入れ替わった。外国人留学生をウエートレスとして採用しているが、マイペースな仕事ぶりで、端から見ている限りでは、あまり役に立っているようには見えなかった。

1999.08.04
ウォシュレット新設工事
第一ホテル東京 Premier Room
楽-3

天井が高いのがわかる

第一ホテル東京の19階と20階は特別階「プルミエールフロア」になっており、3タイプのスイートと32平米のプルミエールツインで構成されている。最高級のプルミエスイートをはじめ、多くのスイートは19階に集約され、20階には主にプルミエールツインがあり、その他プルミエールラウンジとライブラリーを備えている。

眺望としては以前から東京湾や東京タワーを望む南側の方が良いとされていたが、今となっては隣りに建ったビルが目の前に迫る北側に比べ、圧倒的に南側の方が優れている。実際、南側にプルミエスイートが位置しているが、半数以上のジュニアスイートとパレスイートは北向きだ。パレスイートに関しては、ホテルの先端部に位置しているので、東側の眺望も選られ東京湾は望めそうだが、東京タワーを見ることはできないはず。

回利用した客室は19階のプルミエールツインで、この階には3室しかない南側プルミエールツインのひとつだ。この日は20階の全客室をクローズしてウォシュレットの新設工事を行っていた。チェックイン時、騒音が出るかもしれないと予告されたが、実際にはまったく気にならなかった。

客室に置かれた工事日程表によれば、3日にはこの19階の工事を行っており、事実上、このホテルではじめてウォシュレットを利用するゲストという栄誉に恵まれた。以降、7日までに18階から16階までの工事を終える予定だ。19階と20階は階段で結ばれているので、工事の様子を見学しに行ってみた。すると、全客室の扉を開放しながら、作業服姿の工事人たちが静かに作業を行っており、まるで開業前のホテルにいるような雰囲気が味わえて楽しかった。

ついでにプルミエールラウンジに立ち寄ってみたが、一応「営業中7:00〜21:00」という標示があるものの、従業員の姿はなく、デスクの上に「ご用のお客さまはコンセルジュデスクまでお申し付け下さい」といった内容の案内と共に電話機が置かれているだけだ。

以前はこのラウンジでチェックイン・アウトはもちろん、リフレッシュメントやイブニングカクテルのサービスも行っていたが、少なくともこの日は実施されていなかった。チェックインは1階のフロントで行い、3個所の一般営業ラウンジ・バーの中から好みの一店舗で使用できるウェルカムドリンクチケットを一枚だけ添えてくれた。特別階のラウンジを閉じるのなら、ドリンク券一枚などと制限せず、ルームキーの提示で特別階ラウンジと同様のサービスを一般営業ラウンジ・バーで提供するようにすべきだと思った。

ただし朝食の提供は特別階ラウンジで行われており、朝食内容はパンやチーズとフルーツ程度の簡素なものだが、真っ白いリネンのナプキンに大倉陶園の器やERCUISのカトラリーが備わっている。ラウンジ内は14席しかなく、大型のソファや肱掛椅子と低めのコーヒーテーブルが設置されているが、食事には不向きなしつらえだ。

さて、一般客室と特別階客室のもっとも大きな違いは天井の高さで、最高部まで2メートル90センチほどある。外観からでもはっきりとわかるが、天井が高い分窓も大きくなっている。その他、アメニティが以前のままで、ゴールドのキャップや大きいサイズの石鹸や持ち帰り可能なスリッパを備え、バスルーム内の蛇口などのデザインを違えている。靴べらは、以前は全室そうであったはずだが、一般客室がプラスチック製なのに対し、特別階では真鍮製の極めて立派なものを使用している。

また、一般階ではチェックイン時にはすでにターンダウンされた状態だったが、今回は本来のセットアップ状態だった。ターンダウンも実施され、あわせて使用済みのタオルの交換、氷とグッドナイトチョコレートの用意を行う。客室のメンテナンス状態も、一般階よりは良く、サービスや備品のクオリティを含め、全館が総じてこのレベルにあるべきだと強く感じた。

ひときわゴージャスなアメニティ 簡素な朝食

「三田」

第一ホテル東京の最上階21階に位置する「三田」は、会席料理を中心とした贅沢な日本料理店だ。このホテルには日本料理では「三田」の他に、全日空ホテルズ系の「雲海」が2階に入居しており、地階には寿司、焼き鳥、しゃぶしゃぶと、多くの日本料理店を抱え、寿司以外はテナントとして入居している店舗だ。 

テナントの店舗は、直営店とは違った個性を前面に押し出しているが、一方ではホテル内のレストランらしからぬ雰囲気をも生み出している。このホテルに限ったことではないが、テナントレストランも、ホテル内の一施設であるという自覚をきちんと持ってもらいたい。

この「三田」には街場の高級割烹のようなサービスをする女将がおり、圧倒的な存在感を醸し出しているが、その他の女性サービス人は、店構えに似つかわしくない感じだった。この日は遅いお昼を軽く取りたかったので、初めから4,000円の弁当を目当てに21階へ上がった。オーダーストップの15分前だったからか、まもなく閉店だが構わないかと尋ねられたが、こちらも長居をする気は毛頭なかったので快く頷いた。

店内はほとんどが個性豊かな個室になっているが、テーブル席も一部用意されている。格子の引き戸が付いた漆塗りの窓枠に面したテーブル席に案内されると、2組の先客があった。さほど待つこともなく料理が運ばれてきて、黙々といただき、水菓子でサッパリしたところで席を立った。滞席時間は30分程度だっただろうか、約束通り閉店時間には店を後にした。

弁当の料理はひとつひとつ手の込んだものが賑やかに盛り合わさって、目にも楽しいが量的には控えめだ。夜の会席は12,000円からで、昼でも会席は7,000円以上だが、昼定食は3,500円から用意されている。しかし気軽に利用できる雰囲気はない。店のパンフレットを頂戴したが、店内の様子を紹介した写真がいかにも素人臭い感じで、本物の店内の方がずっとステキだ。

1999.08.04
なぜ、そんなに暗いの?
「ビストロ コックアジル」銀座
楽-1

「オストラル」に行こうと思い電話を入れたら満席だった。ではどうしようかと、「シェ・イノ」か「アピシウス」か、はたまた気軽に「マノワールダスティン」かと考えているうちに午後7時を回ってしまい、近くにまだ行ったことのない「ビストロ コックアジル」という店があるというので予約を入れた。気軽に楽しめるビストロを想像して出掛けたのだが、実際にはイメージとは違っていた。

確かに店の構えはくだけた感じで、卓上の真っ白なクロスがなければ、フレンチレストランだとは思えない造りだ。2階にも客席があるようだが、後にも先にもこの日は先客だった一組の女性グループ以外に客の姿は見掛けず、静かな一日だったこともあって、1階の7卓程度しかない小ぢんまりしたスペースの一角に案内された。

低い天井からはハロゲンのスポットが照らされ、比較的明るい印象。壁にはワインケースの銘板がたくさん飾られ、田舎風の雰囲気を演出し、ここが銀座であることをしばし忘れさせてくれる。サービス人はコックコートを着た男性1人と、2人の女性が当たっており、よく気付きはするものの、終始雰囲気が暗くいつまでたっても気分が開放できないまま、食事を続けることになってしまった。

もっと快活に振る舞って、積極的にお客さんを楽しませる方が、こういった店には似つかわしいのではないかと感じた。また、BGMにはオルゴール風の軽やかな音楽を流しているが、オルゴールのCDは大方シーケンサーによる縦割りの音楽なため、不自然な感じがして気持ちが悪い。この音楽もくつろげない雰囲気を作っている一要素だと思う。

メニューはアラカルトで書かれており、コースを注文するならば、これらアラカルトの中から自由に組み合わせて楽しむことができる。品数によってコースの価格が変わってくるのと、選ぶ料理によっては追加料金が必要な場合がある。もっともシンプルな4,000円のコースから、8,000円のシェフおまかせコースまであり、4,000円のコースはコーヒー抜きで3,500円という開業当時の価格でも提供できるとの案内があった。

メニューを眺めながらコースを仕立てて、いざ注文をすると品切れの料理があった。品切れの案内はあらかじめしてもらいたいものだ。でないと、また一から検討しなおさなければならない。さらに、品切れに対して罪悪感がまったくないように見受けられたことも残念だった。

料理の注文を終え、その段になってはじめて飲み物を勧められた。つまり食前酒のサゼッションは行わない。ワインのリストは高級銘柄こそないものの、珍しいものが多くしかも手頃なので随分と迷った。デミも多く用意されているので、今回は白と赤をそれぞれデミで注文した。困ったことにセラがないらしく、赤も白も階段下のスペースに常温で保存してあるため、テイスティング時にはぬるいまま味見をしなくてはならない。

白は氷の中で急速に冷やしてくれているものの、相応しい温度に下がるまでには10分以上おあずけ状態だった。赤については冷やすことなくそのまま注がれるので、口に含む時の温度は30度近くあることになり、いくらなんでもこれではおいしく味わえない。ぜひ小さなセラを設置してもらいたい。

料理は想像よりも力強いフランス料理で、特にソースが良かった。ポーションは比較的少な目だが、塩、酸ともにしっかりと効いているので、満足感は得られる。バケットに添えられたバターは有塩だった。

Y.K.