1999.09.24
ロココミュージアム
江陽グランドホテル Suite
楽-2

ある意味で、このホテルの個性を前にして右に出るものはないだろう。それだけインパクトの強いホテルだった。あらかじめ手にしたパンフレットで、はじめてこのホテル内のインテリアを見た時は、我が目を疑ったほど。外観からはまったく想像し得ない絢爛たる装飾がなされており、このデコレーションは館内の細部に至るまでくまなく貫かれている。ここまで来ると、やれ趣味が悪いの、ケバケバしいのと、口を挟む気も萎えてしまう。ひとことコメントを求められれば、「恐れ入りました」と答えるしかない。

こうした、オーナーの趣味が色濃く出ているホテルは、サービスもそれなりで国際的な水準よりも低いのではないかと想像していたが、実際には行き届いたサービスを提供しており逆に驚いてしまった。到着時、車をエントランスに付けると、ディレクタースーツ姿のグリーターが近寄ってきて、荷物を持ってフロントに案内してくれた。フロントには3名の係が立っており、チェックインタイムより2時間も前であるのもかかわらず、スムースにチェックイン手続きをし、そのまま客室に案内された。説明も丁重で、はじめて利用するにもかかわらず、カードのプリントもデポジットも要求されなかった。

客室へ向かうエレベータは2基のみで、宴会場へ向かうゲストも含めて利用することを考えると明らかに不足だ。2基しかない上に中が非常に狭く、宴会の前後にはいつも待たされることになる。案内された9階のフロアは、まだ清掃が盛んに行われていた。ほとんどの客室の扉を開け放ち、なおかつ客室の窓を開放しているため、外からの空気が流れていてホテル内という雰囲気ではなかった。

客室に入ると、まずはその内装に驚いた。リビングにはロココ調の椅子、シャンデリア、イタリア民芸調のキュリオケースとその中にディスプレイされた陶器の人形の数々・・・ 都会で生活していると、こういうセンスに歓喜の溜息を吐くことはなかなかできなくなるものだとつくづく感じた。調度品に目が馴染んだ頃になると、今度は華美な壁紙や絨毯が気になり始めた。

このスイートはスタンダードツイン2部屋分にあたり、48平米の面積がある。リビングルームには3脚の椅子と低めのコーヒーテーブルがあり、ポットとお茶の道具はワゴンに載って置かれている。その脇にはなんとDVDプレイヤーを装備した最新型のテレビがある。また、エントランス脇には引き戸式のクローゼットがあり、もう一方の引き戸を開けるとミニキッチンになっていて、ヤカンまで用意されている。キュリオケース脇にあるレトロで派手な電話機は、装飾品でなく実際に機能している。ゲスト用のトイレは絨毯敷きなのだが、果たして衛生的なのか確信がなかったので、結局使わず終いだった。

リビングの奥がベッドルームとバスルームなのだが、完全に壁で仕切られているのではなく、仕切りの上部が開口している。一体感がある上に、2メートル50センチと低めの天井からの圧迫感を緩和している。ベッドルームには120センチ幅のベッドが2台入り、ライティングデスクとは別にドレッサーが設けられている。

バスルームはビデを備えるが、シャワーブースはない。大理石はかなり上質なものを採用しており、重厚感がある。バスタブは大きなサイズで、横たわると頭部が包み込まれるようなデザインになっているため、不思議な心地よさがある。シャワーの水圧も十分でマッサージ効果が高いなど、なかなか快適。アメニティは残念ながらビジネスホテルの域で、ポーションのシャンプー・リンスに15グラムの小さな石鹸など、必要最低限だ。トイレットペーパーの質もいまひとつ。タオルは2サイズのみだが、スイートには常に新しいタオルが豊富に用意されることになっているようで、不足はなかった。ただ、新品のタオルは吸水性がよくないのが難点。

ルームサービスは朝食からディナーまで営業しており、中国料理や寿司なども注文できるが、価格設定は比較的高めだと感じた。今回の滞在でもっとも気になったのが、客室内の空気が停滞している感じがしたことだ。この日は晴天に恵まれていたにもかかわらず、客室内は非常に湿っぽい空気が充満しているばかりでなく、全体にタバコと田舎の家屋にありがちな独特の臭いがたち込めていて、寝具の毛布に至ってはその臭気をたっぷり吸着して、それが気になりなかなか眠れなかった。

更に、防音性に欠ける設計で、廊下の音の他、暴走族の騒音が神経を逆なでした。デスクの上には館内の美術品について解説されたアルバムが置かれており、同時にこのホテルの沿革についても知ることができた。美術品に関してはかなり高価な品や、ミュージアムクラスの貴重品も含まれ、それらが惜しげもなくディスプレイされている。

ロビーを改めて見学してみたところ、装飾品ひとつひとつには深い味わいのあるものばかりで、美術館を訪れたと思えば違和感がなかったものの、調和が重要なホテルロビーのデザインとしては、異質な感じが否めない。しかし、地元の有力者には贔屓にされているようで、エントランスにはひっきりなしに、リムジンや高級セダンが到着する。これは東京でさえ、なかなかお目にかかれない光景だ。

リビング DVD付きテレビとワゴン

ベッドルーム 大理石がゴージャスなバスルーム

1999.09.25
金木犀
仙台ホテル Royal Suite
喜-2

庭からの光景

江陽グランドホテルから仙台ホテルまで、徒歩でも10分程度かと思われるが、車ではなんと40分も掛かった。仙台の市街地は道路こそ広くても、立体交差がほとんどない上に、歩行者が優先であるような信号なので、曲がる車はどこでも数台しか通過できないため、随所で渋滞が生じているようだ。その上、駅前の交差点どこも右折禁止、Uターン禁止で、ホテルのエントランスに入るための道に進入することができず、目の前にホテルが見えてから、到着までに更に30分を要した。

更にイライラを増長させるのが、タクシーの客待ちだった。交差点直前で停車して頑として動かないタクシーが多いし、やっと到着したホテルの正面玄関前でもタクシーが占拠し、車を寄せることさえできない。仕方なく数メートル先に停めて、ホテル内にベルを呼びに行かざるを得なかった。このホテルには車寄せがない。ニューヨークのホテルに多く見受けられるよな、エントランスと車道の間に広い歩道があって、ホテルの建物からテント屋根だけが張り出している、あのタイプだ。入口にドアマンでもあっていれば、もっとサマになるのだろうが、現状では銀行の入口とさして変わらない。

駐車場は正面玄関から更に先に進んで、交差点をひとつ曲り30メートルほど前方に位置しており、駐車場内にも車寄せ風のエントランスがあるにはあるが、ベルの助けを借りるには結局フロントまで出向くしかないようだ。正面玄関で荷物を運ぶ手伝いをしてくれたベルは、若いホテルマンの典型のような雰囲気で、思わずテレビドラマの「ホテル」を思い出してしまった。はきはきと快活で情熱があり、一途な好青年がそのまま客室まで案内してくれた。

客室へのエレベータは江陽と同じく2基しかなく、こちらも宴会場へ向かうゲストが多数利用する。江陽よりよくないのは、宴会場までのエスカレータがなく、エレベータか階段を利用するしかない点だ。しかも旧式の小さなエレベータなため、満員の表示が出ていることもしばしばだ。

今回利用したロイヤルスイートは9階エグゼクティブフロアに位置し、このホテルではインペリアルスイートに次いで2番目に高級な客室。最上階の9階でエレベータを降りると、すぐ右脇にゲストリレーションズデスクがあるが、滞在中にスタッフの姿を見ることはなかった。正面にはエグゼクティブサロンがあるが、ソファセット数組と新聞が置かれたラックがある程度で、お茶のサービスがあるわけでもなく、単なるパブリックスペースとしかいいようがない。

エレベータホールからかなりの距離を歩いて、やっとロイヤルスイートに到着するのだが、これは本館の裏手に新館が増築され、それら2つのビルの間が廊下でつながれたカタチになっているためで、少々入り組んだ構造になっている。渡り廊下の部分には、陶芸家の作品が展示されており、価格も明示してある。

本館部分は10年程前に改装され、客室設備もシャワーブース付きバスルームや明るい照明など、モダンなイメージに打って変わったが、新館部分は改装されなかった。ロイヤルスイートは新館にあるので、昔ながらの重厚なインテリアでまとめられている。モダンなインテリアは、最新のホテルに出掛ければ堪能できるが、こうした時代を感じる雰囲気は、どんどん貴重な存在になっていくのでありがたみがある。

エントランスを入ると、まず広々とした前室があり、クローゼット、ミニバーがそこに位置している。深い色調の扉を開けると、リビングとベッドルームが一体になった空間が広がり、横幅一杯に広がった床までの窓から差し込む光が眩しいほどだ。窓際にあるリビングコーナーには、90度曲がった長いソファと、背もたれの高い肱掛椅子があり、その肱掛椅子はロッキングチェアのように緩やかに揺れるユニークな椅子だ。

庭園を眺めながらこの椅子でゆらゆらとしていると、なんとも気持ちがいい。また、窓に向かって独立したライティングデスクが置かれているので、旅の手紙をしたためるには最適。窓は大きく開けることができ、坪庭に出ることも可能だ。他の客室では、浴衣姿のおじさんが風呂上がりに涼んでいる様子が見受けられた。カーテンは電動で、それ専用のリモコンが置かれている。

リビングコーナーの裏側に120センチ幅のベッドが2台置かれており、昨夜とは打って変わって心地よい羽毛布団がとても快適だった。絨毯はオフホワイト系で壁紙もさりげない模様のため、とてもシックで落ち着いた雰囲気。家具調度類は深い色調であるだけでなく、かなり上質な素材でできている上に、メンテナンスが行き届いており、つややかで存在感があった。客室の中央に置かれたエミリオ・ロバのフラワーアレンジも、非常によいアクセントになっている。

天井高は240センチとかなり低めだが、大きな窓と十分な床面積のお陰で、さほど圧迫されている感じはしなかった。バスルームもかなりゆとりある設計で、分厚い大理石を惜しげなく用い、一部天井にまで採用している。入ったところにはまずドレッサーがあり、並んでダブルベイシンが設置されている。その奥にバスタブ、トイレ、ビデがあるが、シャワーブースはない。シャワーブースを設置しても余りある余裕のスペースなのに残念だ。

アメニティは一般的な品揃えの他、大きな備え付けの男性化粧品が置かれ、タオルは3サイズ各3枚あって、バスローブはない。バスタブは大き目だが、カラン、シャワー共に水圧が低く、湯を張るにかなりの時間を要した。洗髪する際にも苦労したが、設備それぞれにかなりの間隔を持たせてあり、非常に贅沢な空間配置で、他では味わえない雰囲気を楽しむことができた。

シャワーを浴びた後に、窓を大きく開け放って坪庭に出て見ると、庭園に植えられた金木犀の放つ香りが鼻先をよぎった。とたんに昔の甘く苦い思い出が脳裏によみがえった。毎年この香りを嗅ぐたびに、もうかれこれ15年も繰り返している。

この渋さが結構落ち着く リビングコーナー

ベイシンとドレッサー バスタブ

「アン・フルール」

本館2階に位置するコーヒーショップ「アン・フルール」には、館内からはもちろんのこと表通りからそのままダイレクトに入れるエントランスも設けられている。店内のインテリアはファミレスそのもので、品揃えも価格もファミレスを意識しているように思える。ところが従業員のサービスは、老舗のホテルらしいしっかりとしたものだった。

メニューには魅力的なセットメニューが多数用意されており、ホテル内レストランとしてはかなり手頃な料金に設定されている。今回注文したのは、プロモーション中のオージービーフセットで、200グラムのステーキにスープ、デザート、コーヒーが付いて2,200円だ。味もロイヤルホストあたりと大差ないが、タイミングよくサービスしてくれるし、水の継ぎ足しやコーヒーのおかわりも積極的に注意を払ってくれるので安心だ。欲を言えば、もう少し店内を清潔に保つ工夫をしてもらいたい。

「フォンテーヌブロー」

格式のあるホテルに宿泊したなら、メインダイニングでの朝食は見逃せない。このホテルでも仙台では珍しく、コーヒーショップの他、メインダイニングでも朝食を提供している。表通りに面した2階のコーヒーショップと、噴水のある中庭を望むメインダイニングを比較すると、ロケーション的には断然メインダイニングの方が、ゆとりのあるいい朝をスタートできそうに感じた。ルームサービスでの朝食も考えたが、次回いつ来れるかわからないホテルなので、レストランも利用しておきたいという気持ちも大きかった。

ランチタイムには2,500円から、ディナーでも5,000円のコースを提供するなど、メインダイニングとしては良心的な価格設定で、朝食もアメリカンが2,300円、和朝食が1,900円と手頃。ゆったりと配置されたテーブルにはクロスが掛かり、布のナプキンが置かれている。天井は比較的高く、大きく取られた窓からは庭園望める。庭園は想像よりも小さかったが、噴水からのしぶきが景観に動きを持たせている。

午前7時を若干過ぎた頃に出掛けたのだが、すでに7〜8組の先客があり賑わいを見せていた。入口で案内を待っているのだが、皆作業に手一杯でなかなか気付いてくれない。やっと気付いてくれたかと思えば、「いらっしゃいませ」とか「おはようございます」と声を掛けてくれるのではなく、早足で通りかかりながら「少々お待ち下さい」と言うだけ。忙しいのは見ればわかるが、もう少しましな対応があろうかと思う。

待っている間、店内を見渡すと、窓際の席がひとつ空いており、そこが眺めもよさそうだった。やっと案内の係りが来たところ、入口を入ってすぐの、いわゆる最低の席を勧められた。「あちらはダメですか?」とやんわりと声を掛けると露骨に困った顔をして、そのままマネージャーに確認をしに行った。そこでのふたりのやり取りは、さほど離れた距離でないのでよく聞こえてくる。別に失礼なことを言われている訳ではないが、心地よいものではなかった。

案内はマネージャーに引き継がれ、ひとこと「どうぞ」と言われ希望の席に案内され、不機嫌そうにメニューを差し出した。この席を使わせてもらうことは、それほど特別なことなのだろうかと首を傾げたくなる。注文を受ける際もぶっきらぼうで冷たかった。

程なくして、隣りの席に外国人がひとりでやって来た。彼に対しては、非常ににこやかに媚びたような感じで注文を聞いている。なるほど、ここは昔の帝国ホテルやホテルオークラのように外国人至上主義なんだと納得してしまった。

料理はなかなかだった。火加減がちょうどよいポーチドエッグ、香ばしいクロワッサン、豊富なジャムやマーマレードなど、充実した内容でサービスのタイミングもよかった。これだけのものが提供できるのだから、もう少し気持ちにゆとりのある、メインダイニングらしいサービスを一貫して保ってほしいと思う。

Y.K.