2000.01.27
ライブと打ち合わせ
「ラ・クール」表参道
哀-3

青山通りから表参道に入って割とすぐの左側、モリハナエビルの数軒先に「ラ・クール」はある。ところがこの店は初めてだと見つけるのに苦労する。それは、店のファサードが「ラ・フロール」というカフェになっていて、「ラ・クール」は「ラ・フロール」から連続したその奥に位置しているからだ。ちょうど、かつて目の前にあった「カフェデプレ」と「ラフェット」のような関係にある。「ラ・クール」に入るには、カフェの右手にある細い廊下を進むとエントランスがあり、あまりお客を歓迎していませんと言わんばかりの不愛想な出迎えを受ける。

案内された席は店の最も奥に位置し、壁を背中にして腰掛ければ広い店内が見渡せて賑やかだが、壁に向って座るとなんとも殺風景だった。しかし、今日はこの店で行われる奥吉聡子のライブ演奏が目当てで来たので、グランドピアノが間近にあるこの席は、特等席のひとつだった。

早い時間に入店したためか、まだ客足も少なく、アトリウム風に天井が高い大空間はひっそりとしていた。建物自体は古びた体育館のようだが、観葉植物を配したり照明を工夫したりして、さながら屋外テラスのような雰囲気を醸し出している。メニューを運んで来た従業員はソムリエのバッジをつけており、やわらかい笑顔を湛えていたが、どことなく暗い印象をテーブルに残していった。他の従業員にも全体的に覇気がなく、世の中の不景気を嘆く呟きが背中から聞こえてくるようだった。その上、気は利かないし、目も行き届いていない。

ビニール製のテーブルクロスは、前のお客が席を立った後、本当に拭きあげたのか疑わしいほど、パスタやパン屑などで汚れており、前のお客のオーダーを当てることさえ出来そうだった。料理やワインはそれぞれ控えめな価格ではあるが、実際に運ばれて来たものを味わってみれば、「妥当」と思うか「やられた」と思うかのどちらかで、「これはこれは!」と思わずにっこりしたくなるような品にはお目にかかれない。

「愛情たっぷりの自家製パン」とあれば、素朴ながら噛むほどに味わいが増す焼き立てのパンを想像したが、それは干からびて不思議な味のするパンだった。「自家製手打ちパスタ」とあれば、引き締まった絶妙の舌触りを楽しめるかと思いきや、スープを吸いきったインスタントラーメンのようだった。

われわれとグランドピアノとの間にもうひとつ席があり、音楽目当てに来たのなら願ってもない最高の席だが、そこに案内されたのは、結婚式の二次会の打ち合わせを目的とした4人の男女グループだった。演奏中、彼らは周囲に気を遣って打ち合わせになっていなかったようだが、彼らにとっては、音楽鑑賞よりも打ち合わせがメインなのだから、意向を聞いてそれにふさわしい席に案内した方が、より親切だったろうと思う


更に、キャッシャーの前には、現金払いの場合はサービス料が加算されないが、カードで支払う場合にはサービス料を10パーセント加算する旨が表示されていた。その理由は、店では仕入を現金で行っているからだとしてあったが、どうも説得力に欠ける話だ。

Y.K.