2000.04.29
ラストスパート
銀座東急ホテル Deluxe Room
喜-3

メンココースターとキリンマドラー

古きよきギンザのホテルとしてこれからがいよいよ楽しみだと感じていた矢先、2001年1月18日正午を持って、40年以上続くこのホテルの歴史にピリオドが打たれることが報じられた。ひとつの時代を築いて来たホテルだけにショックだった。新しく機能的なホテルにはマネのできない落ち着きとあたたかみを持った老舗ホテルは、おじいちゃんの家に旅するような、郷愁にも似た癒しを与えてくれる。今まで足繁く通うことはなかったこのホテルだが、失われると思うと急に出掛けたくなった。

普段はビジネスマンを中心としたゲストが活気を放っているが、ゴールデンウイークは比較的稼動が低くなると聞いていたので、ゆとりのある雰囲気になるのかと思いきや、客層がガラッと変わるせいだろうか、人の数のわりには賑わった空気が流れている。しかし、サービス陣は気を抜いていなかった。到着から見事な連携で、ドアからベル、ベルからフロントへと、この上ないスムースさで事が運んだ。

残念ながら過去の経験から、東急ホテルズのサービスには出来不出来があるといわなければならないが、よい時は鮮やかなマジックショーを見ているような手際良さだ。サービスに大きな情熱を注ぎ、もてなすことを自ら存分に楽しみながら快活に働く若いホテルマンが、このホテルには少なくともひとりいる。サービスにすべてを賭けた優秀な若者がホテル閉館後、路頭に迷いはしないのだろうかと気懸かりに思った。

そんな彼が案内してくれた客室は、廊下からわずかながら奥まったところに位置するデラックスルームだ。前回利用し、あまりの狭さにビックリしたスタンダードルームに比べると、倍の面積はあろうかというほどのゆとりを持ち、大学教授や文豪が好みそうな重厚感のあるインテリアに仕上がった客室だ。窓際のシッティングスペースにはソファとオットマン付き肱掛椅子、独立した大型のライティングデスクが置かれ、スタンドが計4つあり明るい環境が整っている。

ベッドは120センチ幅のものが2台入り、ふかふかの羽毛布団が掛かっている。クローゼットはかなり広めのウォークイン型で、ミニバーもクローゼット内に設置されている。歌舞伎役者と富士山をデザインしたメンコのようなコースターと、キリンのかたちをしたマドラーが実にユニーク。お茶ケースの中にはキャンディーも用意されていた。

バスルームはアウトベイシンになっており、ベイシンのスペースがかなり広く取られている。ベイシン部分の床にはカーペットが敷かれていて、天板は厚い大理石でできている。バスルーム内は白いタイルが張り巡らされている点はスタンダードルーム同様だが、広さには相当の差があってゆったりしている。アメニティにもかなりの格差があり、グレードの高い化粧品などが数多く用意されていた。バスローブとパイル地スリッパも、スタンダードルームには見られなかったアイテムだ。

もし、ビジネストリップなどで日中ほとんど客室を利用せず眠るだけならばスタンダードルームも悪くないが、客室内で多くの時間を費やしくつろぎを視野に入れるのなら、このクラスの客室を利用する方が正解だ。しかし、ラックレートの設定は45,000円と高いこと、宿泊プランなどで利用できるカテゴリーではないことを考えると、利用する機会はあまり巡ってこないかもしれない。

寝心地抜群のベッド シッティングスペースにはオットマン付き肱掛椅子もある

独立型ライティングデスクで社長ごっこもいいかも スッキリシンプルなバスルーム内

2000.05.04
ひとりの空間
キャピトル東急ホテル Executive Single Room
楽-1

幅の狭いシングルルーム

一日中忙しく動き回り、深夜になってひとり戻るシングルルームには、誰にも邪魔されないパーフェクトなプライバシーと、あますことなく使い切れる集約された設備があればいい。たとえそのホテルでもっとも狭くても、もっともグレードの低いカテゴリーでも、ホテルの有するほとんどすべてのサービスを高級な客室と同様に利用することができるから、たいして設備もなくサービスもないビジネスホテルの広めの部屋に泊まるよりはずっと快適に過ごせるような気がする。たとえ眠るだけと割り切っていても、24時間いつでもフロントに係が常駐し、厨房の火も落とすことなく構えていてくれるホテルの方が心安らぐ。一般的にビジネスホテルに比べてシティホテルはアメニティも充実しているし、TVプログラムの内容なども豊富だ。

キャピトル東急ホテルのシングルルームは、ひとりで数日過ごすのに丁度いい空間だ。客室の奥行きはツインやダブルと同等で、幅だけが3分の2程度になっており、26平米と古いホテルのシングルルームとしては広めだといえる。壁に向ったライティングデスクと、窓際の肱掛椅子、入口方向に枕を向けたベッドと、その後ろの襖クローゼットで構成されており至ってシンプルだ。ベッド幅は120センチとツインルームのベッドひとつ分と等しいが、ひとりで思い切りくつろぐにはぜひ140センチは欲しいところ。

バスルームは総大理石張りだが驚きの狭さで、特にシンク回りが窮屈だ。しかし石張りのバスルームには不思議な癒し効果があり、狭い割にはリラックスできる。今回は改装済みの客室をリクエストしたが、あいにく満室で、上層階のエグゼクティブフロアを利用した。

以前も触れたがエグゼクティブフロアといっても、ラウンジがあるわけでも朝食サービスがあるわけでもなく、タオルに刺繍を入れる程度で料金差を埋めるだけの説得力があるのかが疑問だ。以前は家具がちょっとばかり重厚なものを使っているというのがウリのようだったが、改装済みフロアの方が家具のセンスもよく、よほどオカネを取れる内容だと思う。今回はスタンダードからのアップグレードだったので感謝しているが、正規料金だったらちょっと悲しかったかもしれない。

枕元にはクローゼットがある コンパクトながら石張りのバスルーム

欧州料理「ケヤキグリル」

フォトグラファーの會澤氏と一日行動を共にして、すべてのスケジュールを終えたのが午後8時を回っていた。ステイ先のキャピトル東急ホテルに到着したのが午後9時。食事ができるのはすでに「オリガミ」だけだろうと思っていたら、會澤氏が階段でタイミングよくであった「ケヤキグリル」のマネージャーと親しそうに挨拶を交わし、結局ケヤキグリルにどうぞと招き入れてもらえた。もうラストオーダーすれすれの時間で、店内にはデザートを終えようとしている先客が一組残っているだけ。「何だよ今ごろ・・・」と心の中でつぶやかれても仕方がないようなシチュエーションであったが、すべてに手抜きはなくとてもよい食事を演出してくれた。

食前酒に注文したグラスのシャンパンは、閉店直前にもかかわらず、新しいボトルを抜栓してくれ、メニューを検討する時間も十分に与えてくれた。ちょうどゴールデンウイーク中で、普段よりもリーズナブルなプリフィックスコースが用意されており、厨房の手間を省くことも考え、全員そのコースを注文することにした。そのコースは前菜からデザートまで数種ずつ用意されているもののなかから、好みに合わせてチョイスするというもの。メニューには全体的にオーソドックスながら、手を抜けばすぐにばれてしまうような、ある意味では恐い料理が多く並んでいる。

この店に通いなれた會澤氏の言葉を参考に、エスカルゴやローストビーフなど、伝統的な料理を中心としたチョイスで注文を済ませた。その後は状態のよい料理がタイミングよく提供され、さりげない会話などにももてなしの気持ちが込められていた。店内のインテリアは、照明をぐっとおさえ、卓上のキャンドルを最大限活かしており、かなり懐かしさを感じさせる雰囲気だ。若い世代にはあまりありがたがられない内装だが、その昔パパやママが憧れたレストランだと考えれば、一度足を運ぶ価値はあるかもしれない。サービスには、キリっとした折り目正しさがあり、フレンチレストランとはまた一味違った雰囲気が楽しめる。日本における外資系ホテルレストランの原点とも言える店だけに、いまだにその伝統がきちんと守られているようだ。

會澤氏は幼少の頃からご両親に連れられ、この店での食事を楽しんでこられたとのこと。今日のこうした素晴らしいおもてなしとお料理には、その長いお付き合いで培って来たものが、少なからず作用していたに違いない。

2000.08.05
3つのできごと
キャピトル東急ホテル Superior Room
哀-1

デザイン性が高いキャビネットが印象的

新しく改装になったスーペリアルームは、明るいモダンな雰囲気と和の落ち着きを見事に調和させた機能的な客室だ。ところが長年住み慣れた家を建て替えるのと同じで、使い慣れた前の客室を懐かしんで「以前の方がよかった」というゲストの気持ちもよくわかる。やはりキャピトルはキャピトルのままであって欲しいのだろう。改装が進めばリフレッシュはできるが、それと同時に長年培って来た風格や落ち着いたムードが損なわれるのは避けられないようだ。

それが、今回新しい客室を利用してみてよくわかった。新しいスーペリアルームはバスルームを除くほとんどすべてが改装されており、明るい照明、デュベスタイルのベッド、独立したドレッサー、大きなライティングデスク、使いやすい位置にあるインルームファックスなどなど、多くの機能がスッキリとまとまっており、ごちゃごちゃした印象がまったくない。いままで通りカーテンがないことも、よりスッキリした印象を大きくしており、どちらかというと男性的なイメージ。使えば使うほど利用しやすい客室だと思うし、実際とても快適なのだが、今後改装が進めばいずれは全館このスタイルの客室になってしまうのだろうから、古いタイプの客室が利用できるのも今のうちだと思うと、どちらを利用したいか悩むところだ。

ただ、改装が済んでも、壁の薄さや比較的湿気がこもりやすいことなどは改善されないだろうから、今はそれが古さとあいまって許せても、最新の客室ではそれらのマイナスポイントが印象にもっと大きく影響するかもしれない。それでも、少なくとも新しいうちに一度泊まってみる価値は十分にある客室だ。

それはさておき、今回は3つのできごとを通じて同じホテルで働く人でさえも、考えや感覚に大きな差があることを深く考えさせられた。まず一つ目のできごとは日中にフロントに預けたものが紛失した事件だった。ぼくの留守中に届け物があり、届け主はフロントに預けたとぼくに伝言を残してあった。コンサートを終えて夜遅くにホテルに戻り、その届け物を受け取ろうとフロントに立ち寄ったが、どう探しても何も預かっていないとのこと。ベルやクロークなど、他のセクションにもしつこく尋ねてみたが出てこなかった。届け主が勘違いをしているのかも知れないし、すでに気を利かせて客室に届けられているのかもしれないし、とにかくフロントにはないという前提であちこち探し回ってみた。

ところがどう考えてもフロントのどこかにあるとしか思えない状況だったので、再度フロントに行って、間違える可能性のある客室番号の組み合わせを次々に言いながら、その客室宛にメッセージや届け物がないか調べてもらった。すると、似たような客室番号宛に同内容の届け物があり、預かった係が部屋番号を間違えていたことがわかった。届け主は間違えのないよう、部屋番号と宿泊者名を係が復唱するのを確認したというのだから、落ち度はフロント係にあった。

さんざんたらい回しにされやっと見つかったのにフロント係はひとことも詫びず、当然という顔をして受領書にサインを求めて来た。ぼくは手違いやミスには腹が立たないが、そのような無神経は許し難いと考えている。そこで「私どもの手違いでお疲れのところ大変ご迷惑をお掛けいたしました。」とおそらくサービスが好きでその仕事に携わっている人間なら自然に沸き上がってくるはずの気持ちを、さりげなくでもいいから素直に言葉にさえしてくれれば、笑い話で済ますことができるのに、ちょっとした無神経が事態を複雑にしてしまった。しかし、冷たく受領書を突き付けて来た係も、何がいけなかったかをきちんと説明したらよく理解を示し、自分の非礼を詫びた上に、その夜のうちに直筆の手紙をしたため、部屋の扉の下から届けてくれた。

二つ目のできごと。これが一番後味の悪いものだった。この夜は結局届け物が見つかったあと、朝まで仕事に追われ、寝る間もなく朝食をとりに行くハメになってしまった。朝食後、やっと一段落付いたところで少し仮眠しようとベッドによこたわると、突然階上からドリルの凄まじい音が響いてきた。それは電話で相手の声が聞き取りにくいほどの音量で、とても眠れるなどというレベルのものではなかった。だが、これは寝耳に水の話しではない。ちゃんとチェックインの際に階上で改装工事が行われているため、騒音が発生する場合があると案内されていた。そして、騒音が気になる場合にはご遠慮なくフロントまでお電話をどうぞと言われていた。

あまりの音にこりゃかなわないと思って、案内された通りにフロントに電話をして相談してみたが、悲しくなるような返事だった。こちらの事情を説明し、すこし休みたいから可能ならばちょっと予定を変えて遠くの部屋から工事するとか、ドリルを使わないものから取り掛かるとか、なにしろ工事箇所の真下でこれから眠ろうとしている客がいるということを工事の担当に伝えて相談してみて欲しいと頼んだが、工事の音がすることはあらかじめ言ってあったんだから我慢しろという内容の返答だった。今すぐやめろと言っているわけでなく、可能かどうかを聞いて欲しいと言っているだけなのに。それでどうしても予定が変更できないというのならこちらも諦める。気が利くホテルならルームチェンジにだって応じてくれるだろう。こんなに冷たい対応をするのなら、なぜ騒音が気になる場合はフロントへ電話をなんて言うのだろう。

その係にはもしかすると権限がないのかもしれないと考え、とりあえずアシスタントマネージャーと話しがしたいと伝えたところ、巡回中で席を外しているとの返事で、戻り次第コールバックしてくれることになった。割れそうな頭と両耳を押さえてベッドで横になっていると、いきなり客室扉のチャイムが鳴った。いきなり来るか?と思いつつもバスローブ姿で応じると、そのアシスタントマネージャーは人の話しにはまったく耳を傾けず、自分の言い分だけを主張するかわいそうな老人だった。建物が老朽化しているから改装を進めるのはやむを得ないとか、できるだけ迷惑を掛けないように、暇な時期を選んで工事しているとか、まったくピント外れな話を聞かされた。そんなことは百も承知だし、だれもそんな事に文句をつけているのではない。

結局バスローブのまま15分近くいいわけを聞き、結果的には工事の位置をすこしずらしてくれることになった。初めからスムースに対応してくれればだれも不愉快な思いをしないし、数分で済むことなのに、眠るだけの為に朝っぱらから大変な苦労だった。その後ほんの少し眠ってからチェックアウトしたが、昨晩の事件にも朝の騒動にもまったく触れず、単に集金作業だけのチェックアウトだった。

そんな不愉快な気分を吹き飛ばしてくれたのは、ロビーラウンジ「ガーデンカフェ」のスタッフによる三つ目のできごとだった。演奏の疲れも十分に取れず、なんだか頭がスッキリしなかったので、かき氷を食べてシャキーンとしようと、宇治金時を注文した。池のほとりで無邪気に愛嬌を振りまいているアヒルを眺めながら氷を食べていると、器にヒビが入っていることに気が付いた。でも、漏れ出すわけでもなく怪我をするような状態でもなかったので、そのまま食べ尽くした。

空いた器を女性スタッフが下げに来た際、「この器、ヒビが入ってるから、洗いに出さないで捨てた方がいいかもしれないね」とひとこと添えた。その女性スタッフは「たいへん申し訳ございませんでした」と本当に申し訳なさそうに詫びているから、「そんなちっとも気にしていないけど、ただ洗浄機の中で割れてだれか怪我でもするといけないから余計なことかもしれないけどお伝えしただけですよ」といい添えた。しばらくすると黒服が来て、先程の女性スタッフよりも更に申し訳なさそうに詫びた。その様子はまったく媚びいるようではなく、よい仕事を信条としているかのような自信や誇りを感じさせる気持ちのよいものだった。

3つのできごとは、担当した係が問題をそれぞれどのように捉えたかで対応がまったく違っていた。問題点を無視したり自己防衛に躍起になったりすると、傷口はかえって広がってしまう。しかし、問題点に的を絞った対応を迅速に行えば、ガタガタ言われる前にいとも簡単に解決できることが多い。それから、クレーム処理という言葉をよく聞くが、だいたいよくぞ苦情になるまで放っておいたものだと思うことが多々ある。もっと早い段階に先を見通して適切な行動をとるよう心がけて欲しい。

ベッドには大きなクッション デスクは窓向き

冷蔵庫は高い位置にある ファックス

「ガーデンビュー」

かつてこの店の朝食ブッフェは、料理内容といいサービスといい、また店の雰囲気といい、どれを取ってもレベルが高く、気持ちのいい朝をスタートできる店だった。ところが残念なことに料理の品数がかなり減らされ、品質にもガッカリさせられてしまった。スクランブルエッグは素人が作ったような出来だし、ホールに出ている調理人がこしらえてくれるのは目玉焼きオンリーだ。サラダやフルーツも以前の方がはるかに充実していた。料理内容はこのように残念だったが、サービスは安定していた。

行列ができた入口で手際よくゲストを案内している年配の黒服は、それぞれのゲストに合わせた口調で親しみのある挨拶を投げかけてくる。家族連れには優しく楽しげな感じに、ビジネスマンにはキリっと引き締まった感じにと、それぞれが心地よく感じる挨拶を心得ている。店内に対する目の行き届かせかたもたいしたもので、ざっと店内を見渡すだけで、若手に次々と指示が飛ぶ。その様子を眺めているだけでも、朝からしゃきっとさせられるし、店内のキビキビした従業員たちとは正反対に庭園でのんびりしているカモや鯉たちはゆとりを感じさせてくれ、長い時間きょろきょろとウォッチングしながら朝食をとっていてもまったく退屈しない。

そして卓上のバラ一輪。それだけでもどれほど心和むことか。料理が減って食べたいものがなくても、今なおお気に入りの朝食レストランだ。

2000.08.12
Wooden Room
銀座東急ホテル Suite
楽-1

木に囲まれたベッド

この日は東京湾華火で、例年ならインターコンチネンタル東京ベイに部屋を取っていたが、最近ご無沙汰していることもありワガママを言い出しにくくて今年は予約をしなかった。花火を見たい気分がそれほど盛り上がらなかったこともあって、結局今年は花火目的の宿泊予約をひとつも入れなかった。この日は伊豆からクルマを飛ばして都内に向ったが、途中激しく渋滞していたために、銀座に到着したのはちょうど花火大会が終わったころだった。

付近で花火を見ていた人たちが一斉にその場を離れ始めたので、歩道には大勢の人が溢れていたが、ホテル正面玄関ではドアマンの丁重な出迎えがあり、チェックインの手続きもスムースで、まったく混乱した様子は見られなかった。ロビーにはいつもより多くの人が訪れており、浴衣姿の若い女性もたくさんいた。

馴染みのベルマンに客室まで案内してもらったところ、最上階にあるスイートの寝室に通された。スタンダードルームでの予約をスイートの寝室部分にアップグレードしてくれたとのこと。その気持ちが思いがけずうれしかった。来年の閉館までに一度は利用してみなくてはと思っていたが、10万円以上を投じて泊まるとなると、他に魅力的な客室を持ったホテルがたくさんあるので、実際には利用する機会が持てないだろうと半ば諦めていただけに、貴重な体験をさせてもらった。

10階には主に大きなデラックスルームが外周を取り巻くように配置されているが、そのうち2室はスイートで、16万円のタイプと10万円のタイプがある。高い方が当然広く造られているがダブルベッド仕様だ。安い方はその分狭くなり、ベッドはツインになっている。今回、リビングルームは見ることができなかったが、寝室を利用しただけでも十分に楽しめたし、大体の雰囲気は味わえたと思う。室内に入ってまず感じるのは、全体を包み込む木の質感だ。壁や家具にはいまどき珍しい合板でないしっかりとした木材を用い、ライトな色調ながらも強い印象を与える。

建物のコーナーに位置しているので、窓が2面にあるのだが窓そのものが小さいことと、窓の外には街並みがすぐに迫っていることから開放感には乏しい。天井高が240センチしかないのもその要因となっている。その分、室内のレイアウトをシンプルにまとめ、広々とした感じにしているようだ。正方形に近いフロアに120センチ幅のベッドが2台、肱掛椅子がふたつ、ライティングデスクとテレビだけと、余計なものが一切ないさっぱりとしたしつらえをしている。バスルームは床も壁も立派な大理石で仕上げており、なんと天井にはサウナ室のように木材が打ってある。シャワーブースはないが5平米近い 面積のあるゆったりとした造りだった。

せっかくのアップグレードだが、残念なこともあった。翌日はゆっくりとチェックアウトするつもりでいた。しかし、10時頃に客室の電話が鳴って、「10時にはご出発を伺っておりましたが、ご予定はどのようになっていますか?」と失礼な電話があった。そのような予定は伝えていないし、もう少しゆっくりしたいと告げると、次の予約が控えているので、部屋を空けて欲しいと言う。なんとも興ざめだった。

2面の窓を持っている バスルーム入口

ベイシン 石張りのバスルーム

2000.09.04
負の作用
日本料理「源氏」キャピトル東急ホテル
哀-3

国立劇場で観劇をしたあと、遅い昼食をとるためにキャピトル東急ホテルに立ち寄った。母と一緒だったので迷わずに日本料理店に向ったが、時間は14時5分前でそろそろ看板を片づけようかとしている時に店の前に立った。店内にはすでに客がおらず、出迎えた黒服は突然の入店に困惑しているかのような空気を感じさせた。その時点でプロ失格である。その後すぐに「3時にはご退店いただきたいのですがよろしいですか」と尋ねられたが、スタートの印象が悪くなければ単なる案内と聞けないこともなかったものが、まるで釘をさされたような気分にさせられた。

母はそんなことは気にせず席につくとメニューを一瞥し、時間がないのならこの天ぷら御膳で結構と、ただちに注文を済ませた。急かされた割には料理が出てくるまでひどく時間を要し、その間もホールにサービス人が居なくなることがしばしばあり、とてもよい雰囲気とは言いがたい。やっと運ばれた料理はシンプルな膳で、余計なものは一切付いていない。となればメインの天ぷらがよほどの出来でなければならないが、あっさりし過ぎてまったくコクを感じない軽やかさだった。それを好む人もいるのかもしれないが、天ぷら好きはもっと油の香りやコクを楽しむのが一般的だ。この内容で5000円では、自腹の客はもう来ないかもしれない。

庭園の手入れをする職人の給金や、愛嬌を振りまくアヒルのえさ代が含まれていると考えても、割高な印象が強かった。約束通り3時前には店を後にし、いつもならラウンジでコーヒーでも飲んでいこうかという気分になるのだが、そんな気も失せてそのままクルマで出発。なにもかもがマイナスに作用した昼食だった。

2000.12.04
66×84
銀座東急ホテル Single
楽-2

窮屈だけど、なかなか快適

以前から気になっていたシングルルームにやっと泊まることができた。ひとりチェックインを済ませ、ベルガールに案内されたのは5階のシングルルームだった。旅慣れた外国人などを案内すると「なんだ、これはドライバー控室じゃないのか」と叱られることもあるというが、想像していたよりは広かった。ただ、ビジネスホテルなら納得の面積でも、国際ホテルのスタンダードルームとして考えれば驚きで、時代の流れを感じずにはいられない。40年前からこの広さかどうかは知らないが、かつてはこれでも十分通用したからこそ今日までそのまま維持してきたのだろう。確かにはるばる長いフライトに耐えて目的地に着いた直後にこの客室に通されたのでは、思わず溜息が漏れるのもうなずける。

そして、昔ながらの障子を開けてみれば更にびっくり。日の当たらないビルの谷間のうら寂しい風景が、なぜか悲しみをそそる。気が滅入った状態でチェックインすれば、徹底的に打ちのめされることうけあいだ。ベッドは110×195センチと、デラックスツインのベッドひとつ分よりも小さい。狭い空間に都市ホテルには最低限欠かせないものをびっしりと詰め込んだ感じで、レイアウトに余裕がなくひとりでいても窮屈だった。しかも、長年オヤジたちに愛用されてきたのか、きつい香りの整髪料やタバコのヤニの臭いがほのかに残り、国鉄時代の寝台列車を思い出した。

とどめはバスルームだ。真っ白で明るいのは結構だが、扉といいベイシンや便器といいかなり使い古しており、いくら丁寧に清掃をしたとしてもこれ以上の清潔感は生み出せないところまできている。当然洗浄式トイレにはなっていない。アメニティはこのホテルの他の客室に比べても少なかった。そして隅っこに隠すようにして置かれているバスタブは、66×84センチの大きさで、いままで見て来たバスタブの中でダントツの最小記録だ。66×84センチというのは枠を含めた広さで、中だけだと58×77センチとなる。3方が壁に囲まれているのは一般的なはずなのに、こうも小さいとかなりの圧迫感があった。

ところが救いは50センチある深さだった。見た目の印象よりも実際に湯を張って浸かってみた感じの方が快適だった。膝は抱えて入るしかないが、深いから肩まで浸かることも不可能ではない。バスルーム全体としては3平米の面積があるので、レイアウトを工夫しさえすれば、もっと大きなバスタブを配置することも可能だったはずだが、なぜかこのような忘れがたいバスルームが出来上がった。ベイシン前にはあり余るスペースが残っているだけに、なんだがユーモラスな感じがした。

風格というかなんというか・・・言葉で言い表せないものを感じます・・・ 白一色のバスルームといえば聞こえはいいが・・・

2000.12.05
オリジナルエッグ
コーヒーハウス「オーツーフォー」銀座東急ホテル
楽-2

「オーツーフォー」では朝食を利用する場合もブッフェかセットメニューかを選択することができる。ブッフェが2,500円でセットメニューは2,300円だから、値段的にはブッフェが得だが、あれこれ食べたいわけでもなかったので、席についてゆっくりとセットを食べることにした。アメリカンブレックファストの卵料理には、温泉たまご風の卵にガーリックトマトソースを添えたオリジナルエッグが選べ、それが結構気に入っている。パンは選択肢がなく白トーストのみ。せめてレーズンやホールウィートなど数種のバラエティがほしかった。トーストがあまり好みでないというと、ロールパンに替えてくれたが、パサパサしておいしくなかった。コーヒーのおかわりなどは積極的で、朝から引き締まった時間を過ごせる。客層もビジネスマン中心ながら、他では見られない光景もちらほら・・・
前夜にはステーキフェアの和膳を食べた。4種ある魚や肉のステーキからチョイスでき、それにサラダ・漬物・ごはん・味噌汁・コーヒーが付いて2,500円。他のメニューに比べると得な感じがした。一方、22時以降はぐっと品数が少なくなるばかりか、セットなどがなくなり割高となる。以前は深夜でもそれなりのバラエティがあっただけに、この簡略化は非常に残念だ。

2000.12.10
パステルカラー
赤坂東急ホテル Deluxe Room
哀-2

照明を落とした時のベッド

当日の午後8時を回ってから突然予約を入れたのだが、担当したフロントの女性の係は大変丁寧で感じがよかった。他にもいくつかの候補があり、とりあえず空室状況を把握してから検討しようと思っていたが、彼女が担当したことによって検討することなくこのホテルに決める結果になった。客室タイプの説明は面積や設備を交えながらよどみなく行ない、料金の案内も正確でわかりやすいものだった。

午後9時過ぎに到着したときにも多数のベルマンが1階のエントランスにも3階のフロント前にも待機していた。その動作はきびきびとしていて好感が持てる。フロントでのチェックインも同様に気持ちのよいものだった。特に持ってもらうような荷物はなかったので、自分で客室へと向かった。エレベータを降りるとホールに続いて細長い廊下が続いており、その両側に客室がある。他の古い東急ホテルと同じく廊下の天井は低く、照明も抑え気味だ。

黒くシックなデザインのカードキーで客室の扉を開けると、扉の高さギリギリしかない低い天井の部分があって、奥に横広の客室が広がっている。このホテルではデラックスなツインルームなのだが、通常は3名利用に対応することが多いのか、ベッドは2台でもそれ以外の備品はすべてそれぞれ3点ずつセットされていた。室内は改装してからそれほどには年月を経ていないようだが、それでもそろそろ改装が必要な時期に来ている。全体的に10年以上前の流行でコーディネートされており、淡いグリーンやピンクのパステル調ファブリックはただでさえ寒々しいのに、年季が入ってまさに時代に取り残されたような印象を与える。かろうじてヘッドボード上の照明に工夫が感じられ、ポイントを稼いだ。

障子を採用している客室もあるが、この客室は黄色のカーテンが掛かる。天井高は230センチしかないので、窓の小ささとあいまってかなり窮屈な感じがした。ベッドは110×200センチと小ぶりで、カバーと一体となった寝具を使用している。枕は綿とチップの混ざったものひとつのみと、快適な睡眠への準備は充実していない。ライティングデスクも小さなもので、発信できる電話機はベッドサイドにしかない。ところがドレッサー周りには大きなスペースを割きカーテンで仕切ってり着替えなどにも利用できるが、余ったスペースを思いつきで活用したという感じでバランスが悪い感じがした。

バスルームはドレッシングスペースに続いて配置されているが、3,6平米のオーソドックスなユニットバスだ。タイル張りだがかなりくたびれた印象なのは、ライトがベイシンの上に2箇所しかなくシャワーカーテンをひくと少々暗いことにも原因がある。そして、アメニティはポーションのシャンプー・リンスを採用したり、バスジェルさえなかったりと随分と簡素だ。カミソリは風呂屋で配るような品質。もちろんバスローブもない。シャワーの水圧も低く、あまり快適とはいえないバスルームだった。翌朝は朝刊のデリバリーもなく、いくら人柄がよくても中身がこれでは、少なくともラックレートの35,000円は投じたくない。

入り口から窓方向を見る ライティングデスク前まら入り口を見る

なぜか広いドレッシングスペース 白いタイル張りのバスルーム

2000.12.30
明るい客室
銀座東急ホテル Deluxe Room
楽-2

ベッドの前が広々している

愛用している「一休」に、デラックスツインがサ込みで25,000円というプランが出ていたので予約した。閉館まであと半月を残すのみとなり、後にも先にもチャンスは残り少ない。今回利用した10階のデラックスルームは狭い客室を2部屋分合体させた面積があり、横に広いカタチをしている。扉を入るとすぐにミニバーがあって、奥にシャンデリアが下がったシッティングスペースが見えている。2人がけのラブチェアとオットマン付き肘掛け椅子がセットされ、ラブチェアの両サイドにはランプが置かれている。窓と窓の間にはライティングデスクがあり、その後ろの壁に埋め込まれるような格好でテレビが設置されている。ライティングデスクにはモジュラージャックはあっても電話機がなくて不便だった。

シッティングスペースとベッドとの間はスペースがたっぷりと取られ、余計なものが一切ないことからもかなり広々とした印象を受ける。ベッドの脇にはウォークインクロゼットがあり、収納スペースも十分に確保されている。前回利用したコーナーにあるデラックスルームと備品類はほとんど同じだが、客室の形状とレイアウトが違うだけで随分と雰囲気が違って感じるものだ。

そして、もっとも違うのがバスルームだった。こちらのバスルームは床には大理石を使用しているが壁やベイシンの天板には白い人工大理石を使った。ベイシンも一緒になったユニットタイプで、狭くはないがコンパクトにまとまっている。今回はシャワーの水圧が非常に低いことに不便を感じた。アメニティは一般客室とは異なりバラエティが増えるだけでなく、品質も向上する。GINZAと刺繍されたパイルスリッパやバスローブも用意されるが、ターンダウンサービスは行なっていない。

室内には6つのスタンドとシャンデリアを含め3つのダウンライトがあるので夜でも非常に明るく、また、窓がワイドに取られていることから日中も十分な採光が得られる。周囲をビルに囲まれ閉塞感のある客室が多いホテルだが、このくらい明るくて広々していれば開放的な気分が味わえる。荷物を扱ってくれたベルガールはとても溌剌としており感じがよかった。

リビングのシャンデリアが印象的 バスルームとクローゼットの扉

Y.K.