2000.11.29
ホワイトイルミネーション
サッポロルネッサンスホテル Renaissance Club Deluxe Room
楽-3

クリスマスの装飾を施したクラブラウンジ

札幌駅に降り立ったときには雪はやんでいた。駅前からタクシーに乗り、両脇に雪が高く積み上げられた道をゆっくりと進んでゆく。思いかえせば雪の札幌は23歳のクリスマスが最後だった。早足で家路を急ぐ人の群れや、互いの心を温めあうかのように微笑む若いカップルを横目に、ひっそりとひとりで歩いた大通りを思い出した。以来無意識に雪の札幌を避けていたのかもしれない。

思い出に浸るまもなく、女性ドライバーは正面玄関に到着したことを告げた。背の高いドアマンが出迎え、そのままフロントデスクまで荷物を運んでくれた。予約の確認が済むと、荷物はベルガールに引き継がれ、手続きをせずにレセプショニストと共に客室へと向かった。今回はクラブフロアを予約してあり、クラブフロアに滞在するゲストのチェックインは客室で行なうことになっているらしい。客室へ入ると予約内容の確認があって、サインのみの手続きが完了した。その後クラブラウンジの説明や、チェックアウトタイムが15時まで無料延長できること、フィットネスセンターが無料で使えることなどを案内して係は退室した。

客室を見渡すと、隅々まで丁寧に清掃され清潔感があるが、すでにベッドカバーがはずされた(というか、おそらく掛けられなかった)状態でセットされていた。最近はパークハイアットに代表されるように初めからベッドカバーを用いずに真っ白なデュベカバーをインテリアの一部として取り込んでいるホテルが増えてきた。客室全体がそれを許すようにコーディネートされているならそれはそれで結構だが、客室係の手間を省いて効率化を狙ったり、単にパークハイアットの真似をして似合いもしないのに剥き出しの寝具で完成させているホテルが多くなってきた。

そういったホテルにはもうベッドカバーなるものは存在しないわけだが、せっかく立派なカバーがあってもしまいっぱなしで使わないホテルというのも少なくない。特にヨーロピアンテイストのインテリアでコーディネートされた客室ではベッドカバーも重要なインテリア要素となるので、剥き出しの寝具は味気ないばかりか華やかなドレスを脱ぎ捨てて下着姿になった女性を思わせる。夜にはそれもまたよいとしても、真昼間から、しかも到着早々ではだらしない感じがする。もちろんベッドカバーをかけてほしいと客室係に依頼すれば速やかに行なってくれるが、余裕のあるときにはぜひカバーをかけた状態の客室に案内をしてもらいたいと思う。

室内はいたってシンプルなつくりで、40平米の床面積と270センチの天井高がある。窓は縦に大きく取られ開放感があり、一部が開閉できて外気を取り入れられるようになっている。ベッドは123×200センチが2台入り、寝具は羽毛布団でコットンの肌触りもよく快適だった。家具はクローゼットを含めてすべて置き家具で、しっかりとしており余分な装飾はないが使い勝手を重視したものばかり。ライティングデスクの引き出し内は傾斜のついた仕切りがあり、ドキュメントを収納するのに便利だ。デスクのスタンドは電球でなく、環状の蛍光灯を使っている。

バスルームはブラックやグレーを多用したシックなイメージでまとまっており、7平米を越える十分なスペースを割いた快適空間に仕上がっている。蛍光灯の間接照明と腰までのタイルに加え固定式のみのシャワーを設置したシャワーブースがアメリカンテイストを醸し出しており、黒いベイシンと発信可能な黒い電話機がアクセントになっている。丸い鏡も印象的だ。トイレは洗浄式ではなかったが、ベイシンの周りにはこまごましたものを並べるスペースが十分にあり便利。BGMを聞く設備もある。タオルは3サイズが2枚ずつ。バスローブを備えているが、アメニティは標準的な品揃えだった。

ルームサービスは6:30から22:30まで営業しており、すべての品物がレストランと同じ価格で提供されているが、その代わりにデリバリー1回につき200円が加算されるというユニークなシステムを取っている。コーヒーは500円だから、コーヒーをひとつ注文すると700円、ふたつ注文すると1,200円となり、まとめて注文する方がより得になる。アメリカンブレックファストは1,900円で比較的低価格な印象。氷はルームサービスで無料。

10階にあるルネッサンスクラブラウンジはちょうど2部屋分、80平米のコンパクトな空間にゆったりとしたソファを中心に配置しているので、収容客数はとても少ない。朝食、アフタヌーンティ、カクテルアワーが楽しめるが、アフタヌーンティといってもクッキーとチョコレートだけ。カクテルアワーにはオードブル3種、シュウマイ、ナッツが並び、飲物はビール、ワイン、カクテルなどが用意される。基本的には完全なセルフサービスで、スタッフは常駐しているが、あまり注意を向けてくれることもなく、もう少し積極性があってもいいように感じた。そして常に点いているテレビの世俗的な音声が雰囲気を壊している。ワイドショーが流れるなかでの朝食はホテルにいることを忘れさせられてしまいそうだった。

夜は1時間に1本程度運行しているホテルバスに乗って、大通り公園に出かけてみた。ホワイトイルミネーションの期間中で、ふたたび降りだした雪にも光が反射して、それはそれは幻想的だった。せっかくなのでテレビ塔にも上ってみた。周囲に高い建物が少ないためか、かなり遠くまで見通せる。たくさんのホテルが見えるが悲しいかな、部屋にはほとんど電気が点いていなかった。

以前このホテルを利用したときにはベルマンたちの美しい立ち姿に感動したのだが、いつのまにか人員が減り、ベルガールも増えて、かつての雄姿を今回は見ることができなかった。またいつかあの美しい立ち姿に出会えることを期待している。

寝心地のよいベッドと肌触りのいいシーツ ファニチャーはすべて置き家具

左側がトイレとシャワーブース 腰までタイル張り

「オリエンタル」

とうとうメインダイニングも閉じてしまった。川向こうという微妙な立地が苦戦を強いたのか、やはり地方都市の富裕層には付き合いの長い伝統あるホテルとの縁を断ってまで新参の外資ホテルを育む気運がないのか、いずれにしてもルネッサンスホテルは苦しい戦いをしている。まずロビーに入って活気が感じられない。まるで季節はずれのリゾートホテルのような空気が流れている。一瞬慌しくなったかと思えば、団体の到着や出発があるときだけ。立派なロビーなのにもったいない。ルネッサンスがこんな状態でも、市街中心部のグランドやニューオータニのロビーには活気があった。その差を埋めるものが何であるかを、ルネッサンスはよく研究する必要がありそうだ。

そもそも、このホテルの2階に位置するレストランやショッピングアーケードはまったくもって場所が悪すぎる。よほど興味を持って散策しないと見つからないから、ふらりと通りすがりなどということはまずありえない。その分積極的にアピールする努力をしているかといえば、そうでもない。値段的には魅力のある設定をしているが、肝心な中身はオーソドックスすぎるくらいオーソドックスだ。すすきのが徒歩圏内で睨んでいるのに、ありきたりな料理を出しても、よほど面倒くさがりな宿泊客以外利用しないだろう。

昼に中国料理の「オリエンタル」を利用した。1,500円のランチは十数種よりチョイスできる料理が1品、やきそば、つゆそば、チャーハンより1品、アイスクリーム、杏仁豆腐、コーヒーより1品の3品構成。料理を追加する場合は1品600円。白いクロスが掛けられたテーブルに白い布ナプキン、取り分けからお茶を注ぐことまでフルサービスだ。しかし閑古鳥。単に気の毒では済まされない、なにかが感じられる。ぜひ、現状を打破して活気あるホテルを目指してもらいたい。

Y.K.