2000.01.21
モップがけ
ホテル ル・ファール本牧 Deluxe Twin
哀-4

充実のアメニティ

コワイもの見たさ。このホテルに再訪した理由はそれだけだった。数年前、とても不愉快な思いをしたこのホテルにあえて足を運んだのは、その後どのようになったのかを見てみたかったからだ。横浜の新名所としてひとときは賑わいを見せた本牧地区だが、新しい物好きの訪問客はみなクイーンズスクエアなどに流れてしまい寂れてしまった。当時、粗末なサービス内容からは想像を絶するような強気の価格設定でふんばっていたル・ファール本牧も、いつしか話題に登らなくなり、ついには「まだやってるのかなぁ、あのホテル」といった会話まで交わされるようになって久しい。

途中何度かレストランなどを改装したり、館内の模様替えなどをして試行錯誤を重ねながら、今尚けなげに営業をしていると知り、なんだか出掛けてみたくなったのだった。チェックイン時に白紙伝票にサインを求め、拒否すると宿泊そのものを拒否されるという大胆な対応をしていたフロントだが、今はしっかりと前金制。更に翌朝の朝食メニューを差し出され、オーダーと時間の予約を入れさせるというユニークなルールがある。チェックインと「お支払い」が済むと、「こちらがお部屋のキーです。エレベータはそちらです。」とそっけなくあしらわれてしまう。

応対そのものは決して不愉快でなく、むしろ好感度の高いものだが、ホテルの実状とはいえ、その親切そうな態度とは裏腹の簡素なサービスは残念だった。因みにフロント前に「ゲストリレーションズ」と書かれた小さなデスク(まさにデパートの入口にある、ひとり入れば満員の小さなブースのような・・・)があり、女性がひとり常駐しているが、果たして何の役に立っているのやら謎だった。それなら、ベルをおいた方が需要があるかもしれない。

更に、以前は5階にメインロビーとフロントがあったように記憶しているが、現在はフロントが1階、そして5階は以前最上階に位置していたダイニングになっている。館内はユニークで近未来的なデザインで埋め尽くされているが、至るところに飾られたモノクロームフォトがあたたかいハートを表現しているように感じられる。客室階は2層ずつ、それぞれ「陸」「海」「空」のイメージカラーでコーディネートされており、今回利用した10階のデラックスルームは「空」をイメージしたブルーの色調でまとめられている。

デラックスルームにはレイアウトが少々異なる幾つかのバリエーションがあるようだが、いずれも面積は55平米。入口を入ると左右に分かれてトイレとバスルームがあり、正面のすりガラス扉の奥にリビングスペースを備えたスタジオ風のベッドルームが広がる。ベッド幅は140センチのものが2台入り、コーヒーテーブル&チェア、ビデオデッキ付き大型テレビ、エキストラベッドにもなるソファ、ライティングデスク、クローゼットが配されている。床は全室フローリングだ。窓からの景観は一部を除いては期待できないが、デザインとしては非常におもしろく、特にヘッドボードやバスルームに楽しい仕掛けが見受けられる。

ところが、そのデザインが先走ってしまい、肝心な使いやすさが無視されている設備もあった。特に引き出しは取っ手がなく、引き出すのが至難の技だった。照明はハロゲンランプを多用しているほか、スタンド類はすべてそれぞれにオン/オフのコントロールや照度の調節が出来るのが便利だ。電話機はバスルームを含め、発信可能なものが3台備わっている。バスルームは洗い場付きで、そのゆとりあるスペースも然る事ながら、ベイシン部分のデザインが特筆ものだ。アメニティも充実しており、バスローブや使い捨てスリッパを用意するという力の入りよう。バスタブには上部排水口がなく、たっぷりと湯を張って、ザザーっと溢れさせる贅沢なバスタイムも楽しめる。シャワーの水圧も申し分ない。

これだけ練りに練ったデザインの秀逸さを台無しにしているのは、清掃状態だった。すりガラスの扉は、開業以来一度も拭いたことはないのではないかと思うほどに、タバコのヤニでベトベト。まるで、換気扇状態。バスルームもカビとヘドロでどろどろ。天井や照明器具には埃が降ってきそうなほどに積もっている。おそらく、そのあたりに留意することはマニュアルに定められていないのだろう。マニュアルにない部分には目をくれる必要もないという考えなのだろうか?それとも、気になりつつもそこまで手を伸ばすことを上司が認めないのだろうか?

いずれにしても、この清掃状態ではブティックホテル以下だ。通常料金だと35,000円のこの客室も、3分の1以下の価値しかない。次に訪れる機会があるとすれば、大晦日用の清掃道具一式を持参しなければ。翌朝、朝食に行こうとエレベータに乗ろうとしたら、エレベータ内の床にモップを掛けたばかりのようで、びしょびしょに濡れていた。この状態で人が乗り込めば、かえって靴から汚れが移ってそれが乾けば跡になってしまうというのに。モップの掛け方からして、もう一度考え直した方がいいかもしれない。

ナイトボードにはオーディオなどの操作スイッチが並ぶ リビングスペースとライティングデスク

スタイリッシュなベイシン 洗い場式のバスルーム

「ボン・ボヤージ」

チェックイン時に予約を入れさせられたので、時間を守って店に出向いたところ、別にいつ来られても構いませんという感じだった。店は閑古鳥。他に2組の先客があるだけだった。案内された席にすぐ後ろがキャッシャーとペイストリーショップのブースになっていて、暇さえ出来れば従業員はそこに集まって、今時のイントネーションでおしゃべりに興じている。とはいえ、とりあえずサービスに抜かりはなかった。要所要所ではきちんと目を配り、必要なサービスは実施していた。それだけに、だらしないおしゃべりはイメージを悪くした。

朝食時だというのに、従業員は若い女性ばかりだったが、やはり朝食時にマネージャーが不在というのは、ホテルとして手抜きの部類に入るだろう。然るべき立場の人が、入口で宿泊客を出迎えるシーンは、いつもなかなかステキだと感じるが、このホテルにそれを期待するのは筋違いかもと、ひとりごちだ。さて、運ばれて来た和朝食は、これがなかなかいける味だった。特に焼き魚。干物でも出てくるのかと思いきや、粕漬けだった。それ以外のおかずは煮物が冷やしてあったりと、いまひとつだったが、この焼き魚と豚汁と炊き立てのご飯だけでもう十分。1,700円なら納得という感じ。

この店も清掃がてんてダメだった。おもしろい意匠があちこちにあるのに、それらがみんな埃まみれでかわいそう。たまには掃除もしなくちゃ。

Y.K.