2001.01.31

帝国ホテル Suite
喜-4

ほのかな明りが眠りを誘うベッド

この喜怒哀楽を書くようになってから、「どこのホテルが一番いいですか?」という質問をよく受けるようになった。その度に答えに窮し、さんざん考えた末に「帝国ホテルでしょうかね」と曖昧な返事をすることが多い。なにをもってして良いホテルというか。本業の音楽でさえ、なにをもってして良い音楽というかなど、いくら考えても答えは出ないので、ホテルのこととなるとなおさらわからない。それでも帝国ホテルを筆頭にあげるのは、本来困難なはずのことをさりげなくスマートに実現しているからだ。そこには知性が光ると同時に、プロフェッッショナリズムを感じる。

高い水準のことがらを当然のように実践している様子は、帝国ホテルでならあちこちで見受けられるが、よそではなかなかお目にかかれないもの。では帝国ホテルが良いのなら、ここに滞在することが一番多いかというとそんなこともない。利用する側は滞在の目的に合わせて宿をチョイスするわけだが、ホテルにはそれぞれ個性や得意分野があって、同じような立地にあってもどのホテルを選ぶかは、その時の気分や条件などによって異なってくる。ごく近所で比べれば第一ホテル東京があり、ホテルの総合力を比べれば帝国ホテルの圧勝だが、第一ホテルにも条件にあった部分がたくさんあって、泊まる頻度で見ると半々くらいだ。

帝国ホテルの客室はごく正統派で、外資系ホテルによく見られるデザイナーによるトータルコーディネートに慣れている人には面白みがないかもしれない。サービスについての不満もよく耳にする。職人的なサービスよりも若いお姉さんの不慣れながらも親しみが感じられるサービスの方が好きな人もいるだろうし、少々掃除が雑でも外が見えるバスルームが捨てがたい人もいるはずだ。

ぼくもパークハイアットに泊まる気分だったり、リゾートホテルに泊まる気分のまま帝国ホテルにチェックインしたら満足できないかもしれない。誰しもたまにある特定の食べ物がどうしても食べたくなることがあると思うが、ぼくのカラダには帝国ホテル用のチャンネルがあって、どうしても帝国ホテルにしたくなる時がある。それは、どちらかというとのんびりしたい時ではなく、もっとテンションをあげたいと思いつつもくつろぎが欲しい時だ。

この日も朝から厄日のようにツキがなく、ちょっとガッカリしながら夕方チェックインした。フロントの対応はキリッとしており、親しみを保ちながらもまったく時間を無駄にすることはなかった。手続きが終わるとフロント前に立っているスタッフにルームキーが手渡されたが、あいにくチェックインラッシュでベルが出払っていた。すぐに案内するので掛けて待つようソファをすすめられたが、荷物はほとんどなかったので自分で部屋に行くことにして申し出を辞退した。中2階にある渡り廊下を通って、タワー客室専用のエレベータに乗り30階へ上がる。30階と31階は廊下などの内装がグレードアップしているが、天井が高いのは31階だけだ。

廊下の最も奥にあるスイートは72平米で銀座の街を見下ろす夜景が美しい客室だった。廊下から扉を入るとスタンダードルームよりひとまわり広いスペースのリビングがある。シッティングスペースには7〜8名が掛けられるだけの椅子が置かれているが、それでも窮屈な印象はない。その脇にはライティングデスクが壁に向かって設置されているが、卓上には大きなファックスマシーンがあって、やや邪魔な感じがした。その横の壁には空間を巧みに活かした棚があって、写真集やチェコカットガラスのベースなどが置かれている。発信可能な電話機は5台あり、メモ用紙が置かれている位置も考え抜かれたもの。

ミニバーはウェットスタイルでクロゼットと同じスライドドアで仕切られているので、室内をスッキリと保つことができる。グラス類はすべて6客ずつ用意されていた。ゲスト用のトイレはない。リビングの奥にベッドルームがあり、リビングの窓とは90度違った方向が眺められる。窓際のスペースはダウンライトとスタンドの両方があってとても明るい。ドレッサーには6つの幅広引出しがついていて、ワイドな造りになっている。ドレッサーの奥は広々としたウォークインクロゼットがあり、ここだけでもバスルームくらいは造れる広さがある。カーテンは電動で、スイートはペイテレビが無料。

バスルームは5.61平米でスタンダードルームとそれほど違わない。柄の入った2重のシャワーカーテンが目を引くほかは、シンプルに造られている。照明は調光式で便利だし、金糸で刺繍を施してあるタオルも印象的。時計の下にバニティミラーが設置してあるが、日本人の女性には位置が高すぎるような気がした。バスタブは大型でシャワーの水圧は十分。ところが残念なことにバスタブに垢がこびりついており、清掃が不十分だった。いつもが素晴らしいだけに気になったが、その他は一切不足のない滞在だった。

チェックイン後20階のプールで軽く泳ぎ、ピアノを練習してから、深夜までデスクワーク。ルームサービス係の折り目正しさも実に気持ちがよい。チェックアウトする時にはすっかり厄払いができた。

リビング ライティングデスク

デスク脇の棚 スライドドアに仕切られたミニバー

ベッドルームまらウォークインクロゼットを見る ドレッサーからベッドルーム奥を見る

バスルーム ベイシン

2001.11.07
エイリアン
「ユリーカ」帝国ホテル
楽-1

すみだトリフォニーホールでコンサートを観た帰りに、タクシーで銀座に行き「ユリーカ」へ寄って食事をした。店に入ったのはちょうど22時くらいだった。席に案内された時に渡されたメニューを眺めていたら、程なく案内を担当したのと同じ係が来て、メニューの一部を下げていった。どうやらそのプロモーションメニューは22時までだったらしい。ちょっとそれに気持ちが傾きかけていたので、後ろ髪をひかれる思いだった。仕方なく、野菜のカレーと、1,000円プラスでサラダとコーヒーのセットを注文した。

注文を終えると、一息つくまもなく、連れが注文したフレッシュオレンジジュースが運ばれてきた。ちょっと早すぎるタイミングだった。次に出てきたのはサラダのほかにもうひとつ、注文していない品物だった。どうやら、似た名前の商品と間違えたようだ。その後は野菜カレーが出てきたが、間違えられた品物は、カレーが食べ終わる頃まで出てこなかった。しかも、「お待たせいたしました」などの言葉を添えられることもなかった。

おそらくその係は、それまでのいきさつを全くしらずに、ただ運んできたのだろう。いまいち連携がなっていない。カレーは食べ終わってしまったので、チキンバスケットを追加した。それほど待たずに運ばれてきた。油っこかったが、肉はジューシーで美味しかった。「コーヒーのおかわりをお持ちしましょう」と気を利かせてくれるのはいいが、それっきり持ってきてくれない。

どうしちゃったんだろう?店はいつも通り活気に溢れていたが、この店では忙しいのが当たり前。地獄のディナータイムが終わって、糸が切れちゃったのかな?パントリーへの通路の前で、従業員同士ふざけあったり、サービス態度もなんだか妙にハイな感じに調子こいてたり、今日は帝国ホテルの従業員がエイリアンに見えた。SFボディスナッチャーごっこか。

2001.11.19
Blue Monday
帝国ホテル大阪 Superior Room
楽-2

ベイシンにはスツールも備わっている

到着してフロントに足を踏み入れた時、その静けさに驚かされた。大阪の主要なホテルと比較して、これほどまで閑散としているのも珍しい。それでも建物は立派だから、りんとした緊張感は何とか保っているのだが、空気が停滞気味なのは気分を滅入らせる。スタッフにも、東京の帝国ホテルのような、数多くのゲストにもまれて磨かれたような洗練を見て取ることはできなかった。

客室に荷物を置いて、すぐにフィットネスクラブに行ってみた。通常の施設利用料は5,000円だが、宿泊プランに付いている優待券を使って2,000円になった。設備は大変立派に造られており、しかも利用客がほとんどいないので、かなりゆったりと使うことができて快適だった。浴室はモザイク状の大理石仕上げで、高級感がある。もっとゆっくりと過ごしたかったが、仕事が控えていたので、さっと泳いで、さっとサウナに入ってすぐに出なければならず、後ろ髪を引かれる思いだった。

リフレッシュして客室に戻り、室内を見回してみると、落ち着いた雰囲気の中ににも遊び心があって、なかなか楽しい客室に思えた。一般階としては最も高層階の、40平米あるスーペリアルーム。ベッドは大きく、両脇にナイトテーブルがあり、スタンドとチューブ型の読書灯が両方に備わっている。カーテンは電動式で、照明のオン・オフや空調の強さ調節を含め、ナイトテーブル上のコントローラで操作可能だ。テレビはアーモアに納まり、ライティングデスクは独立型。デスク脇にはファクシミリの載った台が置かれている。デスクの正面は鏡でなく、額が掛かっているが、ボード状の鏡が別に用意されており、必要に応じて利用することができる。ブラウン系の家具を使った室内に対し、入り口クローゼット付近は、白でコーディネートされている。その色彩のコントラストも印象的だった。入り口の脇のくぼみに、椅子がひとつ置いてあり、ルームサービスを注文した時にも便利だし、荷台代わりにも役に立つ。

バスルームは広く、そして使いやすい設計になっている。木目や壁紙を使って、温かみのあるベイシン部分と、ガラスで仕切られた石張りのバスタブ部分に大別され、バスタブ脇には洗い場が設けられている。タオルやちょっとしたものを片付けるのに便利な引き出しつきのカゴが置かれ、雰囲気を一層和らげている。しかし、同じ並びのスーペリアルームでも、バスルームの狭いタイプがあり、その場合は洗い場がない。

レストランは「フライング トマト カフェ」と、朝食の「吉兆」を利用した。いずれも閑散としていた。味では、「吉兆」の漬物の美味しさが非常に印象にのこっている。全体に建築的にはよくできたホテルだが、どうも肝心な何かがどこかに忘れられているような気がした。サービスも特段悪いと感じさせられることはなかったのだが、どういうわけか、人と接したという実感がほとんど残っていない。「実は、全員ロボットなんです、よくできているでしょ?」なんて説明されたら、信じてしまうかもしれない。

ダブルベッド カラフルなソファとシックな電動カーテン

ライティングデスク アーモアも立派

洗い場がついたバスルーム バスタブはゆったりサイズ

アメニティ 冷蔵庫の中

2001.11.30
着こなしのよさ
帝国ホテル Tower Superior Room
楽-3

ライティングデスク

オーチャードホールでの催しのために、1泊だけ和歌山から東京へ戻り、またすぐに和歌山へ向かうというスケジュールの中での宿泊だった。珍しくチェックインでつまづいた。フロントカウンターに近づくと、ベルキャプテンが近づいてきて「ご到着でいらっしゃいますか?」と尋ね、空いているカウンターへと案内してくれた。その時点で両手にバッグふたつと脱いだコートや花束を持って重たそうにしていることに気付いているはずだが、彼は荷物を受け取る必要はないと判断したようだ。結局荷物を両手に提げたまま、チェックインの手続きが始まった。

名前を告げ、予約を確認すると、レジストレーションカードが差し出され、記入を促された。「両手がふさがっていては書けませんよ」と言って初めて、フロント係はベルマンに声を掛けた。ようやく荷物を預かってもらうことができたわけだが、ベルもフロントもそれまで気付かないというのはどうしたことだろう。これだけで十分印象を悪くした。

しかしその後は、出発まで何ひとついやなことは起こらず、快適な滞在ができた。今回の客室はタワーのスーペリアルーム。銀座方面を望む、眺めのいい客室だった。そして、銀座サイドの客室は、その他のサイドの客室とはレイアウトが若干異なり、心持ち広いような気がする。ファブリックの色調は、幾通りがあるようだが、この客室はグリーン系のコーディネートで、引き締まった印象があった。ビシッとセットアップされたベッドや、椅子の位置や向き、デスク上の備品に並べ方、どれをとっても隙がなく、テーラードスーツを着こなした紳士のようだ。特に流行を追うこともせず、独自の路線を貫き通す姿勢それ自体が、帝国ホテルらしさとなっている。それがなんともカッコいい。

テレビが新しくなった他、コンセントやモジュラージャックの設置など、パソコンへの対応も進んでいる。チェックイン後は、予約してあったミュージックルームで2時間のリハーサルを行ない、プールで軽くひと泳ぎして渋谷へ向かった。レセプションも終わってホテルに戻ってからは、バスタブに熱い湯を張ってリフレッシュして、ベッドで翌日のコンサートのシミュレーションをした後、熟睡。翌朝は早朝出発をした。帝国ホテルだと気持ちが引き締まり、仕事が大いにはかどるから不思議だ。

窓が大きく明るい室内 重厚感のあるファニチャー

ベイシン周りはとても明るい 清潔なバスルーム

2001.12.29
微妙
帝国ホテル Tower Standard Room
楽-2

眺め的には邪魔なビル

前回利用した銀座サイドの客室は、T字状の建物の上辺の上側に位置している。滞在した時にも心持ち広いような気がしていたが、今回利用したT字の垂線の左側の客室と比較してみると、明らかに前回のタイプの方が一回り広いことがわかった。ベッドや家具の大きさは同等だが、デスクの椅子とベッドどの距離を比較すると前回の客室の方がゆとりがあることから、主に客室の幅が違っていることがわかるし、クローゼットの位置関係から、入り口から窓までの距離にも差があることが理解できる。数字的にはそれほど大きな差ではないのだろうが、ゆとりの差は大きかった。

一方、眺めの差は微妙なものがある。銀座サイドは、かつてなら東京湾が見渡せたが、最近では高層ビルが立ちはだかり視界を遮っている。その他の客室からは、日比谷公園や皇居の緑を借景に楽しめるが、本館ほどの間近さは感じられない。また、最近は宝塚劇場が新装オープンし、帝国ホテルからの眺めを著しく遮断している。最も東京らしい眺めを誇った帝国ホテルも、次第に高層建築の壁に囲まれつつあるようだ。

本館の扉がすべてカードキーに変わり、タワーもそのための工事が始まって、一部完成している。なんとも古臭かった扉は、シンプルながら枠の付いたエレガントなものに取って代わった。カードキーはこの手のキーとしては分厚い部類で高級感のあるデザインだ。まだ、工事が終わったばかりなのか、塗料の臭いがきつく微妙に頭痛がした。ベルボーイからはその説明があったものの、臭いに我慢するようにというニュアンスのもので、この状態でも差し支えないかを尋ねる姿勢ではなかったのが残念。工事は1月末までには全館完成するという。

デスク周り ベッド

室内 ベイシン下には冷蔵庫とタオルのカゴ

イタリア料理「チチェローネ」

帝国ホテルのレストランなのにアルバイトだらけだという噂を聞いていたので、今まで無意識のうちに避けてしまっていたのだが、とうとう好奇心の方が勝つ日がやってきた。どの店に入るか、各店のメニューを眺めながら館内を散策している途中だったので、予約もせずに入店した。まだオープン間もない時間だったので、店内にゲストの姿はほとんどなかった。

ランチのメニューはプリフィクススタイルで、パスタをメインディッシュにする3,000円のセットと、パスタを前菜にして、メインディッシュに肉か魚の料理を加える3,800円のセットが中心になっている。それぞれ豊富な選択肢から自由に選べるので、その日のスペシャルを係に聞きながら楽しく構成を考えることができる。料理はどれも申し分のない出来栄え。提供温度も素晴らしかった。アルバイトの給仕たちのサービスは、ヘタな社員よりもよほど気の利いた快適なもの。十分に教育が行き届き、適度な自信を持って、楽しそうにサービスに当たる姿は、食事をより美味しくしてくれた。店内のインテリアも明るく楽しい。

Y.K.