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2002年10月19日

フォーシーズンズホテル丸の内東京 Premior Room
哀-4 兎と亀
心地よい眠りを誘うベッド
東京でふたつめのフォーシーズンズがオープンした。広大な日本庭園を囲むようにして建つフォーシーズンズホテル椿山荘東京は、ヨーロピアンエレガンスの粋を極め、開業から10年を経過した今なお、妥協のないメンテナンスノウハウを武器に、ひときわ豪華で洗練された雰囲気を保っている。

一方のパシフィックセンチュリープレイス内に開業したフォーシーズンズホテル丸の内東京は、東京駅から徒歩圏内というビジネス街への好立地を反映して、トップエグゼクティブのビジネスユースに的を絞り込んだ。モダンでスタイリッシュな空間、合理性にホスピタリティのスパイスを効かせた独自のサービススタイル、ミニマムながらニーズを満たす付帯設備など、時代の先端をシャープに生きる人たちの感性にフィットするホテルを目指している。

ホテルが入居するパシフィックセンチュリープレイスは、東京駅周辺でもひときわ目を引く、個性あるデザインの高層ビルだ。駅出口で言うと丸の内口側ではなく八重洲口側だが、住所はかろうじて丸の内に属している。せっかくの高層ビルだから高層階をホテルにすれば、丸の内のオフィス街越しに皇居を望む素晴らしい景色が得られたことだろうが、あいにくホテルは1階から7階という低層部に位置する。ビル設計の段階ではここにホテルが入ることは計画されていなかったため、レイアウトや動線にはかなりの無理があることも事実だ。ビルオーナーの意向でにわかにホテルと化したビルの低層部は、そのロケーションのみならず、なにからなにまでびっくりさせてくれる非常にユニークな存在となった。

まず、開業に先立ってのプロモーションは、成金雑誌やクレジットカード会社の会報などに集中的に掲載し、ターゲットを厳選しているところをうかがわせた。60室に満たない総客室数と最低44平米からの広い客室というだけでも、上質でレジデンシャルな雰囲気へと想像が膨らんでゆく。フォーシーズンズの名を冠しているだけで、世界最高品質を謳っているも同然なのだが、猛烈に強気な宿泊料金に、そこまで取るならお手並み拝見といった具合に、更なる期待を持たされた人も少なくなかっただろう。

しかし、がっかりさせられたのは到着早々、というより、到着よりも前のことだった。ホテル専用のエントランスはビルの北側にあり、東京駅の搬出入口のようなところに面しているため、非常に環境が悪い。汚らしいトラックがひっきりなしに往来し、ホテル専用のアプローチにまではみ出して道をふさいでいることもしばしばだ。ホテルの車寄せは狭く、車が一台停車していれば、おとなしく順番を待たなくてはならない。

この時も間が悪かったのか、すべての悪条件が重なってしまった。車はバレーパーキングをしてくれる。しかし、駐車場代が1泊5,000円に加え、バレーサービス代金として2,000円が加算されて、合計7,000円という料金がかかる。ビジネスホテル1泊分に相当するほど高い料金には、さすがに驚いた。きれいに洗車でもして返してもらいたいくらいだというのが本音。

エントランスには、有能で快活なスタッフが常駐しており、扉を通る度に気分がいい。これは当たり前のようでいて、他のホテルではなかなか実現できていないことでもある。ここのスタッフは半ばバトラー的な役割を担っており、部屋で何かリクエストした時にもよく対応してくれる。彼らに案内されて向かうフロントレセプションは7階にある。1階の上品なロビーとは明らかに不釣合いな、内装に木目のシールを使った安っぽいエレベータに乗って上昇する。

7階のレセプションエリアは小ぢんまりとしており、コンシェルジェデスクと並んで配置されているカウンターでチェックインの手続きを行なう。カウンター前のスペースには、上質なソファーが並んでいる。イスから「どうぞお座りください」と誘われて腰を掛ければ、たちまち奥からメニューを持った係が現れ、飲み物を注文することになるのだ。一見パブリックスペースのように見えて、実はロビーラウンジらしい。もちろん、注文を断ったからといって追い出されることはないようだが、気が弱い人は不承不承注文をして、なんとなくウツボカズラに落ちた虫けらのような気分になる可能性あり。

チェックインを済ませると係が客室まで案内してくれる。先ほど上がってきた安っぽいエレベータで再び下降して、客室のある6階から3階へと向かうのだ。客室階の廊下には、面白いオブジェが置かれているが、全体にコントラストのない照明と、平板な色彩感とに埋もれてしまい、圧倒的なデザイン性や高級感とは縁遠いように思えた。空間の演出という面ではパークハイアットの方が数段上手かもしれない。客室の扉はピアノフィニッシュの塗装が施され、シックな印象。カードキーを差し込むと、スパイ映画のようなピピピッという電子音がして開錠される。

今回利用したプレミアルームは65平米もの面積があり、室内の50パーセントが全面ガラス張りという、非常に明るく開放的な客室だ。入口から部屋の奥までは、L字の長い動線を持っており、実面積よりも広く感じる。室内の壁や床、家具にはいずれも天然木を多用。革張りの天蓋やワークデスク、ベンチなど、素材には妥協がなく、非常に上質な品々でコーディネートされているが、色彩感が淡いこともあり、見ようによってはシンプル過ぎてホテルにあって欲しい非日常感に乏しいとも言える。

ベッドの幅は狭いが、シーツやマットレスなどすべて最高級で快適さはこの上ない。カーテンはレースに加え、上下に動くローマンシェードで遮光を可能にした。レース、シェードともに電動だ。しかし、設計にいささか首を傾げざるを得ない部分がある。レースをめいっぱいに開放しても、およそ全体の3分の1近くはまとまったレースで隠れてしまう。せっかくの広い窓が生きてこない。

さらに、窓際のちょうどベッドに向かい合った位置に天井から床までのプレートがはめ殺してあり、そこにプラズマディスプレイが掛かっている。これでまた窓が狭まっているわけで、カーテンを全開にしても、結局は半分くらいは死んでしまっているのだ。しかし、ディスプレイの掛かったプレートの裏は人が通れるほどの空間があって、まったくもって無駄になっている。ならば、どうしてレースを開放したときにその部分にまとまるように設計しなかったのか不思議でならない。そうすれば大きな窓が一段と価値を持ったことだろう。

また、窓際の固定ベンチとシェードの位置関係が計算と違ってしまったのか、ローマンシェードを下ろしたとき、シェードがベンチにつっかかって下りきらない。それならとベンチにかからないようシェードを押しやると、コーナーの部分に大きな隙間ができて光が漏れてくる。困ったものだ。

ワークスペースにはプリンタ、ファックス、スキャナの機能を併せ持った複合機が備わっており、高速インターネット回線は一日1500円で利用できる。しかし、マルチメディア設備の充実をひとつの目玉にしているこのホテルでさえ、インターネット回線には不具合があった。いくら頑張っても接続できず、係に問い合わせたところ、自分のホテルの設備によほどの自信を持っていると見えて、こちらの設定や使い方に誤りがあるのではないかと随分しつこく疑われた。

他の部屋に行って試したところ問題なく接続でき、その段になって初めて設備に問題があることを認めた。係を呼んでから部屋に来るまでにも随分と時間が掛かり、かなりの時間が無駄になった。後で聞いたところでは、各階とも同じ位置の縦一列の客室はすべて配線ミスで接続不能になっていたらしい。開業からしばらく経つまで、だれも気付かなかったというのもお粗末な話だ。

バスルームは概ねよくできていた。石張りで広々としており照明のコントロールが可能だ。中央に縦向きにバスタブを配し、その両側にガラスで囲ったトイレとシャワーブースを持ってきたところはパークルームによく似ている。ブルガリのアメニティを揃え、フォーシーズンズならではの高級なタオルやバスローブが用意されている。だが、バスタブは使いにくかった。カランが邪魔で入りづらいし、バスタブ内のカーブに足を取られて転倒しないように注意が必要だ。また、ハブラシセットのクオリティは最悪。とてもフォーシーズンズとは思えない品物だった。マウスウォッシュやバスソルトは、客室係にリクエストしても用意がないと言ってつれなく断られる。

サービスは自信に満ちており熱心で積極的だが、ややのぼせ上がっているきらいがある。また、予想外の出来事が生じた時に対応力は、てんで話しにならないほど稚拙だ。問い合わせに対する回答の遅さは記録的だし、問題が起こった時、それに対応する構えができていないから、どんどん状況が悪くなり、話がややこしくなる。これでこの値段に満足できたか?答えはNOだ。客室は気に入った。しかし、とにかく高すぎる。これでいつまで通用するのか大いに疑問が残る。宿泊料はご祝儀ではない。ちゃんとそれに似合った価値を提供してくれないと困るのだ。亀に負けたウサギの高邁さと、亀本来の鈍くささをリバーシブルで着込んだホテルに見える。

室内の廊下 壁に完全に収納される三面鏡 天蓋は革張り

ローマンシェードを下ろした室内 絨毯とフローリングを巧みに使い分けた床

ワークスペースと窓際のベンチ ベッド奥から入口方面を見る

窓際には肘掛け椅子がひとつ 盆栽の載ったコーヒーテーブル カーテンの操作スイッチ

大型テレビが掛かったウォールプレート ワークスペースにはイスが2脚 シンプルだがデザイン性のあるイス

デスクも革張り 洒落たコーヒーメーカーとカップ&ソーサー

縦に配置されたバスタブ ベイシン

ベイシン タオルラックも洒落ている 実は入りにくいバスタブ

客室エントランス 客室階廊下 エレベータホール

1階ロビー フラワーアレンジメント

建物の下7層がホテル ホテル専用エントランス

2002年10月19日 夜
フォーシーズンズホテル丸の内東京 「EKKI」
怒-4 ガラスの雲丹
フォーシーズンズホテル丸の内東京唯一のダイニングでは、コンテンポラリーなフレンチを提供している。バーから続く店内は、ほぼ店内の全体が見渡せるシンプルな四角い空間だ。照明を落とし、シックな色合いの調度とミニマルアートが引き締まった印象を与えている。テーブルにセットされたカトラリーにはまだキズも少なく、新しいレストランならではのフレッシュでエッジのある雰囲気が感じられる。サービスも同様に若々しいが、その心意気と現実の能力とには相当の溝がある。意気揚々とサービスに当たっているのは大変結構だが、ちょっと何かが起こるとすぐに仮面が剥がれてボロが出てしまうようだ。

メニューは2種類のコースとアラカルトがあった。2種のコースには結構な値段の開きがあるものの、素材的にも内容的にも差が歴然としており、高いコースの方が魅力的だった。料理は高い技術と洗練されたセンスがベースとなり、雰囲気ばかりを重要視することもなく完成度が高い。リラックスした雰囲気を大切にしたいもてなしなんかに使えそうだなと思っていた矢先に、びっくりするような出来事が起こった。

それは、前菜のウニののムースをスプーンですくい、最初の一口を運んだ時だった。淡雪のようにソフトでスムーズに仕上げられたムースだから、ふわりと口に含んで舌触りを楽しもうと思ったが、予想に反して口腔に鋭い痛みが走った。思わず声を上げてしまったほど痛かった。どうやら何かが刺さったらしい。魚の骨?卵の殻?いったいなんだろう?と瞬間的に思いを廻らせながらおそるおそる傷口から異物を抜き取ってみると、1センチ弱の鋭いガラスの破片だった。もしかすると、途中で折れて口の組織に中にまだ残っているかもしれない。小さなものの割には後々まで痛みが残った。

カトラリーを戻し、皿を少し奥へ追いやった。行き届いた店ならば、こうしただけで係がすっ飛んでくる。しかし、この店では誰一人気付かない。そればかりか声を掛けようにも係はみな忙しそうにしていて、なかなかつかまらなかった。随分としてから、係がやってきて、途中で食べるのをやめた料理を見て「お口に合いませんでしたか?」と尋ねた。こんなものが料理に入っていて、それが口に刺さって痛いんだと説明したが、その返事もまた信じられないものだった。「すぐにお作り直しいたします」と、にっこりと笑うのだ。

とりあえず命に別状なんかありゃしないまでも、出された料理で体が傷ついたと言っているのだから、新しい料理をこしらえる前に、まずは傷口のに意識を集中するに越したことはないことくらい、給仕である以前に人間として常識だろう。もちろん、料理にわざわざ好んで異物を入れる料理人がいるとは思っていない。まさかこんなものが入っていようとは、誰一人気付かなかっただろう。その点を責める気はないけれど、なぜこんなことになったのかをよく考え、十分に反省してもらいたい。ただちにマネージャーから納得のいく説明をするように要求すると、係は厨房へと消えていった。

それからもまた随分と待たされた。やっと現れ責任者だと名乗る男は、これはウニに入っていたものだと考えられると報告した。その言葉にも態度にも、ホテルには過失はなく仕方のないことだと思っているふしが見え見えだった。もちろん、傷を気遣う言葉など一切聞かれなかった。「ほう。ウニにこんなガラスの破片が入っているというのは、よくあることなんですか?」と尋ねると、まれにあることだという。

もしそれが本当なら、そんな知識を持ちながら十分な注意を怠って調理したのは失態だ。だが、ウニなんて毎日夥しい量が消費されているのに、ウニを食べて怪我をしたなんて話しは聞いたことがないから、にわかに信じがたく、苦し紛れの言い訳にしか聞こえなかった。更に、ここのマネージャーは彼ではない。「ロオジエ」から来た優秀なマネージャーが別にいることはわかっている。その彼が直接顔を見せないことにも落胆した。

雰囲気はなかなかでも、中身がきちんと詰まった店はそうそう存在しない。この店もまた、うわべを塗り固めただけの張りぼてなのか。これが実像と決め込むにはあまりにも若すぎる店だが、今後は十分に危機感を持って店を育てる努力をしてほしいものだ。

[フォーシーズンズホテル丸の内東京]

Y.K.