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2005.12.10.(土)

マンダリンオリエンタル東京 Premior Grand Room
Mandarin Oriental Tokyo
哀-5 響き合わないサービスと響き合う騒音
夜の外観
アジアを拠点にラグジュアリーホテルを展開するマンダリンオリエンタルグループが、ついに東京に進出した。東京で最高のホテルを目指すという意気込みも聞こえていたので、宿泊するのが楽しみだった。出かける前からわかることは、値段は確かに東京でも最高の域にあるということだけ。あとは、実際に体験してみなければわからない。さて、マンダリンオリエンタルの本領は、どこまで発揮できているのだろうか。

立地はいい。日本橋の一等地に建ち、周辺の雰囲気にも恵まれている。東京駅から車で数分で、地下鉄の駅に直結とアクセスも申し分ない。この日は東京駅からタクシーで向かったが、通りにでるとすぐ目の前にそびえて見え、まるで目と鼻の先のように感じられた。開業して間もない土曜日とあって、車寄せは混雑していたが、ドアマンからベルマンへの引継ぎはスムーズに行われ、まずまずの好印象だった。

ロビーは最上階にあたる38階にある。そこまで向かうエレベータはまるで百貨店のような混雑ぶりで、乗り込むまでに数基見送らなければならなかった。ロビーはスッキリとデザインされており、個性的なオブジェや異なる素材を見事に調和させている。夜ともなれば、効果的に抑え込んだ照明のコントラストが加わり、一層落ち着いた空間となる。

チェックインはフロントカウンターで行った。これまで、どの国のマンダリンオリエンタルでも、チェックインは客室内で行っていたので、フロントカウンターに案内されたことに違和感があった。更に、フロント係は混乱を極めており、チェックインはめちゃくちゃだった。手続きをする係が途中で入れ替わり、両者でまったく違ったことを言う。また、同じことを何度も尋ねられ辟易。いくらオープン間もないとは言え、非常にみっともない。

チェックインには30分以上を要した。その間、カウンターに立たされたままだった。高級ホテルのスタッフを自負するのなら、客を長時間待たせるなど耐えられないという感覚を持つべきだ。しかも、客の立場から物を考えることを忘れ、自らの思い込みを優先させる従業員が多かった。更に、礼儀正しさにも欠ける印象があった。

フロント周辺を見回すだけでも、他のホテルで見覚えのある従業員が何人もいる。確かに、優秀な人ばかりを集めているが、どうもそれが仇になっているようだ。それなりに自信のある人ばかりが集まると、かえって折り合いがつかなくなり、協調性が損なわれる。個人プレーが目立ち、チームワークが悪くなりやすい。そうして起こる弊害に、滞在中、数え切れないほど遭遇した。また、オープン屋と言われるような、新規開業ホテルばかりを渡り歩く従業員も少なくない。そうした人々が中心になって開業するホテルは、結局のところ何かが似通ってしまい、ブランド本来のカラーが霞むこともある。

客室フロアへは、それ用のエレベータを使って向かう。30階から36階までが客室になっており、38階のフロントからだと降りて行くという格好だ。客室フロアの廊下は、ややありきたりのデザインでつまらないと感じた。

今回利用した客室は60平米のプレミアグランドルーム。床は竹のフローリングに所々には立派なラグマット。明暗の木材色や異素材のファブリックを使い分け、シャープさと柔らかさ、明るさと落ち着きなど、絶妙なバランス感が表現されている。カウチベッドやブードアクッションには、まるでドレスのようなエレガントな生地。小物ひとつを取っても、よく吟味されており、質感も極めて高い。全体的に見るとレジデンスのような雰囲気にまとまっている。

照明は明るいデスク側と、ほのかな感じのベッド側とでコントラストをつけている。ベッドは135センチ幅のものが2台並び、今では珍しくなったベッドスプレッドを掛けてある。その萌黄色が部屋のアクセントカラーにもなっている。ベッドボードから天井にかけて、和をイメージさせるクロスを張った。一方のデスク側は塗り壁。天井高は3メートルに達し、圧迫感のないゆとりの空間だ。

デスクは広く、仕事だけでなく、あらゆる用途に使えて便利だ。デスク全体をスライドさせると、電源、高速インターネット、iPodなどを接続できるオーディオの接続口が現れる。TVは45インチの液晶で、海外CS放送や地上波デジタル放送など、充実したプログラムを楽しめる。もちろんDVDプレイヤーも備えている。

窓はとても大きい。ほぼ床からのワイドな窓からは、東京の景観を遠くまで見渡せる。近くに視界を遮る高い建物がないので、眺めは素晴らしい。レースブラインド、ドレープともに電動だ。ナイトパネルでは、照明とカーテンがコントロールできるのだが、暗くなると、どのボタンが何に対応しているのか見えないのが不便だった。ブラインドのボタンとサービスコールボタンが近接しており、手探りで操作するのは気が気でなかった。

ミニバーには様々な飲み物やスナック菓子が用意されるが高額だ。シャンパンのハーフボトルは14,000円。しかし、シャンパングラスの用意はなかった。また、無料の茶は、紅茶、ウーロン茶、ルイボスティーを備えるが、日本茶やコーヒーはない。

バスルームも快適でユニークな空間に仕上がった。全体にグレーの御影石を使い、ベイシン側のガラスを通して室内が見える造り。ベイシンボールも石をくりぬいて作られており、ベイシン前のミラーは左右にスライドするようになっている。ベイシンの脇に曇りガラスで仕切られたトイレがある。バスタブは饅頭の断面のようなカタチをしており、大きくて深いのはいいのだが、給湯にはかなりの時間を要した。独立したシャワーブースに扉はなく、レイン、ボディ、ハンドの3種類のシャワーと、腰掛けられる石の段を設けている。シャワーの水圧は高く、快適だった。

アメニティはアロマテラピーアソシエイツ製、タオルは3×2×4枚。立派なバスローブはクローゼット内に用意されている。歯ブラシが安物なのが残念だった。バスルームの裏側はクローゼットになっている。十分な収納スペースとバゲージラックを備えており、バスタブとの間にはルーバー付のガラス窓もあるが、風呂からクローゼットを覗いても、あまり楽しくないような気がした。クローゼットの一部は、部屋の外側にも扉が設けられており、ホテルからの届け物を、ドアを開けることなく受け取れる「パススルークローゼット」になっている。

今回の客室はエレベータホールから近いこともあり、廊下からの騒音が気になった。また、客室階へのエレベータは、パブリックフロアの死角のような位置にあるので、誰でも人目を盗んで簡単に乗り込むことができる。それをいいことに、大勢が集まってバカ騒ぎをしている部屋もあり、深夜になっても平井堅の「POP STAR」が大音響で廊下に響き渡っていた。こうしたことを防止できないようでは、あえてロビー階でエレベータを乗り換えさせる構造にした意味がないだろう。

更に、何かの低周波が室内の備品に共鳴して、深夜まで不気味な振動がやまなかった。その振動に合わせて、ベース音のような重低音も響いてくる。デューティーマネジャーに原因を調べさせたが、わからないとしか答えない。自ら37階に様子を見に行くと、ちょうど部屋の斜め上くらいの位置に、サブウーハーを備えたスピーカーがあり、バーに向けて重低音のBGMを流しているのがわかった。これが建物と共振していると思われたので、そのように伝えたが、何ら改善してはくれなかった。

最も不可解だったのはレストランの予約に関してだった。予約状況を知りたくて、ホテルディレクトリーに従ってレストラン予約係に電話をしたが、何度かけてもつながらない。しかたないので交換台経由でつないでもらったが、5分以上保留にされたあげくにやっと係と話が出来た。空き状況を尋ねると、あっさりと終日満席だと言われてしまった。遅い時間でもいいし、たまたま席に余裕が出来たら部屋に連絡するとか、何か方法はないのかと尋ねても、何のアドバイスもなく、まったくもって不親切な印象だった。ではレストラン「K'shiki」に直接状況を確認してコールバックするように頼んだところ、10分後に電話があり、いつでもどうぞとのことだった。

すぐに支度して「K'shiki」に行ったが、店はガラガラ。それから食事を終えるまでの1時間余り、結局3割程度しか席は埋まらなかった。これで「終日満席」とはどういうことかと尋ねると、「予約は窓際の席しか受けておらず、その他は来店順に案内している」と言う。だが、先程のレストラン予約の説明では、そうは受け取れなかった。レストラン予約にはこのように言われたと話すと、店の人は驚いているという始末。こんなことをしていては、客の不信感を買うだけだ。

オールディダイニングに当たる「K'shiki」では、コース5,500円、8,800円の2種類、その他アラカルトが千円台から四千円台まである。また、ライトミールメニューも数種類用意され、軽い食事にも対応する。リネンのテーブルクロスに、黒いナプキン。店の照明はかなり絞られている。サービスは丁寧だが、細かいミスが多かった。また、料理提供にやたらと時間を要しかったるかった。これで本当に満席になったらパンク間違いなしだが、こんな情けない状況で開業するとは厚顔無恥もいいところ。

チェックアウトは長蛇の列だった。マンダリンオリエンタルに行列なんて、まったくもって似合わない。でも、現実は行列。だったら、ここがマンダリンオリエンタルであることが幻影なのかもしれない。サービスは一流を気取っているが、洗練にはまだ程遠いし、謙虚さに欠けるスタッフだらけ。東京で一番高い客室料金が惜しいと感じなくなる日は、いつになったら訪れるのだろう。今回、料金に見合う価値を感じることは、残念ながらついぞなかった。

大きな窓の客室 ベッドスプレッドは萌黄色

45インチテレビとデスク 茶器

カウチソファ 室内奥から入口方向を見る

クローゼットエリア ベイシン

シャワーブース バスタブ

38階ロビー コンシェルジュデスク

38階から37階を見下ろす バーの一角

2005.12.11.(日)
シグネチャー フレンチインスパイアダイニング
Signature
オードブルの赤座海老
哀-4 トーンダウン
ランチの予約をしようとしたら、結局、前夜の繰り返しだった。「満席です」。だが、前夜の経験があるので、このホテルでその言葉を信じることはない。よく調べるように頼んだが、「一日600件から1000件の電話があり、4人体制で対応していても追いつかない」などと言い訳をする始末。

また、客室から電話をしているのに、外線からの通話と同じ扱いになるシステムらしく、宿泊客だとこちらから名乗らない限り、そうだとは理解されない。電話口の係に、端末に発信者の情報は表示されないのか聞くと、「個人情報保護のため、部屋番号などは一切表示されない」のだそうだ。チェックインの際に住所まで書かせ、クレジットカードのプリントまで取っているその組織内で、今更個人情報がどうのこうのとは、聞いて呆れる。

そもそも、高級ホテルなら、ハウスゲストに対しては特別な配慮をするのが普通ではないか。178室分の宿泊客とその他60億人とを同列に扱うのはおかしい。だが、このホテルでは、ハウスゲストに便宜を図るという気はまったくないらしい。

結局、よく調べてもらったら、またしても空席が出て来た。そして、またしてもこの店が実際に満席になることはなかった。

店内は広く、ややポップな装飾が軽やかでキュート。ホテルダイニングというより、巷のラウンジのようでもあり、都会的でユニークなレストランだ。だが、デザインは面白くても、食事がしにくいのではレストランとして落第。テーブルとイスの高さがアンバランスで、非常に疲れる。天井が低いからか、店内のざわめきが変に響き、デパートの食堂のような雑然とした雰囲気で落ち着かない。できるだけ早く食事を済ませて立ち去りたい気分になった。

8,275円のコースを注文した。アミューズはグルヌイユに素麺をまぶして揚げたものに根セロリとパセリのピュレを添えた小皿。これが一番美味しかった。赤座海老とかぼちゃにサンドライトマトのピュレ、ヒラメの蒸し焼きにレンズ豆とフォアグラ、シャラン産鴨、洋ナシのパイとコンポートとソルべという内容だが、料理の味も質も段々とトーンダウン。料理の間があき過ぎてダレるし、慌てて仕上げているのか、料理が冷めていて盛り付けも雑だった。

どのセクションを取っても、オペレーションがめちゃくちゃ。高級ホテルを支えるだけの従業員数が確保できていない様子。サービス陣の顔ぶれは、実力派揃いなのに、その割りに目が行き届いていない。いいことなし。

[マンダリンオリエンタル東京]

Y.K.