意地悪ダイニング
2006.01.01(日)
ストリングスホテル東京 Moderate Deluxe Room
The Strings Hotel Tokyo
怒-2

正月バージョンのクマ 元旦の東京。初詣で賑わう場所は別として、都内はどこも人が少なく静まり返っていた。この年最初のホテルステイはストリングスホテル東京だ。フロントに着いたのは午後1時前。あらかじめ伝えてあった到着予定より、3時間も早く着いてしまった。まだフロントは前夜から滞在していた客のチェックアウトの混雑が途切れたばかりで、ロビー周辺は活気がある。いつも落ち着いた穏やかな時間の流れを感じさせる場所なのだが、今日は違った表情を見せていた。

フロント前には見慣れた係が数人立ち、行き交う客たちの世話に余念がない。今回、随分と久しぶりに来たのだが、いつものように温かく迎えてくれた。チェックイン手続きはすぐに済んだが、部屋の準備が整うまで1時間要するというので、「ザ・ダイニング」でランチを食べることにして、仕上がったら声を掛けてくれるよう頼んだ。

「ザ・ダイニング」の入口に立つと、見るからにやる気がなさそうな係が来て、禁煙・喫煙の希望を尋ねてから席へと案内した。途中、数名の係とすれ違ったが、どの人も暗い表情でカリカリしている印象だ。フロントのメンバーが生き生きしているから、相対的にそう見えるのかとも考えたが違うようだ。案内された席は、狭いテーブルを横一列に並べた窮屈なコーナーで、両脇にはすでに先客がいて食事をしている。先客は、願わくばこの席に客は来ないで欲しいという信号を密かに発するかのように、わずかに顔を上げた。確かに、特段混み合っているわけでもなく、どちらかというと閑散としているのだから、なにも寄り集まって座ることもない。

係に別の席にして欲しいと言うと、そこから少し離れた席に案内された。いかにもしぶしぶ対応しているという感じだった。そして、座るやいなや「2時から予約が入っている席なので、それまでに退店を」と言う。コースを注文したら、1時間で終わるかどうかわからないし、第一、時計と睨めっこしながら食事をしてもじっくり味わえない。他に席はないのかと尋ねると、「喫煙席ならどちらでも」とのこと。意地悪な言い方だった。それに対して不機嫌そうにしていたら、係もその空気を察したのだろう、禁煙席は予約で埋まっていると説明があった。でも、こんな調子のやり取りになった後では、どんな席に着こうとも、美味しく食べられないような気がしたので、食事をせずに店を出た。

ホテルの外で食事を終えて戻ったのが午後2時。部屋の用意はすでに整っていた。アトリウムを囲むようにレイアウトされた客室階の廊下からは、「ザ・ダイニング」の全景を見下ろすことができる。店は相変わらずガラガラだし、先ほど予約席だと言っていたテーブルも空いたまま。ディナータイムは2部制をとるまでして混雑に備えたが、上から見ている限りでは、結局混雑することはなかった。

客室は、よく清掃されていた。そして、いつもはターンダウンの際に置いていくクマのぬいぐるみが、もうすでにベッドの上でかわいらしく横たわっていた。寝そべるような格好のクマが、手作りと思われる赤い座布団を枕にくつろいでいる。また、正月のホテル周辺情報をまとめた冊子が用意してあり、そこにはデパートの営業案内や、品川界隈の散策情報、駅伝の通過予報などが、実に詳しくまとめられている。窓辺のテーブルには、北品川にある「あきおか」の手焼きせんべいが振舞われ、情緒のある品川風情を感じさせる。客室で過ごす時間はとても快適だった。しかし、クローゼットにハンガーが5本しかなく、少々不便だった。

翌朝は、7時過ぎに「ザ・ダイニング」で朝食「ストリングス・ブッフェ」を。やはり、係はまるで死んだ魚のよう。どうしてこうも暗いのだろう。天気もいいし、アトリウムのトップライトからは明るい光が降り注いでいるのに。係の数は多いのだが、ニコッとできるのはひとりだけだった。だが、料理は美味しかった。特にフルーツは種類が多く、盛り付けもいい。8時近くになると急に混雑してきたが、ブッフェ台のメンテナンスも良好だった。

食事の後、駅伝のランナーが通るのを見物に行った。スタート地点から遠くないので、まだランナーの走りに開きがなく、皆がコロニーをつくって一瞬で通過していった。そのスピードの速いこと。競馬場の馬のようと言ったら大袈裟だが、そのくらいインパクトのあるスピードだった。さすがだなぁと感心しながらロビーに戻ると、係が親切に「そろそろ駅伝が通りますよ」と教えてくれた。もう行ってしまったとは言いにくく、微妙にニッコリ笑って応じた。

このホテルは、活気に溢れる階下の世界から遮断された穏やかな時間の流れこそが最大の魅力だ。広々として開放感のあるアトリウムは、このホテルを利用するすべての人が行き交う場所であり、客室階の廊下からもいつでも見下ろすことができるオアシスでもある。微かに揺れる水面が光を反射し、人々が発する様々な音が軽やかに響くが、それでも何かが舞い上がるというよりも、静かに降り積もるような緩やかなリズムを感じさせる。宿泊もレストランも、それに相応しいサービスを心がけて欲しい。

 
それぞれのベッドにクマ 夜の室内 ベイシン

窓からの景色 アトリウムにあるガラスの橋 水面にアトリウム空間が映る

 
ストリングスホテル東京 030525 030907 030917 031002 031103 040112 040224 040324 041226 050703 050723


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