しかしそれも元をただせば、せっかく立派なホテルを建てたのに、客に足を運んでもらうための努力や演出ができずにいるホテルの責任である。そもそも中途半端な立地にあるというのに、最寄のJR駅までの送迎は便数が少ない。せめて15分間隔で運行しなければ、人の流れは増えないだろう。

そして、宿泊プランの企画が要領を得ず、チェックアウトタイムや利用できるサービスを制限しているプランばかりで、それでは安かろう悪かろうにしかならず、魅力がない。高いレートで泊まる人が不満に思わないようにというつもりかもしれないが、そういう客には通常よりも更に質の高いサービスや付加価値を与えるべきであって、割り引いたからといってケチなことをするようでは、これだけの客室を埋めるだけの支持を得るのは難しい。

だが、若いスタッフたちは感じの良いサービスぶりを見せてくれた。ドアマンの出迎え、チェックイン、部屋へのアテンド、どれもが丁寧で、さわやかな笑顔があって、親しみがこもっていた。チェックインの際は、デスクに座るとまずオシボリを出すようになった。どんな仕事でもそうだが、楽しみながら働いている人の姿は生き生きしており、いつ見ても気持ちがいい。

この日の部屋は31階、東京タワー側のツインルーム。すぐ上のフロアは特別スイートのあるロイヤルフロアなので、それ以外のフロアとしては最も高層に当たる。そして、このフロアはエグゼクティブフロアプレミアムなので、専用ラウンジ、スパ、朝食、ミニバー無料などの様々なサービスが利用できる。

案内された時、部屋はすでにターンダウンされていた。カーテンは閉じられ、ベッドもすぐに眠れる状態にセットされている。もう日が暮れているとはいえ、まだ夕食前。できることならターンダウンはもう少し後にして欲しかった。この状態になっている部屋に通されると、もう一日が終わってしまったような気分になる。

27階のラウンジに行ったが、やはり貸切だった。係は「いつもありがとうございます。今年もよろしくお願いします。」と丁寧に挨拶してくれた。覚えてもらえるほどに足繁くは通っていないが、そう言われて悪い気はしない。カクテルをこしらえてもらって、新鮮なフルーツを食べながら、しばらくくつろいだ。その後はスパ＆フィットネスへ。ジムやプールは空いていたが、温泉には韓国人の中年男性がグループで入ってきて、よく通る声で話すので賑やかだった。彼らは温泉に入るだけのために一人4,000円の伝票にサインしたようだが、おそらくこの宿泊自体が他の人の金で実現しているからなのだろう。

朝食は「ブリーズ ヴェール」のアメリカンブレックファストを利用した。店内は広く明るく、朝の雰囲気にもよくマッチするが、3,500円もする割には内容がよくなかった。黒服を着た中年の係は、メニューを差し出すこともなく、口頭で注文を受けていく。その口調は、デパートの実演販売のように、馴れ馴れしくて、いささか下品だった。パンはトースト、クロワッサン、デニッシュに加え、なんとソーセージパン。これが田舎っぽさを増長している。コーヒーや紅茶は、保温中のデカンタからそのまま注ぐという無粋なサービススタイル。しかも、まずい。救いはオムレツだった。良質の卵を使っており、見た目もいいオムレツが提供された。だがそれでも2,500円以上は出したくない内容だった。

全体的な印象としては、とにかく「ダサい」の一言。部屋は使いやすいし、備品のひとつひとつは上質だ。バスルームも立派だし、アメニティもいい。だが、名だたる外資系と肩を並べたいのなら、バスルームにテレビやBGM設備を設けたり、ヘルスメーターを備えるくらいは必要だ。プリンスにしては頑張ってるとは思うが、まだラグジュアリーホテルの何たるかが理解できていない。トータルでの演出力を養って、バランスのよい魅力を発信できるホテルになってほしい。