月餅とシャンパン
2007.09.27(木)
東京新阪急ホテル築地 Junior Suite
Hotel New Hankyu Tokyo
楽-2

隅田川沿いにそびえるタワー 夕方から雨になった木曜日。9月も終盤だというのに、まとわり付くような蒸し暑さが感じられる。例年のことだが、秋はある日突然やって来るのだろう。今日の都心はまだ夏の匂いがする。ホテルに着いたのは19時過ぎだった。地下鉄築地駅から隅田川の方角にまっすぐ歩けば、ほぼ正面にひときわ高いタワーが見える。おそらくそのタワーでの仕事を終えた人たちなのだろう、傘をさす人、急ぎ足に駅を目指す人など、店もまばらな道すがらに大勢とすれ違った。

ホテルはひっそりとしていた。小さなエントランスを入り、目の前にあるフロントカウンターへ。ロビーは大理石を使った90年代的デザインで、フロントカウンターの他、インフォメーションデスクや、いくつかのイスとソファを配しているものの、そこでくつろぐような雰囲気ではない。どちらかというとアッパービジネスホテル的なロビーである。

チェックイン手続きも、マニュアルっぽい対応。スピーディだし、間違いもないのだが、なんとなく物足りなかった。客室への案内も実施しているようだったが、それも積極的にということではないらしく、辞退することを期待されているように感じられたので、ここは素直に辞退した。

ロビーから高層階までは2基のエレベータが往復している。客室数は少ないが、場合によっては待ち時間が長くなるのが気になった。32階はアトリウムフロア。レストラン、ラウンジ、小宴会場を配置しているが、特に中央に設けられたラウンジが注目に値する。20年前ならば、このようなラウンジはあちこちのホテルに見られたが、時代が変わり、都心では珍しい雰囲気のラウンジになった。

珍しいのは、ゆったりとレイアウトされたソファや、最上階までの吹き抜け空間ではなく、今では時代遅れのインテリア、自動演奏の電子ピアノ、そしてホテルバーの流れを汲むキリッとした正統派のサービスなどが醸し出す、レトロとまでは行かないまでも、ちょっと懐かしい雰囲気である。

しかも、この日はガラガラ。アルバイトながらも気の利いたサービスをする係に恵まれ、ホテルのラウンジで過ごしているという実感とともに、季節のデザートを味わった。温かい栗のブリュレというデザートだったが、肝心な味は微妙。よく火の通った卵の黄身を食べているような、モソモソとした食感だった。ひっそりとしたというより、しんみりしたという方がピッタリの空き具合は、在りし日の湘南ホテルやソフィテル東京にも通じる。

客室は33階から38階までに位置している。今回利用したのは、34階にあるジュニアスイート。このホテルには1室しかなく、33階にある和室と並んで最高級カテゴリーの客室である。面積は62平米。入口ホワイエは広く取られ、アーチ状の仕切りを通って居室に進むようになっている。途中には折戸の付いたクローゼットを設置。バスローブやビニールのスリッパはここに用意されている。

居室はリビングとベッドスペースのあるワンルームタイプ。リビングにはソファセット、マッサージチェア、29インチブラウン管テレビの載ったサイドボードがあり、マッサージチェアは最近入れ替えられたらしく新しい。空気清浄機や人造観葉植物もある。ソファにはレースの肘掛けカバーや、ゴブラン織り風のクッションが添えられ、テレビ側の壁には油絵が掛かっているなど、昭和のセンス。LANやディレクトリー、ステーショナリーは、テレビの脇に用意されているが、ここで事務作業をするのは難しい。

ベッドスペース奥の窪みにはワイドなドレッサーがあり、ここをデスクとして利用できなくもないが、よほど長いLANケーブルがないと届かないだろう。ドレッサーコーナーの脇には、引き出し付きの大きなバゲージ台があり、ここにも油絵が掛かっている。ベッドは150×200センチサイズが2台並ぶ。寝具は真っ白いデュベカバーで覆われているが、この部屋のインテリアテイストには、ややサッパリとし過ぎている感もある。ベッドの前にも十分な収納スペースが用意され、その上には21インチのブラウン管テレビが載っている。

天井高は270センチ。天井はアーチ状で、蛍光灯の間接照明が埋め込まれており、カスケードのデコレーションドレープは部屋をエレガントに見せている。全体に上質な調度品を選んでいるが、時代遅れの感は否めない。ある種の懐かしさを味わうには、この上ない環境だとも言えるだろう。

バスルームは、大理石で出来た2段のステップを上がったところにある。特別な空間を感じさせる演出だ。バスルームは総大理石張り。7平米の面積があり、窓際に設置された大型バスタブ、広いシャワーブース、独立したトイレ、スツール付きのベイシンを備えている。窓はそれほど大きくない。だが、バスタブ脇の窓と、ビルの本来の窓との間には空間があり、本来の窓は部屋のと同じ大きさがある。ということは、日航新潟のバスルームと同様、せっかくの窓を殺してしまっているということだ。

また、贅沢な空間ながら手入れが行き届いていない。バスタブから幾度となく湯が溢れたのか、床には腐っている部分がある。また修繕した跡も見受けられるが、作業が粗雑で汚らしい。アメニティはビジネスホテルで使うような品質のディスペンサーボトル。せっかくの内装には不釣合いだ。給湯も遅く、シャワーヘッドは故障していた。

この夜は中秋の名月後の満月が見られるはずだったが、月は厚い雲に覆われている。お月見は旧暦を使うので、長いこと中秋の名月は満月なのかと思い込んでいたが、実際は年によって数日の前後があるのだそうだ。ちょうど、姜建華さんが中国から塩タマゴの月餅を持ってきてくれたので、それとシャンパンで月に思いを馳せてみた。シャンパンと月餅。これが、案外いいマリアージュ。新しい発見だった。

 
アーチ天井が目をひく室内 リビングのソファ バスルーム入口には円柱と大理石のステップがある

ベンチにもなりそうなバゲージ台 ベッドルームからリビングを見る ベッドは真っ白のセッティング

ベッドの奥にドレッサーコーナー リビング マッサージチェアと空気清浄機

窪みのドレッサーコーナー 大理石仕上げのバスルーム シャワーブースも独立している

簡素なアメニティ 窓は小さいが日差しがいっぱい バスルームからの眺め

客室からの眺め ラウンジを見下ろす アトリウムを見上げる

 
東京新阪急ホテル築地 960104


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