ホテルニューグランド Single Room
Hotel New Grand
2008.10.24(金)
横浜市中区
喜-2

華麗な雰囲気のある本館ロビー
 
アウトベイシン 今回で4度目となるニューグランド本館のシングルルームツアー。2回はバスタブ付きで、1回はシャワーのみのタイプを使ったが、心地よさはともかくとして、シャワーのみの部屋は独特の雰囲気があって、まさにタイムスリップしたような感覚を味わえた。これぞクラシックホテル。便利さをあえて遠ざけ、ほころびのある窮屈な部屋で過ごす時間こそ、このホテルの醍醐味だ。

そうは思いつつも、やはりシャワーシングルに泊まるには、それなりに勇気がいる。これは登山や冒険の一種なので、実行には心身ともに万全な時を見計らう必要もあるのだ。気が弱っている時に利用すると、ふさいだ気分が余計に滅入って、症状は悪化するだろう。特に失恋の後はよろしくないと思われる。

かくして万全な体調でチェックインに臨んだニューグランドであるが、フロントの対応はスムーズで感じのよいものだった。用意されたのは本館客室としては最上階の部屋だった。予約したのは一番狭いシャワーシングルだったが、フロント係は「少し広めのラージシャワーシングルをご用意しました」と言っていた。もっとアップグレードされてバス付きシングルやタワー客室にされてしまうと困るのだが、シャワーシングルであるならば、広い部屋をありがたく使わせてもらおう。

タリフによれば、狭い方は13.7平米で、広い方は17.5平米となっており、料金差は3,465円。面積はこのように詳細に記載されているものの、実際は同じカテゴリー内であっても、部屋の位置によってレイアウトや広さにかなりの差があるように思われる。ルームキーはシリンダー式。カードキー主流の時代に、使い込まれた真鍮のキーホルダーがひときわ存在感を放っており、裏面にはルームナンバーが逆から刻印されている。

さあ、今回はどんな部屋だろうか。これほど扉を開けるのにワクワクするホテルも珍しい。部屋に入ると、そこは想像もしていなかった世界だった。小さな部屋に小さなベッド、そして小さな窓。それは予想通り。だが、ベッド脇にベイシンがあろうとは思っても見なかった。まるで19世紀のヨーロッパのホテルのようだ。あるいは水道が整備される以前の、客室係がカメに湯を入れて部屋まで運んでいた頃の雰囲気とさえ重なった。それは、洗面所と表現した方が相応しいような、ベイシンの古めかしいデザインが連想させるのだろう。

もちろん、客室は本館の大改装時に内装を一新しているので、インテリア自体はクラシカルだがそれほど古びてはいないはいない。ただ、カーペットは踏み固められて汚れているが。ベッドは110センチ幅。高さは50センチあるが、この部屋のマットレスは薄い。寝具はカバーと一体になったタイプで、棒枕がひとつ添えられている。

ナイトテーブルはベッド脇に、通常とは90度傾いた向きに置かれており、ベイシンの存在とともに、この部屋をなんとなく病院の個室のようにも見せている。ベッドに横たわり、退屈なテレビを見ていると、まさに入院患者の気分。そのテレビはソニー製21型フラットブラウン管テレビで、有料チャンネルもあるが、無料チャンネルと合わせても選択肢は少ない。

窓際にある扉はクローゼット。それほどい広くはないもののウォークイン可能で、チェストも設置されており、置き家具よりは収納力がある。

窓ガラスには和紙風のシールが張られており、曇りガラス状に目隠しされているのは、裏側で眺めが悪く、室外機など、あまり見せたくないものが見えてしまうからであろう。それでも客さえよければ開放することも出来るというところに、なぜかクラシックホテルらしさを感じてしまう。一方、眺めが悪い分、カーテンは立派だ。色も柄も風合いも、このような狭いシングルルームに使うにはもったいないほどである。

他にも時代を感じさせるところは満載だ。例えば、扉は割と重くて厚そうなのに、廊下の音は筒抜けで、人の声がする度に扉が半開きなのかと不安がよぎるほど。それ以外に、上階の和食レストランからも物音や足音が響いてくるので、控え室で休憩を取っている従業員の気分も味わえる。この部屋でLANは使えないのかと尋ねたところ、バス付きの方には備わっているが、シャワーのみの方にはないとのことだった。

バスルームもまた実に興味深い。よくもまあ、このような快適とは無縁のバスルームを考えたものだと感心する。扉を開ければ、まずは便器が目に飛び込んでくる。バスルームにトイレがあるとうよりは、トイレにシャワーブースを付けたようなもので、主役はむしろトイレである。ここにベイシンはなく、用を足して手を洗うにはベッド脇まで戻らなければならない。

シャワーを浴びるにも、便器がスフィンクスのように堂々と鎮座しているので、畏れ多い面持ちでその脇をすり抜け、カーテンの向こうの簡素なシャワーへと至るのだ。ちなみにバスルーム全体の広さは170×95センチで、シャワー部分は65センチ×95センチ。標準的なシャワーブースに比べるとかなり狭い。

それでも何とかなるのは、シャワーブースのようにガラス扉などがなく、カーテンのみで仕切られているから。下は高さ10センチほどの敷居があって、水が流れ出るのを防いでいる。しかし、カーテンだけではどうしても隙間から水が撥ね、トイレ側の床にも水が溜まる。トイレ側に排水口を設けなかったのは失敗だったと思う。また、トイレットペーパーホルダーがシャワー近くにあって濡れやすいので、トイレから見て左右反対に取り付けたほうがよかっただろう。

シャワーヘッドはハンド式。ハンドルが透明アクリル製の、クラシック調ホテルでよく使われているものだ。バスルーム内には固形石鹸だけがあり、その他のバスアメニティはベイシンに用意されている。シングルルームはリンスインシャンプー。ここにも他の部屋とはわざわざ差を付けているようだ。

ニューグランドでは「ザ・カフェ」の食事も楽しみのひとつ。今回はナシゴレンを注文してみた。味はよかったけれど、思ったよりも量が少なくて物足りなかった。食後には栗のタルトとマリーゴールドティーを。タルトの方はそれなりに大きかったので、トータルでは満腹になった。

食事の後は、本館のロビーやホワイエを見物。歴史ある建物は、いつも穏やかな空気をたたえている。夜も更ければ客が少なくなって、広い空間を独り占めすることだってできる。タワーの宴会場フロアも改装されたが、デザインはクラシカルなテイストを引き継いだ。でも、ちょっとイメージが微妙に合っていない。それよりもタワーのホワイエに並んだ宴会場用のイスは雰囲気を悪くしている。本館の重厚なムードを満喫した後で見ればなおさらだ。このホテルはもう少し日常の演出力を身につけた方がいい。

 
内装のセンスはなかなかのもの ベッド脇にベイシンとテレビ むき出しのベイシンはなんとなくユニーク

通路にあるデスク ナイトテーブルも変わったレイアウト アウトベイシン

シャワールーム 便器が主役 シャワーの床

アメニティ クローゼット内のチェスト クローゼットの棚

窓からの眺め 中庭から見上げる 中庭

中庭の夜景 外観 本館の車寄せから見上げる

本館エレベータホール 本館の階段 本館ロビーを見上げる

本館ロビーの時計 本館ロビー 本館ロビーの天井

 ホテルニューグランド(公式サイト)
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