この状態から何を感じるか。まずは、前回の苦言は、戯言と聞き流されたのだろうということ。その場では客の言葉に「ごもっとも」とうなずきながらも、話が済んだとたんに忘れられているのだろう。そして次に思うのは、このようなことを繰り返し固定客を自ら遠ざけてしまった結果が、苦戦の原因のひとつになっていることにすら気付いていないという哀れさだ。

ホテルのリピーターは、一言で言って「特別扱いしてなんぼ」である。そのための特別カウンターであり、それが機能せずに不愉快な思いをするくらいなら、他のホテルで一般客に混じった方がまだましなのだ。今回は、メンバーだと言って、強引に専用カウンターの前に陣取って、前の客が済むのを待った。そうすることも気分のいいことではないが、気の利かない係の言いなりになるよりはいいし、実際に時間の節約にもなった。

用意された客室は海側のスーペリアルーム。メンバーの規定どおり、予約した部屋よりはワンランク上である。しかし、料金にして1,000円の差しかないアップグレード。この程度では「ありがとう」と言う気にもなれない。

そう感じる背景にはもうひとつ理由がある。アップグレードされたこの部屋は、現時点において、予約したワンランク下の部屋よりも安く売られていた。もし、予約しなおしてからチェックインすれば、より安い料金で、よりグレードの高い部屋に泊まれたのである。だが、直前の予約変更はあまりいい感じはしないだろうと思いとどまった。それが損した気分の始まりだった。

ホテルは、こうした客の心理までは考えていないのだろうが、これが案外、売り上げを左右するもの。結局、損した気分はチェックアウトまで続き、余計な出費はすまいと、財布の紐をギュッとしめたのである。

チェックイン前はこんな気分ではなかった。久しぶりに中国料理のディナーでも食べに行こうかとか、有料でもフィットネスを使おうかとか、やや散財モードであった。これで、メンバーに相応しい歓迎があり、気前よく部屋をアップグレードしてくれたら、財布を空にして帰ってもいい気分になっていだろう。

こうした消極的気分に拍車をかけたのは、極めて弱々しいシャワーと、くたびれてぺちゃんこになったクッション。加えて、日中にトタバタとうるさい清掃の音が鳴り響き、くつろぐような気分になれなかった。客室係に電話をし、周囲の客にも気遣って静かに作業をして欲しいと頼んだら、その時はしばらくおとなしかったものの、後にまた騒々しくなり、翌日もドタバタ騒ぎだった。なぜベッドを勢いよく壁に押し当てる必要があるのか、ドタドタ足音を立てて歩く必要があるのか、まったく理解に苦しむ。

そんな落ち着きのない館内に比べ、窓から見る横浜港は美しかった。なぜか海の青がひときわ鮮やかに見える。そんな中、大桟橋からは富士丸が出航していった。