パーク ハイアット 東京 Park Suite
Park Hyatt Tokyo
2009.09.19(土)
東京都新宿区
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ロビーの一角
 
靴に見る気質と洗練

秋の休日を静かに過ごそうと、昼過ぎに新宿を出発する小田急ロマンスカーで箱根へと向かった。観光特急列車は満席の賑わいだが、家族連れや年寄りよりも、若い女性のグループ客が多かった。というか、やけに目立っていただけなのかもしれない。

箱根湯本駅から、強羅のハイアットまではタクシーを利用した。登山電車のでのんびりと向かうのも一興だが、通勤電車のような混雑では、その旅情も半減であろう。また登山電車を使えば小一時間かかる道のりも、タクシーなら20分足らずと、時間の節約になった。

ホテルエントランスでは温かな出迎えがあり、館内に入ってからもスタッフたちは親しみを感じさせる笑顔を向け、歓待を表している。心地よいやわらかな雰囲気に包まれる一瞬であった。スムーズなチェックインが済み、清潔感があって礼儀正しい男性スタッフが部屋まで案内してくれた。

用意された部屋は、73平米あるデラックスルーム。ありがたいことに、数少ない見渡しのいい位置にある部屋をあてがってくれた。静かによい週末を過ごせそうである。係は「ご用の際は何なりと」と言い残し、部屋を後にした。早速、バッグの荷物をすべて出して、リラックスできる環境を整えるとしよう。

ベッドルームとバスルームの間にあるクローゼットに向かい、服を取りだしてハンガーに掛けようとした時、異変に気が付いた。ハンガーがひどく汚れている。まずは手触りがおかしい。ハエ取りテープのようにベトベトしており、更によく見たら、指紋のくっきりと付いた油汚れが、ファーのように埃をまとっている。この1本だけかと思いきや、数本がそのような状態だった。

これは清掃不行き届きの兆候である。長年泊まり歩いた勘から、こうした場合に抜かりが見られそうな場所をチェックしてみることにした。照明器具のスイッチ類は、ハチミツでも塗りたくったような状態。受話器は吐物の中から拾ったのかと見紛うほどの汚れとにおいである。

すべてのものではないにしても、客が手を触れるであろうものの半数近くに、粘着性のある汚れが残っていた。前の客か、あるいは清掃係の手が汚れていたとしか思えない状態であった。

とにかく、一刻も早く不備を改善してもらいたいと思い、客室係に何度も電話を掛けるのだが、ずっと長い間、話し中である。では、フロントに連絡してみよう。フロントはすぐに電話に応じたが、清掃に不備があるので係を寄こしてほしいと頼んでも、要領を得ない返答を繰り返すばかりなので、終いにはいい加減にしてくれと怒りださなければならなかった。

不備がある箇所は限られているので、30分あればじゅうぶん解決できると思い、30分以内に改善するよう頼んで、とりあえず部屋から一旦外して、温泉浴場に向かった。日中の温泉は他に客もなく、静かな環境の中、ほのかに硫黄の香りがする湯に、ゆっくりと浸かることができた。気がつけば1時間が経っていた。

30分と急かしたのに、こちらがこんなにのんびりしていたのでは申し訳なかったと思い、少々慌てて身支度をして部屋に戻った。ところが、客室係ののんびり加減の方が一枚上手だった。部屋の中では、係がひとり、まるで赤ん坊の尻でも拭くようにして、汚れた箇所をタオルでなでている。

部屋の主が戻っても、特段慌てる様子はなく、「おじゃましておりま〜す」と調子づいていた。時間を制限して頼んだはずだがと聞いても、何のことかさっぱり、というような表情をするばかり。マネジャーを呼ばせたが、これまたチャラけた態度でうすら笑いを浮かべ、まことに感じがよろしくない。

不手際があって、なおかつ急ぎで仕上げるようにと依頼したはずだが、この有様はなんだと苦情を述べても、ニヤニヤしながら「スイマセン」としか言わない。せめて該当箇所を普段よりも一層の熱意で持って清潔にしていれば、ことはそれで済んだのだが、不快感を軽減するどころか助長するとは愚かしい。

いずれにしても、ひとりでのんびりとおこなっていた清掃は、結局のところ問題の解決にはなっていなかったので、もう自分でするので、清掃道具を貸してくれと言って、係たちには下がってもらった。汚れた箇所を拭き取って回っていると、またチャイムが鳴った。

応じると、オペレーションマネジャーと名乗る初老の男性であった。態度や表情から直観的に判断して、この男は今回のことを軽んじていることは明らかだった。

だが、現実には、高級ホテルを名乗るなら、あってはならないレベルの状況である。断じて潔癖を求めて神経質になっているのではない。これほどの汚れが気にならないとすれば、それはもはや鈍感の域であろう。過去数千泊の宿泊体験の中でも、最悪の類に入る清掃状況である。高級ホテルの責任者ともあろうものが、これを軽視するなど、どうしてできようか。

最初から真顔で対応し、真摯に不行き届きを詫びたなら、信頼はたちまち回復しただろう。次回に期待し、今回のことを水に流すこともやぶさかではなかった。しかし、自分たちは真っ当なことをしているのに、意地悪く粗を探されているのだと思い込みし、被害者は自分たちであるかのような態度に出るなど、もってのほかであり、不愉快極まりなかった。

あまりに無礼な態度にたまりかね、普段は決して口にすることのない「総支配人を呼べ」という事態になってしまった。だが、男は「責任者は私です」と譲らなかった。ある意味、芯のある人間だと感心もしたが、この場合、すでに面識があって「何かあれば遠慮なく」と語っていた総支配人本人が応じることに不自然さはなかったはずである。

もはや救いようがないので、話はこの辺で打ち切りにしたいところ。最後に、なぜこのような清掃状態であったのかと、その原因を問い質してみた。答えは「この部屋は眺めがよく、大切なお客様しかご案内しないので、常に念入りな清掃を行っております」というものだった。あくまで、自分の部下を信じて正当化する姿勢を貫くようだ。だが、これでは、単なる盲目ではないのか。

吐物まみれのよな受話器を差し出し、これでも念入りかと聞くと、さすがに言葉を失っていたが、これほど開き直ってしまった後では引っ込みがつかないと感じたのか、「では、どうしたらよろしいのですか」と、禁句を口に出してしまった。

そこまで突っ張るのなら仕方がない、本音を言わせてもらおう。この不潔な部屋には泊まれないので、清潔な部屋とそこまでの交通を用意するようにと告げ、帰り仕度をした。こうして目の前にいる客の機嫌ひとつとりなすこともできず、立派なタイトルを与えられ、誤った判断を重ねているとは愚の骨頂だが、これもみな責任は総支配人にある。あくまで素知らぬ顔を通すというのなら、好きにすればいい。

用意された車に乗り込み、一路新宿へ向かい、2時間掛けて到着したのはパークハイアット。正面玄関には責任者たちが顔を連ね、かつてないほどの丁重さで迎えられた。そのままスイートへと案内され、まずは箱根での非礼について深い詫びがあった。箱根でこのような態度が見られたのなら、それはそれでよかったのに。

料飲の責任者からは、すべてのレストランの席を確保してあると告げられたが、同時に「ジランドール」にはグループ客の利用があるので、勧められないとの助言もあった。

それを受け、迷わず「ニューヨークグリル」を選び、いつもの席で行き届いたサービスを受けながら、神戸牛のグリルを味わった。土曜日のディナーにしては、騒がしいほどの賑わいにはならいものの、ほどよい活気と心地よい雰囲気に満ち溢れていた。だが、バーから聞こえてくるライブ演奏は、あまり上質ではなかった。特にドラムはただ叩いているだけという感じで、抑揚が欠けていた。

客室内は完ぺきな清掃状態。ルームサービスメニューや、季節の案内パンフレットに至るまで、汚れどころかシワひとつない。同じハイアットで、ブランドが違うとはいえ、こうも差があるとは想像を超えていた。

この違いを如実に表していたのが、従業員の靴であった。パークハイアットの従業員が履いている靴は、いずれもきちんと手入れされているが、箱根で態度だけは偉そうだった責任者のものは、ひどく汚れていた。結局、価値観の根底からして違っているのであろう。

 
リビングルーム リビングルーム リビングルーム

リビングルーム リビングルーム 客室ドアと廊下

ベッドルーム ベッドルーム ドレッサー

バスルーム バスルーム バスルーム

バスルーム ベイシン バスタブ

「ニューヨークグリル」店内 「ニューヨークグリル」キッチン 牛肉の見本

「ピークラウンジ」 「ピークラウンジ」 「ピークラウンジ」天井

 パーク ハイアット 東京(公式サイト)
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