郊楽苑には2008年の12月に初めて滞在したが、その直後に一度閉館してしまった。しばらく継ぎ手が決まらなかったが、ようやく話がついて再オープンしたのは2009年10月。第3セクターから民間の運営になったとはいえ、持ち主は別海町のままで、個人でも借りられるほどに破格の家賃であるだけでなく、運営に対する補助も出ていると聞いた。

そうでもなければ成り立たないのだろうが、この観光資源に恵まれた北の楽園で、宿1軒満足に営めないのは気の毒でならない。かといって、いたずらな宣伝が先走り、不用意に人が押し寄せることになっても、この小さな酪農の町にとっては悲劇であろう。知る人ぞ知るスポットのままでいてもらいたいが、宿としてはもっと充実させてもらいたいと、なんともワガママな旅人である。

再スタートを切ってまだ1ヶ月余り。外観には何の変化もないが、ロビー周辺のパブリックスペースは、家具を入れ替えたり、レイアウトを替えるなどの工夫が見られる他、壁紙やカーペットも一新している。

最も大きく変化したのはサービス面。フロントには釧路のホテルや旅館から引き抜かれたスタッフが入り、全体を率いている。まだ女の子たちは不慣れながらも、誠実にサービスに取り組んでいる姿が印象的だ。いずれはホテルの合理性と旅館の手厚いもてなしが見事に調和したサービススタイルが完成するだろう。

用意された客室は昨年とまったく同じ和室。相変わらずタバコのにおいが強烈だ。机の上にはウェルカムメッセージ。牛の形のオリガミにはヒモでシッポを付けてある。モール温泉の掛け流しが楽しめる浴場は日帰り入浴も可能で、昨年は地域の人で賑わっていたが、以前よりも客が少なくなった気がする。休憩場には自販機が増え、マッサージコーナーも新設。売店ではロイズのチョコレートなども扱うようになったが、逆に別海らしさは減少した。

3泊のうち、2回の夕食は館内で食べた。1泊2食付きの定食であるため、内容は決まっている。通常、連泊の場合は内容を変える宿が多いが、ここでは特に変化はなく、同じようなものが出てきた。それは構わないのだが、1回目にはあったデザートが2回目にはつかないなど、ややいい加減な印象も。

朝食も同じレストランで提供される。従業員はひとりだけで、おそらくパートだと思われる。やはり朝食内容も日によってばらつきがあった。そして、初日にはおかずを食べ終わった頃になってやっとご飯を持ってきたので、もっと早く出してほしいと言い残すと、翌日には最初からおかずと一緒に並べられ、食べる時には冷めていた。

係に「お水を下さい」と頼んだら、「私が持ってくるんですか？お水ならあそこにありますから」と言われビックリした。だが、決して人が悪いわけでも、仕事をいいかげんにしているわけでもないと思う。ただ接客のことを何も知らないに過ぎないので、基礎からきちんとした教育が必要だ。店内に流れるJポップのBGMも耳障りだった。

この町の魅力をより鮮やかに彩るものは何か、その輝きを鈍らせるものは何か、しっかり吟味をすることを提案したい。

この町で出会った子どもたちに、別海のよいところとよくないところを尋ねてると、よいところは、動物がたくさんいて、花もいっぱい咲いていること、ゴキブリがいないことなど、よくないところは友だちの家が遠いことや寒いことがあげられた。鹿は頻繁に見かけられるそうだが、これまで鹿を見たことがないと白状したら目を丸くして驚かれた。さらに、宮崎の椎葉村では鹿の刺身を食べたと言うと、全員ドン引きの驚きようだった。

東京の子たちはゲームが好きなだけできてうらやましいと言うので、ゲームはできるが外で遊べないのと、ゲームはできないけど外で遊べるのはどちらがいいかと聞き返したところ、全員一致で後者がいいと答え、内心ほっとした。この素晴らしい環境は貴重な財産であり、都会人の憧れであることを伝えた時の、子どもたちの目の輝きが忘れられない。

同様に、町の教育委員会のスタッフもまた純朴で人間味に溢れていた。お互いにファーストネームで呼び合い、まるでサークルチームのように一丸となっていた。すべての演奏会を子どもたちと共に聞いてくれ、なにごとにも率先してサポートをしてくれた。

おかげで町の公民館で開催された小さな一般公演は立ち見の出る賑わいだった。そこには昨年の学校コンサートを聞いた子どもたちが両親を連れて来たり、その日の午前中に訪問した学校の生徒も多数来ていた。

それにしても子どもたちの洞察力には感服する。午前中と重複する曲がひとつもなかったことや、服装や髪形の細かい違いまで見分けていた。最終日にはうっすらと雪。たった3日ながら、強固なチームで行動したメンバーたちと別れを惜しみながら別海を後に。またいつかきっと・・・