カロリーカット術

毎日の食生活の中で、カロリー過多を気にしている人は多いと思います。
私もそのひとりです。

もともと代謝がよくない体質なのに加え、肥満遺伝子まであります。
なので、食欲に任せてモリモリがっついてたら、たちまちえらいことになります。

振り返ってみると、30歳になるまでは何を食べても平気でした。
洗面器いっぱいのカレーをペロリと食べていましたから。
甘いものも脂っぽいものも味の濃いものも大好き。
それでも太ることはありませんでした。

ところが30歳を過ぎてから、若い連中と一緒に同じ量を食べていたら、だんだんと体重が増加。
気がつけば10キロも太っていました。

こりゃいかんと慌てて対策を講じましたが、美味しいものをおなかいっぱい食べたい欲求と戦うのはストレスでもありました。

そこで30代後半にして、健康維持のために定期的な運動を始めました。
最初は、プールで歩いたり、トレッドミルでウォーキングをするなど、あまり負担のないものからスタート。
次第に慣れてくると体を動かすことが楽しくなってきます。

ちょうど時を同じくして、中国人演奏家たちとのコンサートツアーが急増し、大陸の方々のバイタリティーに付いていくには、更なる持久力が必要になり、ウォーキングから心肺能力向上のランニングへと変更。
その成果が演奏にも表れてきたことで、トレーニングは次第にストイックになり、現在にいたっています。

今でも定期的な運動は欠かしませんが、365日完全外食の生活ですから、その余剰カロリーを運動で消費するには、アスリート級の運動量でなければ追いつきません。

となると、結局のところ、何を食べ、何を食べないかという選択が重要になります。

プライベートな食事では、その取捨選択は難しくありません。
できるだけ野菜を多く摂り、炒め物や揚げ物、脂肪の多い肉は避けるなど、ちょっとした注意だけでも大きな効果があります。

ところが、私の場合、何を食べるかの選択を自分でできる機会は、そう多くありません。

公演時は楽屋に弁当が配られることが多いのですが、まぁ、それはほとんど手を付けずに、一口つまむ程度です。
会場入りしてからは、ほかに考えたり集中したりするので、あまり食欲もありませんので、それでちょうどいいくらいです。

問題は終演後。多くの場合は、レセプションパーティーがあります。
コンサートという特別な日のために、相当前から準備を進め、やっとのことで当日を迎え、無事に終わったのですから、関係者の皆さんは大きな達成感に包まれ、それがレセプションの盛り上がりで解き放たれます。

私に対してもねぎらいを込めて接して下さるので、一番リラックスして充実感を味わいたい時間です。

ところが私は舞台で燃え尽きていて、レセプション時は放心状態。コンサートがいいものになるほど、すべてを出し切ってしまい、一時的に大きな喪失感に襲われていることもあり、周りの出来事が現実に思えないことがしばしばです。

そして、目の前にはご馳走の数々!
「さぞ疲れたでしょうから、たんと召し上がれ!」と気を遣って下さいます。
その声に呼び覚まされるように現実に戻り、祝いの席に相応しい豪勢な料理に舌鼓を打つわけです。
夜の公演なら22時過ぎから食べ始めることも少なくありません。

こうしたことが明日の体型に影響を及ぼすことは明白ですが、皆さんの厚意に水を差すのはもっと耐えがたいことです。
食べっぷりも演奏のうち。皆さんの気遣いは残さず美味しく頂きます。

まるで苦痛に思いながら食べているように感じられるかもしれませんが、決してそんなことはありません。心底楽しんでいます。
本当にイヤなら、相手の気分を害さずに断る方法はいくらでもあります。
でも、皆さんの愛情だけは残すわけにいきません。
その愛情は目の前のご馳走に込められているのですから。

時にはご当地の名物が、またある時には自宅でこしらえてきてくれた素朴な家庭料理が並び、私が夢にまで見た食卓がまさにそこにあります。
疲れて血も通わなくなった内臓には申し訳ないけれど、皆さんとひとつになれる時間を味わうために、もうひと頑張りです。

ある日の食事では、1日で1万キロカロリーに迫る勢いでした。その日の昼はスペイン料理コースほぼ2人前、午後はアフタヌーンティー、夕方におやつ、夜はステーキハウスで両脇のご婦人から「あなたは若いんだからもっとお食べなさい」ってお肉がガツンとやってきて、霜降りサーロインを600グラムも食べていました。

このように連日カロリーの過剰摂取を繰り返しながらも、ふたたび10キロ落として以前の体型に戻れた理由は、ただひとつ。
バランス感覚です。

時にはお菓子も食べますし、とんかつも好きです。
連日のフレンチレストランもどんと来いです。

そんなハイカロリーな食事をした時には、
マリー・アントワネットが言ったと噂されたあのセリフをひねって、
「お菓子を食べたら、パンを食べなければいいの」を実践しましょう。

1日3食のうち、1回は炭水化物抜き。
砂糖菓子を食べたら、夜はさっぱり薄味。
脂ものを食べたら、相当量の野菜を。

私のプランはそれだけです。

世の中には様々なダイエット補助食品がありますが、その効果は上記のもので十分補えます。
これなら経済的ですし、それほどストレスにはなりません。
そして、美味しく楽しく食べるのがいいようです。

また、きちんとしたホテルなら、疲れた胃腸にやさしい料理が見た目にも彩り豊かにおいしく食べられるルームサービスがあります。レストランとルームサービスを使い分けながら、体調管理に役立てています。