使われることのないキッチン

皆さんはどのくらいの頻度で外食をしますか?

家族で暮らしているのなら、気分転換や記念日のだんらんとして、あるいはお母さんが楽できる特別なひとときとして、外食を利用するのかもしれませんし、友人や恋人との特別なシチュエーションをレストランで演出することもあるでしょう。

外食には、いつもとは違う料理だけでなく、いつもとは違う気分を味わわせてくれるという魅力があります。
おいしさ、心地よさ、楽しさなど、さまざまな満足を求めて人はレストランに足を運びます。

私は365日、完全な外食です。自宅でも、各地の滞在先でも、調理は一切しません。
かつてはそれが単なる「現状」でしかありませんでしたが、いつのまにか「主義」に変格してしまいました。

前にも紹介したとおり、私の生活は旅の連続。
自宅に1週間以上続けて滞在することが、ほとんどありません。
そのため、食材を保存できないというのが、調理をしない第一の理由です。

冷蔵庫はありますが、中には液体物しか入っておらず、エコのためにもう電源を抜いてしまってもいいのではないかと真剣に考えているところです。

そればかりか、祖母や母から受け継いだ本格的な調理道具一式も、決して使われることがないまま、博物館の展示物のように収められていますが、博物館と唯一違うのは、それを見てくれる人がいないということです。

食器類も十分に揃っていながら、ほとんど使う機会がありませんが、銀器やクリスタルは定期的に手入れが必要なので、たまに自宅に戻ると、それらを磨き上げることに時間を取られます。

キッチンで火を使うとすれば、お湯を沸かすことくらい。
コーヒーやお茶をいれることは多いので、キッチンはそれ専用の状態です。

あとは、たまにキッチンで手紙を書きます。
なぜだかわかりませんが、親しい人へのプライベートな手紙は、その方が筆が進みます。

キッチンをこんな風にしか使っていないと白状すれば、きっと料理が嫌いなんだろうと思われたでしょう。
ところが、料理は大好きですし、得意でもあるんです。
子供のころから祖母と本格的な菓子やパンをこしらえていましたので、今でもレシピを記憶していますし、友人宅を訪ねた際も、冷蔵庫の有り合わせで見栄えのいい食事を作ったりしています。

でも自宅では決してしない主義なのはなぜかというと、キッチンにいかなるにおいも残したくないからです。

コーヒーや茶のにおいならほぼ消えますが、一度でもキャベツを刻んだら永遠ににおいは消えません。
生野菜のにおいは焼き魚よりも強烈で、遠く離れた場所からでも感じられます。
そういったにおいが、創作の集中力を削いでしまうことがあるので、絶対ににおいを残せないんです。

そんなわけで、ひとりでの食事であっても、さみしく外食を利用しています。買ってきて食べるという、いわゆる「中食」もスイーツ以外禁止。
一人分を調理する手間と材料を考えれば、外食の方がむしろ経済的だという考えもありますが、本音では調理して食べたい気持ちをどうにか抑えています。

最近は料理を趣味にする男性も増えてきました。私もそうしたいところですが、しばらくは我慢です。