深谷と佐野でのリサイタル

11月15日と16日は、それぞれ1日2回のリサイタルでした。15日は深谷市民文化会館大ホールにて「虹の音楽鑑賞会」主催、16日は佐野市文化会館大ホールにて「佐野音楽鑑賞会」主催によるもので、どちらも手厚い歓迎を受け、たいへん気持ちよく演奏できました。

終わった今は、大きな手応えのある演奏をお届けすることができて満足していますが、この2日間に臨む前は、体力と集中力が維持できるかが、とても不安でした。

当日入りだった予定をやり繰りして、早めに稽古を上がって、前日に深谷で一泊。当日入りの場合、朝の通勤ラッシュと重なるので、そこに使う体力ももったいなかったからです。前日も夕方のラッシュを避け、日暮れ前に深谷へ着くようにしました。

そして翌朝、東京からの頼もしいスタッフと合流して会場入り。早速セッティングを進めます。ホールは赤い座席が華やか。横幅が広く、後部でもそう遠くない造りです。今回は照明演出が加わるので、音響反射板は使用しません。アコースティック楽器とのアンサンブルでは反射板が不可欠ですが、ソロの時はどちらでも大丈夫です。

いつもなら、セッティングが済み次第リハーサルをしますが、この日はセーブ気味。この時点で目の前にあったのは、36時間以内に2時間のステージが4回、そして19日渋谷のリハーサルと本番。タイムラインとしては短いのに、ゴールは遥か遠くに霞んで見えません。それでも一通りの曲目を通して弾いて、響きを体に馴染ませました。

珍しく本番前にランチをきちんと食べ、第1回目の開演。お客様は日頃から音楽を聴きなれている鑑賞会の皆さん。聞き上手なだけでなく、乗せ上手。始まってしまえは、すっかり気分もよくなり、思いっきり弾いていました。大ホールだと、とことんダイナミックに弾けるので、体の使い方としてはむしろ楽です。

第1回目が成功したので、不安はかなり軽くなりました。第2回目までの間は、渋谷の練習をしましたが、完全に独奏体制になっていて、まったく集中できません。夕方にも用意された食事には手をつけず、そのまま第2回目に。

いつもそうなのですが、私は「夜型」です。2回目だからではなく、必ず夜の方が冴えるのです。さらに言えば季節は秋が最高です。そして人生の時期としても、黄昏前後が音楽には最適な気がします。50歳の秋の夜の演奏会を、私自身、満喫していました。

終演後は主催の皆さんと楽しい食事会。演奏の感想や、音楽への思いなどを皆さんからお聞きすることができ、音楽を深く受け止めてくれていることに感銘を受けました。

そして深谷にもう一泊。翌朝になって気付いたのですが、これは得策ではありませんでした。2日目の方が体力的にキツいので、1日目にどんなに疲れていても、次の開催地まで移動して休んだ方がいいようです。佐野のホールに着いた時に、すでに疲れてしまっていて、心配になりました。

佐野では、より凝った照明演出が用意されていました。リハーサルと照明準備は並行してやっていいと言われていましたが、リハーサルは静寂の中で行わなければ意味がないので、ほとんど弾かずに静かに過ごしました。また、複雑な照明が演奏の集中を削がないかも心配でしたが、皆さんが細かい調整を熱心に進める様子を眺めているうちに、覚悟が決まっていきました。

第1回目。昼と夜ではお客様の空気感も大きく違うものですが、まるで夜の演奏会の雰囲気。弾いている途中、お客様が全員帰ってしまったのかと錯覚するような静けさに何度も出会いました。これなら皆さん忍者になれます。当然、演奏は燃えました。終わって、後1回残っているのが恐怖に思える疲労感。ため息が止まりません。

しかし、16時に終演して、18時の開場ですから、あっという間です。客席の賑わいが楽屋にも伝わってくると、もう体が勝手に演奏会に向けて整っていきます。さあ、最後です。でも、気負わず、いつものように。

4回とも、いい演奏ができましたが、最終回は格別でした。1回ごとに感じたことを、すぐに次に活かせるのは、連続公演ならでは。そしてきちんとコントロールすれば、体力も気力も保てることがわかり、自信も深まりました。

佐野の皆さんとも、もっと交流したかったのですが、翌日は渋谷のリハーサルですので、すぐに帰京しなければなりません。冷え込む駅でひとり列車を待ちながらも、まだ体が熱く燃えているのが感じられました。でも、成果に浸っているゆとりはありません。帰り次第、渋谷に向けて仕上げに掛かります。深谷と佐野。素晴らしい時間をありがとうございました。