気分はシークレットサービス

25日はサイ・イエングアンさんのクリスマスディナーショーの裏方手伝いに出かけました。一年の締めくくりに参加者としてチケットを購入しようと思っていたのですが、早々に完売。諦めていたところにサイさんから「遊びに来て」と救いのお誘い。嬉しいじゃありませんか。でも、まさか鵜呑みにしてタダでウロウロするわけにはいきませんので、しっかりサポートするつもりで会場の東武ホテル・レバント東京に向かいました。

自分が一切演奏しなくてもいいイベントは、本当に気が楽。ご馳走こそ見るだけですが、音楽は存分に満喫できます。ここ最近はサイさんの歌を聞いていないので、2月にアンサンブルするにあたり、呼吸感などもおおいに参考になることでしょう。また、ふだんピアノとどのように共演しているのかも気になるところ。その辺のこともがっつり観察しようと張り切っていました。

まずは、サイさん、ピアニストの加藤亜祐美さん、司会の和田静乃さんと一緒に軽い昼食。次々にホテルの偉い方々が挨拶に来て、サイさんがとても大切に扱われていることがうかがえます。加藤さんとは初対面でしたが、米津さんや小瀧さんなど共通の知り合いがいるので、すぐに打ち解けられました。加藤さんが時折見せる仕草に、米津さんとよく似た表情があって、これは東京音大の個性なのか、それとも同じ先生の影響なのかと、興味深く思うこともありました。

さて、演奏会場に移り早速リハーサル。今回のディナーショーでは、先に演奏をお聞きいただき、ディナーは別室に移動してお楽しみいただくスタイル。演奏会場は、コンパクトに仕切られ、どこに座ってもステージが間近に感じられます。ピアノとのバランス、照明などなど、サイさんは私を信頼していろいろ尋ねてくれるので、会場スタッフと連携しながら要望に応えていきます。

じっくり1時間半掛けてのリハーサル。あまり込み入ったリハーサルをしない印象のサイさんにしては珍しいことです。それだけ、このディナーショーに思い入れがあるのですね。

隣室のディナー会場は、演奏会場の二倍以上の広さ。ホテルが総力を挙げて取り組んだという豪華ディナーの準備が早くもスタートしており、非常に活気づいています。お客様の目の前で仕上げられる料理もあり、そのためのリハーサルも行われていました。

演奏リハーサルを終えたサイさんたちは控室でしばしの休憩。その間、私はサイさんの大切なお客様方にごあいさつ回り。「あら、神田さん?まあ久しぶり。今何してるの?」「ずいぶん太ったわね」「老けたわね」などなど。12年のブランクですから、さまざまな言葉が飛び出してきますが、それほど親しく可愛がってもらっていたということです。

受付を済ませたお客様は、まずカクテルタイム。グラス片手に、しゃれたカナッペをつまんでいます。フルーツカービングや、生ハムのカットサービスもあり、ここだけでも華やかな雰囲気。すでに3万円のチケットは少しも高くないと感じさせられます。

演奏会が近づくと、私はサイさんにぴったり付き添います。こちらからは話しかけず、何か言われればすぐに動けるように。しかし、必要になりそうなことは、たとえ無駄になっても、先回りをして用意しておきます。

演奏会は加藤さんのピアノソロからスタート。クリスマスの名曲を、ジャズのテイストを交えたアレンジで小粋に。サイさんに登場のキューを出すと同時に、加藤さんが最初の伴奏曲のイントロに移り、連続した音楽の中で、サイさんがドラマチックにステージに上がりました。拍手が沸き起こり、あとは美しい音楽にひたすら酔いしれるばかり。

私は舞台袖にひとりになっても、椅子に掛けたりはせず、バッキンガムの衛兵のように姿勢を保って立ち続けます。たとえ見えなくても、それが演奏者への私なりの敬意です。そして、一音たりとも聞き逃さないのはもちろんのこと、すべての状況に注意を払い、何かあれば即座に対応します。幸い、演奏会は滞りなく終わりました。

演奏会が終わると、お客様はディナー会場へ。ディナーのオープニングにも、サイさんが一曲披露。そして豪華な食事が始まりました。和田さんは、演奏会のみならず、ディナーの席でも司会役。本当は歌手なんですよ。司会から付き人まで音楽家がやっているというところも、サイさんのショーならではですね。音楽を聞いた後のディナーはまた格別。皆さまとてもいい表情をして楽しんでいらっしゃいました。

なんと、ディナーの締めくくりにもサイさんが歌いました。長時間ドレスのままで待機するのは楽ではありません。待ち続けるのが、弾き続けるより苦痛なのは、私も何度となく体験しています。

最後の歌を終えた後は、大満足しながら出てくるお客様と親しく歓談したり、写真撮影に応じるサイさん。私はカメラマンにもなり、サイさんへの贈り物を持つ係でもあり。サイさんがお客様とお話ししている時は、それが耳に入らないように、少し離れたところに角度を設けて立ち、視線を外します。ほとんどのお客様がお帰りになり、サイさんを控室に誘導。たいへんお疲れさまでした。

その後は、ホテルの偉い方と会食。私の席も用意してもらえたので、ご一緒させていただきました。演奏後にもかかわらず、お元気で会話の弾むサイさん。楽しいひとときは0時過ぎまで続きました。サイさんにはとても喜んでもらえましたし、アンサンブルの留意点もつかめ、実りの多い1日でした。しかしまあ、くったくたに疲れました。終始の緊張感。本物のことはわかりませんが、ちょっとしたシークレットサービス気分を味わいました。

サイ・イエングアンさんをゲストにお迎えする神田将リサイタル2018は、2月10日午後2時より、東京文化会館小ホールにて開催いたします。チケットはまだございますが、よいお席はお早目にお申込みください。私に直接メッセージまたはメールをいただければ、心を込めてご用意させていただきます。

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