リサイタルまで1か月

今年の東京リサイタルまで、あと1か月となりました。来月の今頃は、開演を待つ緊張に包まれていることと思います。年が明けてから、チケットのお申込みが増えて来ましたが、まだじゅうぶんな余裕がございますので、引き続きお申込みをお待ちしております。

いつもなら演奏の準備で胃に穴の開く思いで過ごす時期ですが、今年は妙に落ち着いています。お客様が集まってくださるかどうかを考えると急に怖くなりますが、ステージは今から楽しみで仕方ありません。

やはり、今回はひとりではないというのが、安心の大きな理由です。ステージでの2時間、弾き続けることやしゃべることはさほど大変ではありませんが、長時間渡りお客様を舞台にくぎ付けにするには、ただ流れを運に任せるというわけにはいかず、舞台に立った瞬間から頭をフル回転させながら、時間の緩急をコントロールし続ける必要があります。

演奏会の成功には、演奏の質とタイムラインのコントロールが同等に重要ですが、事前に準備が可能な演奏と違い、タイムラインコントロールは現場での対応ですので、経験と機転がとても大切です。そういう意味では、私は最高に恵まれている人間のひとりかもしれません。

その経験の機会をかつて数多く与えてくれたひとりが、今回ゲストにお招きしたサイ・イエングアンさんです。

彼女との出会いは2000年。お付き合いのあったバリトン歌手の故・近藤均さんが新国立劇場の「魔笛」に出演する時のこと、「チケット買いましたよ!」と均さんに言うと「ぼくはいいから、夜の女王をよく聴いてね。すごいよ。」との返事。その時は、あまり気に留めなかったのですが、実際に夜の女王の歌を聞いてびっくり。それが、サイ・イエングアンさんの歌声に初めて触れた瞬間でした。

その後、当時大好きだったフォーシーズンズホテル椿山荘東京からのご案内で、サイさんのディナーショーがあると知り、即予約。お料理はちっとも美味しくなくてがっかりでしたが、サイさんの歌をたっぷり聞けて大満足。帰りにはCDを買って写真を撮ってもらうというファン的行動に打って出ました。

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しかし、ファン心理で終わらないのが、私の図々しいところ。その夜のうちにあれこれ考えて、翌日にはサイさんのマネジャーをしていた故・木村栄城さんにコンタクトを取り、ご一緒させていただけないかと懇願。無名の若造からのラブコールなど、一蹴されるに違いないと覚悟を決めていたのに、熱心に耳を傾けてくれた木村さん。その時は、相応しい機会があれば連絡をするという形でいったん話が終わりました。

それっきりというのもよくある話。というか、ほとんどがそんなものです。ところが、木村さんはちゃんと構想を練ってくれました。三越本店のロビーでオープンな演奏会がある。エレクトーンとの共演にぴったりだと思う。最初はソロでバン!と場を盛り上げて、華やかにスタートできたらいい。やってみませんか?

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こうして迎えた2000年8月9日の初共演。三越のロビーを埋め尽くすお客様に囲まれ、歓びをかみしめながら演奏したことを今も鮮明に覚えています。以来、名だたるコンサートホールで弾かせてもらったり、ミヒャエル・ハンペ先生、姜連華さんなど、素晴らしい方々にも紹介していただきました。共演回数は100回以上。その間、伴奏した作品は数知れず、司会も担当したことで、トークやタイムマネジメントの感覚も学びました。

しかし、5年ほどご一緒させていただいた時、当時30代だった私は、将来のことに不安を抱くようになっていました。出演する演奏会の多くは、サイさんや姜さんの伴奏役。トップクラスのホールばかりで、常に満席。私もソロの活動はしていましたが、せいぜい中ホールを埋めるのが精いっぱい。もちろん、比較するのは間違いだとわかっています。でも、このまま伴奏者で終わっていいのかと、深く悩みました。

どうしても、エレクトーンを中央に置いて、エレクトーンだけに注目が集まる演奏会をしたい。自分はソリスト。いくら立派な舞台に立っても、自分の名前を冠していない演奏会ではダメなんだ。

私が弾かなくても、代わりは5分で見つかる。そう自分を納得させ、大きな舵を取る決心をし、2006年カザルスホールでの初リサイタルへと向かっていったのです。無数のチャンスを与え、弟のようにかわいがってくれたサイさんに、結果的には背を向けることになり、今でも胸の痛みは消えません。ただ、当時のサイさんは、あまりにもまぶしすぎて、どんなに長い時間を一緒に過ごしても、遠すぎる人でした。

あれから、12年。私はほぼゼロからやり直し。当時思い描いた今とはずいぶんと違いますが、当時想像もできなかった今を生きることができて、ほんとうに幸せです。時が巡り、サイさんともまた共演する機会に恵まれました。ただその歓びに浸るだけでなく、長い時間を掛けて実を結ぶことの意味を、2時間のステージの中で表現しようと思います。

ひとりでも多くの方々とこの時間を共有できることを願っています。

YK

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