協奏曲と交響曲

加古川第九30周年記念コンサートが終わりました。東京リサイタルの興奮が冷めやらぬうちに加古川へ向かい、一気にリハーサルと本番を駆け抜け、体はヘトヘト、でもココロはポカポカになって帰って来ました。

毎年、リサイタルの後は文字通り、抜け殻状態です。体が痺れ、目は虚ろ、途方もない喪失感。前回まではそれを受け入れられる状況でしたが、今回は加古川がありますので、くたばっていられません。気持ちは前向きでも、実態はすでにタイマーが点滅し始めたウルトラマンの戦いのようでした。

それを乗り越えられたのは、周りの皆さんの支えがあったからこそです。主催の皆さんは、本当に心づくしでもてなしてくれますし、長いお付き合いの中で私が演奏会のサポートに何を求めているかを理解してくれているので、とても安心。演奏している時以外は、いつも笑顔が絶えない現場です。

前日はピアノコンチェルトのリハーサルのみだったので、あまり体力を使わずに済みました。一方、当日は朝からタイトに準備を進めます。開館とともにホールへ入り、自分の稽古。2時間半も舞台を自由に使える時間を取ってもらえたので、きっちり調整完了です。

そして第九のリハーサル。今回は事前のオケ合わせがなく、指揮者や合唱団とは一年半ぶりの再会。初参加の方とは、初対面です。舞台に勢揃いしたところで、いきなりのゲネプロ。この状況は二度目の韓国第九演奏会に似ているなと思いつつ、指揮に寄り添って演奏を進めました。

合唱が加わると、いつもなら背後から凄まじい勢いを感じるのですが、なぜかそよ風のよう。アマチュアの皆さんが環境の違いに戸惑いを覚えるのは当然のことですが、本番がどのくらいになるのか予想が難しく、本番ではいつも以上にバランスに配慮する必要を感じました。

それから、蝋梅の甘い香りが満ち、赤いチェックのテーブルクロスが施された楽屋で、スタッフオール手作りのお弁当タイム。ピクニックのようなひとときに、すっかり心地よくなって、眠気が襲って来ました。ひとりなら本当に仮眠したかもしれませんが、幸い話し相手がいたので、あっという間に開演時間となりました。

まずは合唱団によるステージからスタート。よく知られた作品を3曲披露。伴奏はピアノですので、私は舞台袖から見守ります。客席も埋まり、会場はいい雰囲気。自分の出番が楽しみです。

合唱が終わり、次はピアノコンチェルト。場面転換の間に、聞きどころを少々、お話しさせていただきました。そしてピアニストの河岸さんを呼び込んで、演奏スタート。

リハーサル時は控えめな演奏にも感じられましたが、本番まで体力をセーブしていたのか、はたまた何かが吹っ切れたのか、これが本当の河岸さんかと、初めて気づかされる演奏でした。

休憩をはさんで、いよいよメインの第九です。この日のために8ヶ月の稽古を重ねた合唱団。それを束ねるのは、30年間に渡り加古川第九合唱団を育てて来られた川邊甲子郎先生。その集大成となる演奏です。

合わせが一度きりでしたので、自ずと本番は引き締まりました。集中力も高まり、すべての引き出しを開く心構えで演奏します。川邊先生らしい温かい音楽。合唱もリハーサルとは打って変わり弾みや勢いが加わって、どんどん第九の渦が大きく膨らみました。それでいて暴走することはなく、非常に均整のとれたよい演奏になったと思います。

惜しみない拍手は、合唱団の最後のひとりがはけるまで、ずっと続きました。合唱団ひとりひとりの思いと主催者の願いがひとつになり、30周年記念演奏会は大成功に終わったのです。

終演後は懇親会がありました。今回、第九合唱団の一員として、地域のいくつかの合唱団が加わったのですが、中でも赤穂高校の学生たちの活躍が印象に残りました。若々しい息吹が第九に更なる輝きをもたらしたことはもちろん、その振る舞いの礼儀正しさも素晴らしく、将来が楽しみな若者たちです。

東京リサイタルと加古川第九を振り返ってみると、サン=サーンス、リヒャルトシュトラウス、チャイコフスキー、スメタナ、ドヴォルザーク、ラフマニノフ、ベートーヴェンなどなど、歴代の大作曲家による代表作品を演奏するチャンスに恵まれ、本当に幸せでした。

どの一曲を取り上げても、生半可な挑戦を撥ね退けてしまう霊峰のような作品ばかり。この壮大な旅から大きな怪我なく帰還できたことで、また一歩前進できました。

今年は6月から7月にかけて、新しいプランが待っています。初めての共演者、意欲的なチャレンジなど盛りだくさんですので、それらの準備のため、しばらくステージを離れます。

次に演奏会でお会いできるのは、3月のタイ王国、4月の姫路とハルビン。そしてまた5月は舞台を休んで、6月の姫路、7月の大阪、霧島、埼玉へと稽古を積んでいきます。まだまだ進化しますので、応援よろしくお願いいたします!