眩しい暗闇

知らないうちに春が終わり、知らないうちに梅雨空に。キャリアを重ねれば、少しはゆとりが持てるものと期待していたけれど、ますます時間に追われるばかり。それでも美しい音楽に囲まれているのだから、文句は言っていられません。

5月と6月は毎日がタイトでした。この2ヶ月、まともにベッドで眠った記憶がありません。約40回の演奏会で連日の旅路。それに締め切りの迫った編曲。移動中に眺める眩しい風景や、もらった花束の香りだけがリラックスの源です。

6月最初のステージは、波多江さん、米津さんとのスクール訪問コンサート。波多江さんと米津さんをステージに残し、ふたりのトークを袖で見ている時間が好きです。ほんのひととき、観客として舞台を眺めることができるからです。

6月6日のラフママニアは、悪天候にもかかわらず、予想以上のお客様にご来場いただき、とても光栄でした。イタリアでの経験が大きな糧になり、格段に深みのある演奏を聞かせてくれるようになった米津さん。本当に素晴らしい演奏でした。

私は前日に両腕に怪我。なんてバカなんだろうと自己嫌悪。まあ何とかなるさと放っておいたら、夜になって腕も指も動かなくなり、その時は真剣に焦りました。

コンサート当日の朝に医者に診てもらい、2週間は動かさないようにと言われたものの、降板するわけにもいかないと思い、とりあえず会場へ。

自分の腕ではないような違和感があるものの、何とか動いているので、リハーサルを開始。ところが、しばらくすると痙攣してどんどんコントロールが利かなくなっていき、とうとうペットボトルも持てなくなりました。

弾くのはソロとコンチェルト。たった2曲じゃないか、弾き切れ。でも、1曲なら根性と勢いで弾けても、休憩を挟んだらもう動かないかも。考えた末に、ソロを断念し、コンチェルトだけに集中することに。

ソロを弾けなかったのは悔しかったけれど、コンチェルトの体験は素晴らしいものでした。また万全のコンディションで再演する機会を持ちたいと思います。

ご来場のお客様にはずいぶんとご心配をお掛けしましたが、だいぶ快復しました。2週間は無理でしたが10日ほど休演し、リハビリに集中。でも、このままコンディションが戻らないかもしれないという不安で、気分は真っ暗でした。

10日後の復帰ステージは、宮崎県の学校で行われた芸術鑑賞教室。当日までリハーサルもなしでリカバリーに努めた効果か、ほぼ思い通りに気分よく演奏できましたし、好奇心たっぷりのまなざしで聞き入ってくれる子どもたちに、またしてもパワーをもらって来ました。

宮崎を終えてからは、山口に立ち寄り、12月23日に予定している周南第九コンサートの練習会へ。まだ半年も先のことなので、練習参加者は少なかったのですが、笑顔あふれる楽しい練習会でした。やっぱり第九は最高。メロディーを聞くだけで、本番の興奮がよみがえってきます。

そして今は、29日のSongs from My Heartの最終調整中。ソロの1曲を除いて、すべてが初めてまたは新編曲のプログラムですが、やっと胸を張ってお贈りできる仕上がりになりました。とことんエレガントに、どこまでも美しく。このシリーズならではの世界観を表現したいと思います。ぜひお出かけ下さい。

29日が終わっても追い詰められた日々は続きます。基本タフで勝気な私ですが、時折、限界を感じます。でも、音楽から逃げて一生後悔するなんて、まっぴらごめん。目先のことを思えば確かにしんどいですけど、一歩下がって考えてみれば、私は誰よりも幸せなのかもしれません。