寺の気品と、タクトの魔法

10月も大詰め。20日名流祭の心地よい余韻と、歳のせいか今ごろになってじわじわと来る疲労を噛みしめながら、続く演奏会への準備を進めております。だいぶ体力が戻ってきたものの、かつてのタフさには程遠く、これからのペースを模索しているところでもあり、1日弾いて2日休むというサイクルを守っていますが、今週は少々ペースを上げています。

10月の演奏会はあと4回。負担を軽くするために、演奏会の趣旨を損ねない範囲で演奏曲目を重複させるよう工夫しましたが、それでもまだ40曲ほどを演奏する予定です。シンフォニーや組曲をひとつと数えての曲目数ですので、かなりのボリューム。いざ束になった楽譜と対峙したとたん、大丈夫かなと心配になります。それでも、久しぶりに触れた音楽たちが、まるで再会を喜び合うかのように私を高揚させ、気の置けない友や家族との時間に負けるとも劣らないひとときを与えてくれ、日に日に元気になってきました。

週末は二年ぶりの寺コンサート。「和サロン」とでも言いましょうか、お寺独特の気品が漂う中、聞き手と触れ合うような距離感で音楽を共有できるのは、素晴らしい体験です。どちらかというと派手なイメージのあるエレクトーンですが、こうした親密な雰囲気だと、繊細な曲をたくさん弾けるのも楽しみです。

そして31日はタクト音楽祭。昨年は台風に泣きましたが、今年はどうなのでしょう。南の方でこちらをにらんでいる猛烈な玉兎さん、こっち来ないでね。あなたのチケットはありません。まあ、仮に玉兎さんが寄ってきても、タクトさんのことですから、必ず開催することでしょう。

実際、会場となる浅草東洋館の中は、猛烈台風に匹敵する熱気に包まれるはずです。昨年は多くのベテラン芸人さんたちが出演し、新旧正月が一緒に来たような賑わいでした。生粋の音楽家は私ひとり。アウェイ感マックスながら、寄席の世界をおおいに楽しんだものです。

今年は音楽家の割合がぐんとアップ。過半数を超え第一党に躍り出ましたが、あくまで芸人さんたちをリスペクトし、寄席の流儀で催しを支えていこうと、音楽党内は一枚岩に団結しております。

それだからなのか、当のタクトさんがいささかおとなしめなのです。もともと芸の時以外は、どちらかというと静かな人で、あまり言葉であれこれ押し付けてくることはありません。相手が私だからかもしれませんが、もっとがっついてきたらいいのにといつも思っていました。

そんな中、リハーサルの際、他の皆さんが到着するのを待つ間、どんなステージを目指しているのか、芸を通じて何を実現したいのかを、じっくり聞く機会を持つことができました。それにより、私が感じていた迷いも払拭され、霧が晴れるようにステージのビジョンが見えてきたのです。

タクトさんの指揮者芸は、音楽を知っていればいるほど抱腹絶倒間違いありません。でも、たとえ誰の真似をしているのか、さっぱりわからないとしても、かまわないと思います。音楽への限りないリスペクトと愛。心地よい笑いの先にある真実の瞬間を、ぜひ感じていただきたい。

文化庁芸術祭への参加を門前払いされ、テレビ放映も直前にキャンセルをくらいながらも、夢の舞台の実現に奔走するタクトさん。見ていてグッときます。でなきゃ、私もこんな無茶なプログラム、引き受けません。ベートーヴェンのシンフォニーが2作品、展覧会の絵、サロメのヴェールダンスなどなど、好きとかやる気だけで一度に弾ける作品ではないですから。私も勝負かけていきます。どうぞご高覧くださいますよう。