7/7 魅惑のミュージカルナンバー

七夕の午後、6回目となるBeauty from the Innerを開催しました。今回はミュージカルシンガー・俳優の松本昌子をゲストに迎え、ミュージカル名曲尽くしのステージをお届け。これまではクラシックオンリーでしたので、お客様にも、私にも、たいへん新鮮で刺激的な120分でした。

すでに多くのお客様が演奏会のレビューを書いてくださっているので、当日の雰囲気を感じ取った方々も多いと思います。私もレビューに目を通し、お客様に存分に楽しんでいただいたことを知り、やっと安堵することができました。 というのも、私自身が新しい挑戦に打って出たステージだったので、どのように伝わったのかがとても気がかりでした。また、昌子さんが気持ちよく歌えたかどうかも含め、実際のところどうだったのか、好感触はあっても、自信を持つには至っていなかったのです。

その理由のひとつは、私の昌子さんへの依頼の仕方が、ある意味「詐欺」だからかもしれません。あまり記憶にありませんが、最初の声がけは、たぶん「ゲストで歌ってくれない?」みたいな軽い誘い方だったと思います。 ゲスト出演を頼まれれば、途中で数曲の出番があるのかなというくらいで、むしろ主役の邪魔にならないよう、多少は控えめにしようかなと、私が逆の立場でもそう思います。

ところが実際は、ほぼ出突っ張りで、完全に主役。話がちゃうやんけと責められても仕方ない状況でしたが、昌子さんからは一言の不満もなく、期待通りどころか期待を大きく上回る仕事をしてくれました。これほどの実力と頭のよさを持っている歌手と出会えて、私はラッキーです。

そこに敢えて言い訳をするならば、ゲストというのは、レギュラーではないというだけのことで、出てもらう以上は、その人を最大限活用するつもりでいます。 そして、主役はあくまで音楽であり、出番の多い少ないに寄らず、共にステージに上がる者同士、音楽を最高に引き立たせるために力を合わせていくのが理想です。 今回はミュージカルナンバーをお届けしたかったので、そのために昌子さんの力がどうしても必要で声を掛けました。そのキャスティングは大成功だったと思います。

一方で、私は自分の演奏とセンスが果たしてミュージカルナンバーに敵っているのか読みきれず、稽古から本番までずっと試行錯誤でした。言うなれば、酒蔵がワイン造りに手を出すようなもので、クラシックとミュージカルの違いに戸惑うことばかり。でも、せっかくクラシックで培ったセンスという武器があるのですから、それ活かしたミュージカルナンバーに仕立てようと考えることにしました。 昌子さんにも、イレギュラーなことをたくさんお願いしたので、さぞや困惑させてしまったことでしょう。でも常に前向きに捉え、とことんやって成果をあげてくれたことは、最高の称賛に値します。

また、菊池玲那もよくやりました。最近は放ったらかしで、これとこれを弾いといてと指示しただけで、一度も聞いてやらず。本人は死ぬほど不安だったでしょう。実際、私も不安です。お客様への責任は最終的には私にあるのですから。 レッスンもせず、何をもって弟子なのかといいますと、絶好の位置から私の背中を仰げるチャンスがあるという一点に尽きますが、私の演奏会をあちこちで見て、主催者や舞台スタッフと打ち解けながら、自分の居場所を自力で広げている様子は、頼もしくもあります。

人生という旅に必要なのは、手を引いて連れて歩くことではありません。神田門下という最強のパスポートがあるのですから、あとは好きに旅をして、自分の目で必要なものを見て、それぞれが自分にふさわしい生き方を見つけてくれればいいと思っています。