ハイリスクな楽器で挑むハイリスクなプログラム

今年の流行語大賞が発表されたそうですね。4つ選出されるのは珍しいのだとか。でも、どの言葉も私には何のことやらさっぱりわかりません。過去の流行と隔絶された世界で、ひたすら音楽と向き合っております。ほどよく自律を心掛けた生活とともに。

どんな自律かというと、まずは食事。あれほど美味しいものに目がなかったのに、今やご馳走とはほとんど縁がありません。大好きなお菓子も、金曜日のご褒美に、ほんのひとかけらだけ。油で調理したものは一切口にしません。

それから運動。プールに誰もいない時間を見計らって、自分のたてる水しぶきの音以外は聞こえない環境で、じっくりと体を動かします。毎日1時間半。すると一日中、手足が冷えることなく、快適に過ごせます。

これだけ摂生しているのに、体重はほとんど減りません。まあ、痩せたいわけではないので構いませんが、本気で痩せようと思ったら、気の遠くなるような努力が必要なのでしょう。

空き時間は、今後手掛ける予定の作品を探求することに費やしています。何度も何度もフルスコアを見返し、その度に作曲家の見事な腕と折り込まれた精神性に圧倒されます。

さて、年内のコンサートは、21日と22日の山口市での2公演を残すのみとなりました。今年は数を絞り、それぞれの機会にじゅうぶんな準備時間を投じて臨んできましたが、今回は思うほどに稽古時間が確保できず困っています。

というのは旅が多いから。次に帰宅できるのは1月13日の予定。せめて、その前に家族と一緒に食事がしたいと願っているのですが。

山口市では別会場ながらも演奏会が二日連続します。同じお客様も少なくありませんので、それぞれの演奏会で、演奏曲の重ならないまったく別のプログラムを用意します。

21日はコース料理付きのディナーショー形式ですので、リラックスして楽しんでいただける内容に。私にしては珍しい、クラシック作品が少なく、リズミカルなものやジャズなども取り入れてみます。

22日は歴史ある名建築内の会場ですので、展覧会の絵をメインにしたオールクラシックプログラムで演奏します。と、決めるのは楽しいのですが、いざ実行するとなると、さまざまなことに留意しなければなりません。

先日、ラ・パレットでの演奏会がありました。昼と夜、2回の演奏というスタイルは、20年近く続けているので、当たり前のように考えていたのですが、今後は考え直さなければいけないと思っています。

正直、2度目がきつかったのです。プログラムがヘビーだったというのも理由のひとつですが、私自身が以前よりも深い集中力の中で演奏することを求めるようになったからというのも大きな要因です。

自宅での稽古で120点。そうすれば本番で100点に近い演奏が可能だったのですが、今は80点にもなりません。だったら、100点取れるプログラムにすればいいと思われるかもしれませんし、実際そうすべきでしょうけれど、私は誰に何と言われようとリスクにチャレンジしたいのです。

そもそもエレクトーンは極めてリスクの高い楽器です。本来ひとりで演奏することなどまったく想定されていないものをひとりで弾くのですから、人から人へと受け継がれる呼吸感を維持するだけでも大変です。そこに絶え間ない操作や不自然な指回しなどが加わり、まるで自転車をこぎながら刺繍をするようなものです。

そのため、エレクトーンのコンサートでは事前の練り上げとともに、入念なリハーサルが欠かせませんが、現実的には現場で通して1度弾ければラッキーです。今度の山口もディナーショー会場でのリハーサル時間はわずか。そして終演後、次に楽器に触れるのは翌日の会場。本当は夜通し弾いていたいくらいですが、体を休めることも必要です。

こうした不安を回避するには、弾き慣れた作品でプログラムを構成することですが、何度も足を運んで下さっている山口の皆さまの期待を裏切るわけにもいきませんので、リスクに怖気づくことなく、果敢にチャレンジしようと思います。