仙台クラシックフェスティバル2013

今年もまた、10月の仙台で3日間の音楽祭に参加して来ました。心に掲げたテーマは「新しい神田将」。せんくら恒例の過酷なスケジュールとプログラムの中、どこまで落ち着いてプレイできるかを課題にしながら、まるでオリンピックに向かう選手のような気持ちで仙台に向かいました。

今回は3日間で4回の公演と、例年よりも少なめ。更に、公演時間が連続することのないよう、主催者側もじゅうぶんな配慮をしてくれました。それだけでも、心のゆとりがまったく違います。

初日は1公演のみですが、プログラムとしては最もヘビーなもの。オペラの序曲と前奏曲のみを7曲セレクトしたのですが、その多くが凝縮感があって曲想が次々と変化する作品なので、音楽の流れを確実にコントロールしないと演奏が破綻してしまいます。

最初の公演に重心を持って来たのは、金曜日はお客様の出足に土日ほどの勢いがありませんので、ここ一番のプログラムを用意して積極的にご来場いただこうという狙いもありましたが、自分自身が体力気力ともにフルチャージの状態でないと弾き切れないプログラムだというのが主たる理由です。

ちょっぴり緊張しながら会場へ着くと、霧島国際音楽祭でもパーフェクトなサポートをしてくれたジェスクのスタッフが出迎えてくれました。その瞬間、緊張は吹き飛び、「今日は大丈夫!」という自信がみなぎってきたのです。

楽屋は、なんと直前まであの舘野泉さんが使っていた部屋! 残り香ならぬ、残りオーラにあやかりたいと思ったのか、反射的に深呼吸をしてしまいました。

そしてリハーサル。せんくらの会場スタッフは、実に礼儀正しく、親切丁寧。出演者が演奏しやすいように、細かい配慮でサポートしてくれます。すでに楽器は設置されており、あとは弾くだけ。

ちょっと弾いてみたら、会場の構造なのか、不思議で深い残響に振り回され、感触に慣れるまでにしばらく時間を要しましたが、スピーカーの位置や曲のテンポなどを調整しながら、納得のいくまでリハーサルさせてもらえました。

いよいよ開演。せんくらのお客様はとてもお行儀がよく、会場はしーんと静まりかえっています。なんとなく試験会場を思わせるような緊張感です。気弱な私は、すぐに影響されて緊張してしまうのですが、これに押し負かされては、これまでの努力が水の泡です。私がよい演奏をせずして、お客様を満足させることはできません。ここが勝負どころです。気持ちを固めて、いざステージへ。

今年はヴェルディ&ワーグナーイヤー。まずはワーグナーを2曲。それだけですでに消耗します。続いてカルメンの前奏曲。これも2分足らずの作品ながら、かなり息が上がります。そして喜歌劇序曲2作品。勢いだけの演奏はしたくない。深みのある表情を醸さなければ。それにはノリで弾くのとはまったく違うエネルギーが必要です。

最後にヴェルディ2曲。と、そこで時間を見ると予定よりも5分ほど押しているではありませんか。せんくらの1コマは45分と決められています。演奏会の「ハシゴ」をするお客様も多いので、時間オーバーはしないようにと言われています。

かといって、残り2曲で5分も「まく」のは不可能です。少々時間オーバーしてしまいます、ゴメンナサイと断って演奏スタート。やっぱり、響きの影響で、ここまで全体的に演奏テンポが遅くなっていたようですが、仕方ないので、最後の「運命の力」は、トスカニーニのような高速で弾くことに。

本当は、落ち着いた流れでの演奏を用意していたので、ちょっと残念でしたが、1公演目を無事に乗り切った達成感は爽快でした。

終演後は、翌日午前中に予定されているオペラ公演のリハーサルに参加しました。ご一緒するのは仙台オペラ協会の皆さん。今回、最も楽しみにしていたステージです。

会場へ行くと、スタッフたちによるセッティングが進められていました。しばらく客席で待機しながら、初めてお会いするオペラ協会の皆さんにご挨拶を。そう、全員が初対面なのです。

でも、私はひとつも心配していません。誰かのリサイタルでお供する場合は、その人の個性やらコンセプトをよく把握しておく必要がありますが、今回はオペラですので、個性は関係なく、すべての人がきちんと準備しておきさえすれば、問題はないはずです。

やがてセッティングが終わり、出演者やスタッフの紹介に続いて、稽古が始まりました。最初にして最後の稽古です。プログラムは椿姫のハイライト。印象的なシーンを、医師グランヴィルの語りと共につないでいくというステキな演出です。

主要キャストに加えコーラスも入るので、とても華やか。そしてゲストとして名バリトンの三原剛さんもジェルモン役で出演します。いつかご一緒にと心に秘めていた方との共演が今回も実現しました。

聞くところによると、皆さんエレクトーンとの共演は初めてとのこと。ピアノともオーケストラとも違う独特の呼吸感に戸惑いはないだろうかと気がかりでした。

最初は迫力ある音量に驚かれていたようですが、呼吸がかみ合わないことは一度もなく、全員がすぐに感覚をつかんで歌っていました。これは相当の経験がないと難しいことで、仙台オペラ協会の熟練度を表しています。

特に問題もなく、スムーズにリハーサルが終了。夜はステーキを食べて、翌日に備えました。

2日目は肌寒い天気でしたが、私は気合い満々です。朝一番で会場入りし、スタッフに見守られつつウォーミングアップ。キャストが揃う頃には、万全の態勢です。軽く思い出し稽古を流して、あっという間に開場時間。

開演とともに会場と舞台が暗転。すみやかに私が舞台に出て、エレクトーンに座るや否や序曲を弾き始めるという段取り。いい感じのタイミングでスタート出来ました。その後も順調に進行。語りと音楽の間合いや、歌手たちの呼吸に意識を集中します。今回は指揮者なしでの公演ですので、私が指揮者的な役割も果たします。

楽しんでいるうちに、あっという間にフィナーレ。ぜひまたこうしたアンサンブル公演にも参加したいものです。

残り2公演は、得意な曲ばかりを集めてのソロステージ。コンパクトなスタジオホールに、ダイナミックなエレクトーンの音が響き渡りました。こちらのスタッフも、気持ちのいい方々ばかり。安心して演奏にのぞめます。

土曜の夕暮れ時には、おとなのお客様がたくさん。日曜日の日中は子どもさんの姿も多く見られました。熱心に聞いて、盛大な拍手を送って下さる仙台のお客様。大好きです。美しい名取の薔薇の花束を抱えて、最高の思い出とともに仙台を後にしました。今年もありがとう、せんくら。