旅の思い出とクロスする キュイジーヌ[s] ミシェル・トロワグロ

友人の誕生日祝いのため、久しぶりにトロワグロへ。連休最終日のディナーは、まるで季節外れのリゾートのように静かで落ち着いた雰囲気。パーフェクトなサービスと、アートの香りあふれる料理の数々に彩られた素晴らしいひとときでした。

卓上セットはクロスを用いず、簡単なマットのみ。それでもカジュアルにならないのは、自然の木肌をいかしたテーブルと、丁寧なセッティング、そして野菜や果物をかたどったクリスタルオブジェの賑わいあってこそ。

トロワグロのハウスシャンパンで乾杯すると、突き出しが運ばれて来ました。軍艦巻のようなものは、イカスミ入りのポレンタを海苔に見立てて。マグロと胡麻の練り揚げものには、ほんのりとスパイス。ホロホロ鳥のレバーペーストを挟んだトーストは軽やか。

続いてブリオッシュのようにバターの風味たっぷりのコーンブレッド。

アミューズはイカ。いくつかの柑橘を使ったゼリーの上に。

食事中のパンはカンパーニュ。噛むほどに味が出ます。

冷前菜はアーティチョークのニョケッティと胡麻。皮は薄いジャガイモ。ウナギと一緒に。

温前菜は豆乳のカイユ ジロール茸と干し草の香り。真っ白い皿に薄い豆腐がかぶさって運ばれて来ました。

中をめくってみると、干し草の香りをつけたクリームと、色の濃いジロール茸が顔を出します。

魚料理は鯵のピメントバター トマトのエイグルレット。ピメントのピリ辛とトマトの赤が情熱的な一皿。

肉料理は仔羊の背肉 ブリュレとスパイス。まるで丸焦げの肉みたいに見えますが、この黒い衣はヨーグルトをベースに数々のスパイスを煮焦がしたものだとか。忘れがたい逸品です。

アヴァンデセールは蕎麦のパンナコッタ。葡萄のゼリーと胡桃やフルーツをトッピング。

デセールは米のフィーユ ベルガモット。求肥の中にさわやかなベルガモットが。

小菓子。

夏の余韻を感じさせるレシピの料理が並んだコースには、「一歩ずつ・・・」とのタイトルが当てられています。そして、一口ごとに、すでに薄くなりつつある遠い旅の記憶が刺激され、エキゾチックな街角や土のにおい、埃に霞む空の色などが次々にフラッシュバックしました。

かすかなスパイスが呼び覚ます人生のひとコマ。これは料理であると同時に、高度な芸術です。上品ながらもくつろいだサービスは極めて快適。ただ、コース料理は食いしん坊の私には量が不足でした。次からはやっぱりアラカルトにしたいです。