湯暁風の琵琶に感じる美の極み

真冬の寒さが続く上海。外を歩くにはマフラーや手袋が欠かせませんが、室内で感じる陽の光はとてもやわらかく、縮んだ体をピンと伸ばしてくれます。スケジュールはフリー。気ままな一日を過ごせそうです。

まずは朝食から。滞在中のホテルにはエグゼクティブラウンジがあり、毎日の朝食はそちらでいただきます。ラウンジのお姉さんたちは、とても陽気でフレンドリー。いつも「オハヨウ!カンダサン」と声が掛かります。

卵料理はいかがですか?との問いかけに、朝はあまり卵は食べないんだよねと答えると、朝食べないでいつ食べるの?私が作るから食べて!と、いつもはフロント業務をしているお姉さんが本当にフライパンを握って目玉焼きを作ってくれました。

モーニンググロウを浴びながら、オーバーイージーの目玉焼きとフレッシュサラダを。そしてちょっぴり気になった小龍包も。窓からはオールド上海の風景を一望。気分は最高です。

午後は弟子とママを連れて散策。上海文化広場の前を通り、紹興路にあるウインナカフェへ。上海で味わうウィーンって、どんな感じでしょうね。

店に入るとまず目に入るのが、美味しそうなペストリーが並ぶショーケース。奥に進むとテーブルがあり、もっと奥は明るいサンルームになっています。BGMはヨハンシュトラウスでもシューベルトでもなくクリスマスソングですが、メニューはウィーン風。

軽いランチに、チーズとハムのトーストサンドイッチを。熱々で美味しかったです。上海は賑やかというか慌しい店が多いのですが、ここは落ち着いて過ごせます。

カフェでのひとときを楽しんだ後は、更に歩いて田子坊へ。古い街並みの中に、小さな店が密集する人気スポットです。何度も上海を訪れているのに、私は今回が初めて。あ、サンマルクカフェだ。シンガポール以来、気になっていますが、カフェを出て来たばかりなので、今回は見るだけにしました。

田子坊の中は、まるで迷路。見上げれば住居に暮らす人の洗濯物。レストランあり、雑貨店あり、なんだかよくわからない謎の店ありと、なかなか興味深い世界です。

と、そこに趙磊から電話。実は昨日の午後に、琵琶奏者の湯暁風と会う予定でしたが、熱を出してしまったというので、大事を取って延期。趙磊からは一日休んでたいぶ快復したから今から会える?という知らせだったのです。

それは願ってもないこと。早速会う約束をして、その場所に向かいました。落ち合うのは、私が初めて趙磊の演奏を聞いたのと同じスタジオ。今回はどんな出会いになるのでしょう。

約束の場所に現れた湯暁風の第一印象は、とても上品で穏やかそう。初対面の挨拶を交わし、早速演奏を聞かせてもらうことに。指に一本ずつ付け爪を当て、テープで固定していく湯暁風。その仕草さえもエレガントです。

まずは近代的な琵琶のための作品を披露してくれました。完ぺきなまでにツブの揃ったスムーズな演奏に思わずため息が。技巧が極めて高度なことは、琵琶に疎い私にも理解できます。

でも、それ以上に衝撃的なのは、一音ごとの存在感がとても美しいこと。それらが絶妙に重なり合う様子は、まるで原子の運動のように、不確定なのに自然そのもの。

続いて私のリクエストで伝統曲を演奏してもらいました。ドラマチックで大胆。思いのままに弾いているようでいて、どこまでも知的。同じ人が弾いているのに、こうも変化するかと驚かされます。

4曲を聞き終え、琵琶の奥深さに圧倒されました。趙磊の二胡にも衝撃を受けましたが、それにも負けない素晴らしさです。

日本に伝わった琵琶は、唐時代の伝統がそのまま受け継がれていますが、中国の琵琶は改良が重ねられ、より豊かな表現力を得たのだそうです。新しい作品も生み出されており、オーケストラとのアンサンブル曲もあるのだとか。

もし、趙磊、湯暁風、神田将とでトリオコンサートをするとしたら、どんなプログラムが最適か。早速意見を出し合いました。できれば来年中には、日本での共演を実現させたいと思います。素晴らしい出会いにちょっと興奮しています。