にっぽん丸コンサート

乗船2日目の夜は船内のイベントホールでコンサート。その前にもイベントホールはさまざまなアトラクションが催されているので、コンサートの準備が始まるのは午後からです。午前中はお客様たちと一緒にクルーズライフを満喫しました。

クルーズの朝は爽やかな海風とともにスタートします。デッキに出て果てしない海を眺めながら、軽くストレッチと深呼吸。細胞ひとつひとつが目覚めてゆくのが感じられます。朝食はダイニングで。ブッフェ、和食、洋食と、好みに応じて選べるようになっています。この朝はパンケーキを食べました。

この日は江の島の沖で碇泊。陸へと観光する皆さんは、にっぽん丸備え付けのテンダーボートに乗って片瀬漁港へ向かいます。私も乗ってみましたが、潮風を肌で感じながらの15分はとても爽快でした。

子どものころから見慣れている江の島も、海から見るのは初めてなので新鮮です。漁港では、江の島初寄港にっぽん丸の江の島初寄港歓迎セレモニーが開催され、太鼓演奏が披露されていました。その足でお客様は湘南観光へ、私は船へ。

船内には若干のお客様が残っているものの、穏やかな雰囲気。やさしい日差しを感じながら、ラウンジでコーヒーを飲んだり、デッキでもの思いに耽ったり、気ままな時間を過ごしました。

上の写真はにっぽん丸の「タイタニックポイント」。映画のあのシーンを思い出します。そして船の窓から江の島を眺めながら、藤沢にある牧場のミルクを使ったプリンを。ふんわりした軽やかな食感でした。

ランチの後は、いよいよドルフィンホールへ。ステージにエレクトーンが置かれ、照明や音響の仕込みが進んでいきます。リハーサルにはまだ時間がありましたが、私は劇場の空気が大好きなので、スタッフたちの邪魔にならないようにしながら、着々と進む仕込みとともに、ステージへの気持ちを高めていきます。

予定通りにリハーサルが始まりました。船内での演奏は何度も経験していますが、それでも毎回戸惑いがあります。緩やかながらも常時揺れているので、重力に流されないよう注意が必要ですし、水平は保てないので、鍵盤への圧力コントロールに苦心します。

音響面でも、私たちから音響さんへ次々とリクエストを出すので、忙しい思いをさせてしまったことでしょう。それでも熱心に応えてくれ、リハーサルの時間内には本番への見通しがつきました。

リハーサル後はダイニングでお客様と一緒に早めのディナー。通常、演奏前に食事はしませんが、今回はせっかくの船上晩餐会ですから、チャンスを逃したくなかったのです。

食事が済んだらすぐに身支度に移り、舞台袖でスタンバイ。コンサート前に船長主催のカクテルパーティがあり、その流れでコンサートが始まります。カクテルパーティではムーディなヴォーカル演奏が入り、映画のワンシーンのような雰囲気。そのままコンサートの始まりです。

演奏が始まると、カクテルの賑わいは一瞬で演奏会の落ち着きに変わりました。さすが船に乗り慣れたお客様たちは心得たものだと感服。わずかにでもブレのある演奏をしたら、すぐにばれてしまいます。揺れなど、船内特有の環境に振り回されたら私の負け。陸上と変わらぬ演奏をしなければなりません。

揺れに対処するには、これまでの経験から、いつもより大きなアクションで重力を利用して演奏するのがいいとわかっていたので、揺れの度合いに応じてアクションをコントロールしながら演奏します。重心が刻々と変わってしまうことにも、敏感に気を配りながら瞬時に対応します。

お客様はカクテルを楽しんだばかりなのに、高い集中力で音楽を受け入れています。それが私たちの演奏をよりよいものにしてくれたような気がします。ツァオレイとのアンサンブルは、リハーサル時とはまったく別物の完成度になりました。

ショータイムは60分ときっちり決まっているので、生放送をしている感覚です。タイトな時間管理をしながら、トークの内容や時間をコントロールするなど、演奏以外にも注意することがたくさんありましたが、すべて成功しました。熱のこもった拍手に私たちは感激。はじめてのにっぽん丸で素晴らしい体験ができました。

終演後はお客様が用意してくれたプレステージシャンパンで乾杯。私はロブマイヤーのマイグラスを持参。船の航路は日本近海ですが、なんだか遥かな旅を経て新しい世界へと足を踏み込んだような気分でした。クルーズは始まったばかりなのに残りわずか。下船後は香川へ向かいますが、明日もにっぽん丸船内レポートをお届けします。