昼下がりの世界旅行 キュイジーヌ[s] ミッシェル・トロワグロ ハイアットリージェンシー東京

急に思い立って、ひとりトロワグロに向かった月曜日の昼下がり(もちろん予約の電話は入れましたが)。道すがら、太陽に恋焦がれるようなチューリップたちに出会いました。

店先ではメートルドテルが出迎え、「いい季節になりましたね」とさりげない会話を向けてくれます。前回訪れたのは2月の記念日。過日の礼を述べ、まだその余韻を楽しんでいると告げました。

明るいテーブルに着き、早速シャンパンを。華やいだシーズンです、ロゼにしましょう。リュイナールをグラスで。

すぐに突き出しが運ばれてきます。左から、クリーム状にしたグリーンピースをイカ墨の衣で包んだもの、アオリイカを薄く切ったもの、聖護院蕪。

料理の注文はアラカルトで。前菜までのひと時、小前菜が振舞われます。中央には鯖。Oh,No!・・・でも息を止めてトライ。

あれ、あんがい美味しいじゃない。周りを彩る野菜たちも、ひとつひとつに個性的な風味があり、スパイスの使い方によって、いろいろな風景を見せてくれます。

前菜はアスパラガスを選びました。メニューには「さまざまな味覚のソース」とあり、さてどんな皿が出てくるか楽しみにしていると・・・

鮮明なグリーンは初夏のパワーを予感させます。手前からブラックトリュフ、パプリカ、バジル、インドスパイスと粒マスタード。こちらもアスパラ一本ごとに世界を駆け巡ることのできる一皿です。

メインディッシュはプラチナポークのクルスティアン。アクセントはブラックベリーとエストラゴン。メニューにあるこれだけの限られた情報から、皿を想像して待つのも楽しみのひとつです。

まったく想像と違いました。こんなに楽しげで色彩感のあるポークは初めてです。真空調理で中までとろとろになったポーク。皮の部分だけはカリッカリでまさにクルスティアン。

白いピュレはほんのり甘いインカの目覚め。ソースはポークのダシから。とろとろポークを包むのはエストラゴン。ブラックベリーの酸味が爽やかです。

こうした色彩感やスパイスの絶妙な使い方はもちろんのこと、世界中の調理法に精通していないと、ここまでの完成度には達しません。一口ごとに旅の記憶がよみがえり、魂を揺さぶった風景が目の前に浮かぶのです。

アヴァンデセールは、ライチやフレッシュココナツを使った冷たい一皿。エキゾチックで誘惑的な味。

デセールはサンビラーノとマスカルポーネ。チョコレートを使ったデセールは重たいものが多いのであまり好みませんが、この店のは軽やかなはずと期待して。

ドモーリのサンビラーノ51パーセントカカオと、同75パーセントそれぞれの風味が感じられるような仕上がり。下の粉状のは100パーセントカカオだとか。フルーツのようなリッチな香りです。

食べ進めると、チョコレートとその下にあるマスカルポーネとの間から、とろりとしたソースが出て来ますが、これが醤油をキャラメリゼにしたもの。みたらし団子のタレみたいな感じで、チョコレートに新しい風味を与えています。白いエスプーマも効果的。

最後にコーヒーと小菓子を。

ひとりの食卓は、料理と一対一で向き合うことができます。地球の恵みと味覚の集結。キュイジーヌ[s]の意味が、今日ほど深く感じられたことはありません。旅と新発見のランチタイムでした。