周南第九コンサート

全力で挑み、やれるだけのことをしたけれど、納得のいく手応えが得られず落胆する。それは音楽家のみならず誰でも経験することです。23日の私はまたしてもそのような心境でした。献身的に支えてくれる人が周囲でたくさん見守ってくれているだけに、期待と責任に応えられるかどうかという不安はには、比較的タフな私でも押し潰されそうになりますが、それでも時間がくれば幕は上がります。

これが自分のリサイタルなら、恥をかくのも自分と腹をくくれても、今回のように大勢の夢や希望を背負った演奏会では、そういうわけにいきません。何か見落としていないか、一晩中考え抜いて、それらを片っ端から試すつもりでホールへ向かいました。

こうしてアイデアを絞ったのは、私だけではありません。神経を尖らせている私にために、スタッフが用意してくれたのは、60分の集中時間。朝一番で乱れのない空気をはらんだ大ホールを私だけに独占させてくれたのです。他にも準備で舞台を使いたい人はたくさんいる中、これは本当にありがたいことでした。最高のクリスマスプレゼントです。

まずは、まったく納得できていなかった音響の調整に時間を割きました。楽器やスピーカーの位置を1センチ単位で調節し、与えられた環境でのベストを模索していきます。合唱、ソリスト、スピーカー、エレクトーン、それら全てが理想的な位置に来るのは不可能なので、誰かが妥協しなければなりませんが、それは経験豊富な私が譲るのが合理的です。

結果、私はダイレクト音(スピーカーから直接発する音)をまったく聞くことができず、どこかの壁に当たって跳ね返って来る反射音だけを聞いて演奏しなければなりませんでした。つまり常にコンマ何秒か遅れた音を聞いているので、私の反射神経はそれを息が乱れたと判断し、本能的に縦の線を合わせようとしてリズムが乱れてしまうのです。

しかし、これは時間をかければ慣れることができます。ここで1時間もらえたので、後方座席に照準を合わせた音作りを整えてから、最悪自分の音が完全に聞こえない状態での演奏を想定し、それに対応する準備をしたのですが、実際、のちの本番でこの準備は非常に役立ちました。

更に、指揮者にも協力してもらい、細かいニュアンスの相談や、まだ若干残っていた微細なブレをひとつひとつクリアすることに。これもたいへん有意義なリハーサルだったと思います。60分はあっという間ではありましたが、ここですでに不安の半分は吹き飛びました。波に乗れなければ、何時間掛けても無駄なこともあります。でも、ひとたび乗ってしまえば一気に進むものです。

それから合唱とソリストが加わり、第九のリハーサル。合唱団は昨年から飛躍的に進化しています。歌う歓びに満ちていて、ひとりひとりがとても輝いているのが印象的。ハーモニーにも磨きがかかり、一体感も増大しました。このリハーサルが、第九の会in周南にとって現在のベストレコード演奏だと思います。

第1部のリハーサルも順調に進みました。何しろ、23日に初めて合わせて、やっと様子がわかったという段階なので、誰も安心なんかできないわけですが、1度目とは明らかに違う仕上がりになりました。これは、全員で宿題を持ち帰り、それぞれに答えを用意してきた成果です。

リハーサルが終わって、やっと少しよい兆しを感じられるようになった一方で、まだ何かモヤモヤしていたので、残りの時間を利用して、もうワンランク上を目指してみることに。ふたたびホールを独り占めさせてもらい、昼食返上で細かい工夫を重ねていくと、次第にいつもの感覚に戻っていきました。

高校生の素晴らしいアナウンスで演奏会がスタート。会長の挨拶に続いて幕が開き、合唱団が2曲披露。クリスマスイブらしく遊び心を織り込んだ演出で、客席にも楽しい雰囲気がどんどん膨らんでいきました。続くソリストやコーラスグループも、それぞれに個性の光る演奏をし、盛大な拍手に包まれます。40分程度の予定がおおいに盛り上がり、50分の堂々とした部ができあがりました。

続く第九もとてもいい演奏でした。本番の勢いに押され、少々雑になってしまう一面もありましたが、それ以上に前向きでチャレンジ精神に満ちた雰囲気だったと思います。歌い終わった後の達成感は、かなり大きかったことでしょう。

周南第九は毎年進化していますが、飛躍の幅という点では今年が最大です。ワンランク良くなったというより、次の次元にシフトしたという方が合っています。演奏会としても、内容盛りだくさんで、かなりいい感じ。今後は、より多くの方々に知ってもらい、超満員の中で出演者とお客様が一緒に盛り上がるような流れに持っていければいいと思います。

昨日までは思うように動いているとは言いにくかったのですが、それが一気に動き出しました。その動力は垣根のないコミュニケーションのなせる技です。プロとアマチュアの隔たりがないことや、舞台立つ者だけでなく、運営やスタッフを含めて皆が顔をわかり合うことで、互いの信頼が一層深まりました。

来年は12/23に開催されます。一年一年の成果を積み重ねながら、まず10周年を迎えることを目標に、皆で知恵を出し合って壮大な夢を実現していけたらすてきだと思います。ご期待ください。

第1部のワンシーン
全員での第九
門司先生と早朝の徳山駅で