播州冬紀行

1月21日から3泊4日で訪れた播州。たくさんの人とふれあい、心豊かになれた旅でした。なにしろ、ふだん東京にいる時は、ほとんど人と会わず話もしない孤独な生活なので、演奏会などで人と接するといきなりテンションがあがります。でも帰って来ればまたいつもの沈黙。この落差にはなかなか馴染めません。

21日は午前中いっぱい稽古をしてから出発。姫路へは新幹線の方が便利なのですが、訳あって新幹線はあまり利用しません。それは荷物の置き場に困ることが多いからです。最近は外国人旅行者も増え、大きな荷物を持った乗客が多くなりました。私も演奏会がある時は重いスーツケースを持ち運びます。2着のタキシードと靴、楽譜などを含んだ荷物は20キログラムほど。それを始発駅で上の棚にあげるのはそれほどたいへんではありませんが、途中駅で下ろすのに苦労することがあります。特に隣席に他の乗客がいる場合、バランスを崩して腕をひねる危険もあるので、荷物を預かってもらえる飛行機を優先的に利用しています。

今回も伊丹経由で姫路まで。伊丹からは一度新大阪に出て新幹線に乗ります。この日はタイミングが悪く、新大阪駅で40分待ち。駅構内は土産店ばかりで待合室はわずかしかない上に大混雑。結局、立ったまま40分過ごすしかありませんでした。しかも寒いし。空港ならこんなことはありません。疲れた気分で姫路に着きましたが、姫路労音のみなさんが温かく迎えてくれたおかげで、すぐに元気を取り戻しました。

翌朝は三木へ。今年初めての演奏会です。9時に会場入りし、準備を整えたら早速リハーサル。広い空間で落ち着いてリハーサルできるのは本当にありがたいです。この日のためにかなり弾き込んで来たので、リハーサルでも本番同様の意気込みで弾きました。それが我ながらかなり上出来。録音しておけばよかったと後悔しています。同時に、まだまだ上を目指せることにも気づきました。

開場ギリギリまで弾き続けて、少しでも体を温めておきたいところですが、体力温存も忘れてはいけません。この日のプログラムは正味の演奏時間だけで95分あり、トークや休憩を加えると2時間10分ほどの公演になります。最初から体力も集中力もマックスで必要な作品がずらりと並ぶので、消耗とどう戦うかも計画しておく必要があります。

やはりリハーサルで通してみて、かなりキツいプログラムだと実感しました。ちょっと気を抜くと簡単に崩れそうですし、力んでもダメ、軽くてもダメ、絶妙な波をとらえて巧く乗らないといい演奏会になりませんので、体力や気力をどのタイミングでどれくらいずつ解放していくかもよく考えておきます。

また、食事のタイミングも大切で、開演2時間前には食べ終えておくようにします。楽屋でのランチは手作り弁当。ごちそうが詰まった重箱が、風呂敷に包まれて届けられました。食べ過ぎると重くなるので控えめにと思っていたのですが、とても美味しくて結構たくさん食べてしまいました。でも今回は特にパワーが必要なので、ちょっと多めがよかったかもしれません。

演奏会は定刻にスタート。三木労音で呼んでもらうのはこれが2回目、ほぼ3年ぶりです。1回呼んでもらえるだけでもラッキーなのに、2回目があるなんて本当に嬉しいです。その喜びを伝えられる演奏がしたくて、じっくり考えたプログラムを精一杯磨いて来ましたが、しっかり準備してあって、リハーサルもバッチリだとしても、本番が思い通りにいくとは限りませんので、いつも怖いです。

そんな恐怖を和らげてくれるのは、舞台裏で見守るスタッフとお客様の期待。この日も客席から熱いものが伝わってきて、おおいに力づけられました。演奏もどんどん波に乗っていき、後半に向かって更に集中力が増して、第2部は絶好調に。多彩なプログラムも自分自身を楽しませてくれたような気がします。

終演後は三木労音の事務所で交流会がありました。演奏会を作ってくれたみなさんと、美味しい手作りスコーンやブラウニーを食べながら、打ち解けた雰囲気で過ごすひとときは最高です。事務局長のクラシックギター演奏も聞かせてもらい、音楽のある空間の素晴らしさを心から満喫しました。その日の演奏がどうだったかは自分でも理解していますが、どう受け止めてもらえたかは聞いた人から直接話を聞くのが一番。感想だけでなく、どんなところに興味を持ってくれたかなど、新しい発見がたくさんありました。

演奏会翌日は夕方までフリー。午前中はリサイタルのチケット発送など、デスクワークを。午後からは、いつも姫路周辺の演奏会に楽器を貸してもらっている文化堂にお邪魔して稽古をしました。1階のショップ内にあるガラス張りのレッスンルームを3時間ほど拝借。3時間はあっという間で、やっと調子が出て来たと思ったらもう終わり。でも、リサイタルの準備もほんの少し進み、おおいに助かりました。

夕方からは宍粟市で第九の講習会がありました。今年10月末に予定されている宍粟での第九コンサートに向け、これから合唱団を結成して、準備や稽古を進めていきます。なにしろ30年ぶりの取り組みですし、エレクトーンで第九?と不思議に思う人もいると思い、事前に第九の魅力やどんな演奏会を目指しているかをお話しする集いを設けることになりました。

思っていたよりも多く50人以上が参加を申し込んでくれていましたが、山間部を中心に大雪となり、来るに来れない人が続出。人数は減りましたが、その方々には後でビデオを見てもらおうということで、撮影もすることに。

人前で話すことは今となっては苦手ではありませんが、いわゆる講師的な立場で話す機会はあまりないので、ちょっと不安がありました。今やスマホをちょっといじれば、溢れる情報に瞬時にアクセスできますので、私が知ったような顔をして知識を伝える必要もないと考え、自分の経験で積み重なったものの中からお話しすることにしました。目指すのは宍粟らしい温かい演奏会です。この雪の日の集まりにも、そうした温かさが感じられましたので、きっといい演奏会になると思います。

宍粟を後にして姫路に戻り、加古川のみなさんと次回第九演奏会実現に向けた打ち合わせをしました。同じ作品を主軸にしながらも、場所ごとにまったく味わいの違う演奏会ができていくのが面白いです。韓国、宍粟、周南、加古川と今後も第九が目白押しですが、ますます広がっていくような予感です。

こうしてフルスケジュールの播州滞在が終わりました。みなさんが付きっ切りで相手をしてくれるので、忙しいけれど楽しくて充実した旅でした。でも、帰京したらまたひとりの日々です。3月11日のリサイタルまで一ヶ月半。脇見をしている余裕はありません。しっかり準備していきたいと思います。