アラン・シャペル at ポートピアホテル

今夜は友人夫妻の結婚10周年を祝う晩餐が、アラン・シャペルにて催されました。ごく身内だけの集まりに私のような者を招いてもらったのですが、とても和やかで心地よい時間を楽しむことができました。

昔話や身近な話題、ストレス解消法など、さまざまなモチーフで会話が盛り上がりましたが、用意された料理やワインもまた実に素晴らしく、末長く記憶に残る食卓となりました。

まずは別室で店のスタッフや料理長たちに囲まれながら、ホテルから差し入れの神戸ワインで乾杯。そして山側の個室に案内され、いよいよ美しい夜景を眺めながらの食事が始まります。

食卓に移ってから最初の飲みものはシャンパンの傑作、サロンで改めて乾杯。更にテーブルに並べられたこの日のワインは、圧巻でした。エティエンヌ・ソゼのモンラッシェ2001だけでも気分が高まりますが、続く3本には失神しそうです。

いずれもドメーヌ・ド・ラ・ロマネ・コンティのモンラッシェ2007、ラ・ターシュ1998、ロマネ・コンティ2004。世界三大美女よりも、世界三大テノールよりも、このラインナップに惹かれてしまいます。

当初は飲みごろを逆算し、あらかじめ抜栓をして食卓に上げる算段になっていましたが、私が「空気に触れた直後からの変化を楽しみたい」とワガママを言って叶えてもらいました。

アミューズが出たところで、ソムリエにより抜栓の儀式が始まりました。そして、眠りから覚めた高貴な液体が、厳かに恭しくグラスに注がれていく様子を見るのは、最高のキャストで上演されるグランドオペラの幕が上がった気分。

それぞれのグラスを旅するのは、まるで色とりどりの花畑を往来するミツバチの心情です。

さあ、この豪華ラインナップに適う料理を創作するのは、アラン・シャペルの料理長である佐々木康二シェフ。これは相当の本腰を入れないと、料理がワインの添えものでしかなくなります。

どのようなアイデアで、どのような料理を出してくれるのか、これまた期待が高まります。

献立は次の通り。

鮑とキャビアのタルタル

ブルターニュ産オマール海老と小鳩、黒トリュフのサラダ

蕪のコンフィとフォアグラのポワレ

きのこの軽いクリームスープ カプチーノ仕立て

自家製ベーコンで巻いた兵庫県産アンコウのロティ トリュフソース

キャベツとフォアグラを包んだ山鳩のパネ パンデビス風味

フランス産ナチュラルチーズのいろいろ

グリオットチェリーのスフレ

すみれの花のグラス

小菓子

どの料理も見事でした。名店の伝統と革新的なアイデアの融合。ウルトラモダンでもあり、スーパークラシックでもある。もう死ぬほど美味しいとしか言いようがありません。

ワインは、土と太陽がくれたものに人間の芸術的感性と職人的営みで新たな価値を付加した芸術品。そして海や山の恵みを最高の味わいとなるよう経験と直感を注いだ料理。そして食卓を囲む通い合う心と心。それを支える絶妙なサービス。

そのどれもが奇跡であり、どれかがひとつ欠けても今日の食卓はありません。すべての奇跡が重なりあうという、これもまた大きな奇跡。今夜はまさにミラクルな晩餐でした。