神田将コンサート in 上海師範大学

上海公演2日目。今日こそは「これぞ神田将!」という演奏をお届けしたい。その一心で、朝からスタッフたちと共に奔走し、解決策を模索しました。

その甲斐あって、今日のコンサートは大成功。もちろん中国公演ではお約束のハプニングも満載でしたが、それらもほぼすべてクリア。まるでエベレストに登頂したような気分を、スタッフ全員で分かち合うことができました。

とにかく、昨日の二の舞を避けるためには、音響設備と音響エンジニアを確保するのが最善の策です。現地の音響に頼るのは、十分な下調べと、それを扱える人材が不可欠ですが、中国において確約を得るのは至難の業。

以前にも縁のあった業者に無理に頼みこんで、なんとか機材と人材を確保することができました。コンサート当日の依頼で、それを何とかしてくれるなんて、本当にありがたいことです。

これで一安心。と、思ったら・・・
今度はまた信じられない事態が発覚しました。なんと会場のダブルブッキング!

私のコンサート一行は、13時から会場入りして18時からのコンサートに備える算段になっていました。ところが、コンサートの前にふたつのイベントが開催されるとのことで、私たちは16時半の終演まで会場に入れないというのです。

もちろん、私もうろたえましたが、それ以上に戸惑う現地スタッフを見ていたら、私の覚悟は決まりました。
「大丈夫、与えられた環境の中でベストを尽くしましょう」と励まし、音響さんにもその旨を伝えてもらいました。

当日オーダーで、しかも仕込み開始から開場まで60分しかなく、すべての持ち込み機材をセッティングして、しかもどれほどの設備があるのかまったく見えていない照明まで整えるなんて、誰に頼んだって「無理です」の一言で終わるようなムチャ振りです。

更に、前のイベントが16時半には終わらないような予感・・・。そこで、当初18時だった開演時間を18時半に変更してもらいました。お客様には迷惑をかけますが、めちゃくちゃな演奏をお聞かせするよりは許してもらえるでしょう。

会場となる上海師範大学構内の劇院に到着したのが午後4時過ぎ。昨日の復旦大学は「大学城」と呼ばれる最新の設備が整った地域にありますが、上海師範大学は古来の中国風情が残る地域にあって、周辺の雰囲気も趣きが感じられます。

案の定、前のイベント終了は17時を回ってからでした。さあ、急いでセッティングです。皆、一言も口を開かず、心の中で「慌てず急げ!」と自分を鼓舞しながら黙々と作業を進めます。

人間の集中力とは素晴らしいものです。わずか30分程で機材と照明のセッティングとが終わりました。早速音響チェックスタート。私がステージで演奏しながら、スタッフ全員が会場内に散り、違和感を指摘してもらって、音響チーフが調整します。

エントランスにはスポンサーから提供されたルービックキューブのお土産が山積みされています(懐かしいなぁ)。

音響チェックの間にも、会場前には入場を待つお客様の長い列がどんどん伸びていきます。

私は結局1曲も通して弾けず、2曲ほどピーク時の音量をチェックし、出来る限りの音質調整をおこないました。あともう少しと思ったところで、お客様が続々と入って来ました。

音響チーフの「こんなとこだけオンタイムなんだなぁ」という一言に、スタッフ一同爆笑。これで一気に場の雰囲気も和みました。

やり残したことはたくさんありますが、不安はありません。あとはスタッフを信頼し、お客様と自分を信頼しましょう。

客席は約1000席。満員のお客様に迎えられコンサートがスタートしました。

最初の曲を弾き始めたら、客席から舞台に上がってくる人が・・・
通常では考えられない展開に、少々動揺しましたが、演奏中は舞台監督の中止指示がない限り、演奏を中断することはありませんので、弾き続けました。

あっちからカシャッ、こっちからパシャッ。なんだ、カメラマンか。続いて正面至近距離からパシャッ。これが暗殺者だったら、私は即死ですね。

でも、正体がわかったら、あとはもう気にしない、気にしない。一休さんの心境で演奏に集中です。

途中、通訳さんを挟んで、司会(上海師範大学の学生さん代表)とトークタイム。私の今の気持ちを尋ねられ、皆さんに支えられ、とても気持ちよく演奏していることを伝えると、会場がにわかに熱気を帯び始め、どんどん盛り上がって行きました。

そして神田将キャンパスツアー恒例の体験ワークショップでは、客席からふたりを舞台に招待し、STAGEAの魅力を簡単にレクチャーしながら、実際に演奏を体験してもらいました。

ワークショップの後は、会場の皆さんもSTAGEAに対する知識が深まることで、演奏への興味も増大します。私はリハーサルなしで本番にのぞんでおり、昨日とは違うプログラムなので、曲によっては数ヶ月ぶりに弾くものもありました。

でも、お客様のパッションと期待に後押しされ、クオリティのよい演奏をお届することができたので、私自身とても気分よくプログラムを終えました。

アンコール2曲では会場のお客様と無言のコミュニケーションを取りながら、音楽で遊んでみました。終演後はお約束のハリウッドスター気分タイム。上海師範大学には音楽科もあって、ピアノやフルートの楽譜(それも高難度の)を抱え、それにサインを求めてくれるのは嬉しかったです。

昨日よりもエキサイティングなコンサートでしたが、不思議と疲労感は10分の1くらい。音響のクオリティが演奏のクオリティに及ぼす影響について改めて考えさせられる2日間でしたが、よい経験をさせてもらいました。

音の良し悪しは確かにありましたが、いずれの大学でも私の音楽を熱烈に歓迎してくれ、心がひとつになれるステキな時間を過ごすことができ、それこそが一番の歓びです。