伝統的かつ革新的に

昨年に引き続き、中国上海国際芸術祭からの招聘を受け、上海にやって来ました。

中国上海国際芸術祭は、1ヶ月の会期中に、世界中から招聘された各界のスーパースターたちが上海市内を中心に日夜パフォーマンスを繰り広げるという、国家の大イベントです。

音楽あり、演劇あり、舞踊あり、伝統芸能あり。芸術の香り高いものであれば、ジャンルや国籍を問わずエントリーの対象になりますが、その重要な条件のひとつが、「伝統的かつ革新的であること」だそうです。

このトラディションとイノベーションのバランスについては、私がエレクトーンによる演奏を扱う際に、最も神経を注ぐ要素のひとつ。斬新さを取り入れれば取り入れるほど、そこに伝統的な要素が根付いていなければ、仕上がりの感触はよくなりません。

中国上海国際芸術祭の選考委員たちは、私の演奏の中に、伝統に対する憧憬や敬意を十分に感じたと話してくれました。それでいてまったく新しいタイプの芸術であり、更にはとても日本的だとも言ってくれました。

ハイテクの中にあるヒューマニズムのようなものが、日本的だと映ったのかもしれません。これはYAMAHAのエレクトーンがMade in Japanの楽器として世界に誇るに足ることを意味しています。そして、高度な技術で開発された楽器に魂を吹き込み、芸術を生み出すのは私たち演奏家の役割であることも忘れてはいけません。

昨年は上海商城劇院でのリサイタルに加え、いくつかの公演に参加し、いずれも大成功を収めました。それを受けて2年連続の招聘となったわけですが、今年は今年で実現が危ぶまれる様々な局面を乗り越えての訪中です。

それだけに、実現に向けてギリギリの調整を進めてくれた上海の方々、そして私の演奏を楽しみに待ってくれている上海市民の皆さんに、心から感謝しています。

昨年は初めて私の音楽を聞いて下さったお客様ばかりでしたので、新鮮な驚きという、いわばビギナーズラックで賞賛を頂きましたが、今回はそうはいきません。新鮮さが通用しない分、本質で挑まなければ、手厳しい上海のお客様を満足させることはできないでしょう。

その点、「せんくら」とリサイタルを終えた直後で、まさに波に乗っている状態で上海公演を迎えられることは、私の目算通りにとてもいい感じになると思います。

今日は上海に到着して、ホテルにチェックイン。すぐに明日の公演に関する打ち合わせが行われました。信じられないかもしれませんが、私は今の今まで会場がどこかも、観衆が何人かも、まったく知らなかったのです。

こうした行き当たりばったり的なことに従順に対応できなければ、中国での仕事は務まりません。こうした段取りゼロの環境下では、相手の提案に対して、瞬時にベストプランを返せるだけの引き出しを用意しておくことが必要です。

明日は上海市内の大学内にあるコンサートホールにて演奏会を開催するとのこと。音響、楽器手配、司会者など、諸条件の説明を受け、その中で、ベストな演奏会となるよう、細やかな打ち合わせをおこないましたが、結局のところは現地に行かなければ何もわかりません。

今は上海の夜をただただ満喫し、久しぶりの家族の時間を楽しみます。そう、今回は親と叔母が一緒についてきました。おいしいものをたくさん食べさせて、舞台での私を見て安心してもらいたいと思います。

さて、明日はどんなレポートをお届けできるか、楽しみにしていて下さい。