神田将リサイタル2010

毎年1回の特別なステージ。私の「今」のすべてを注いでお届けするリサイタルが終わりました。トップの写真は、終曲を演奏し終わって、一秒と経たない瞬間のもの。燃え尽きたという感じが背中に表れていますが、この程度で尽きるとは私もまだまだです。

この日のためにどれほどの努力を重ねたことか。そして、この日にどれほど五感を研ぎ澄ませたことか。けれど、それらをステージで結実させることの難しさを、今の私はひしひしと感じています。

多くの方々に支えられながら迎えた当日。朝からエレクトーンシティで稽古を繰り返し、「よし、これでいける」という手応えを持って会場入りしましたが、あれよあれよという間に本番が迫り、十分な心構えができないままに開演してしまいました。

今回は棟方宏一さんが司会を務めて下さったので、自分で進行をする時に比べると、格段に演奏に集中することができる環境を作っていただきました。なので、抱えている不安の割には、落ち着いて演奏していたと思います。

そこで私は発見しました。「私は前回までの私とは違う」。以前は、リハーサルが十分にできなくても、自分自身が納得のいく音響環境でなくても、ある意味「へっちゃら」の順応性がありました。

今でも、「こうでなければダメ」とか、難しいことを言ってスタッフを困らせるタイプではありません。

一方で、以前よりも神経が研ぎ澄まされ、微細なことにイヤでも気付いてしまうようになりましたし、演奏に向ける精神性も一段と深まりました。

そのため、リハーサルで経験していない様々な事態に気持ちを揺さぶられ、時折集中力を欠いてしまったことが、とても悔やまれます。今後は、必ず本番同様のリハーサルを行うことと、固く決心しました。

それはともかく、ほぼ満席のお客様、しかも、素晴らしいお客様ばかりに囲まれ、本当に幸せでした。

音と音の合間に出来る無音の空間には、まるで会場に誰もいないかのような無限の広がりが感じられる心地よさ。演奏家の表現力を最大限に引き出すパワーを持ったお客様に見守られていながら、それに十分に応えられなかった私自身を反省しています。

もうひとつの発見。それは私が自分自身に課しているものが、この一年でかなり重くなったということ。私が理想とする演奏に比べたら、今の私は50点も取れません。作品に負け、体力に負け、環境に負け、残ったのはチャレンジ精神だけかもしれませんが、それでも私にとっては貴重な一歩であり、忘れがたいステージでした。

歴史を彩る傑作にめぐり会い、それを演奏する喜びとともに畏怖を感じ、石田先生の新作を初演する名誉にも恵まれました。この「幕末」を含め、私は今日演奏した作品を、引退までずっと弾き続けていきます。今日がゴールではなく、スタート地点ですから。

客席で応援して下さった皆様、遠方よりエールを送って下さった皆様へ、心からの感謝を込めて・・・