エレクトーン演奏に必要な筋力

音楽をするヤツはひよわで体育が苦手。
音楽をするヤツは理屈っぽくオタク気質。
音楽をするヤツは気もよわくて草食系。

昭和の時代、音楽男子のイメージはこのように散々でした。
ロック歌手やスーパースターならともかく、クラシックのイメージは、スポーツマンの対極にあるようなものでしたから、「クラシックやってます」なんて宣言したとたんに、笑いものにされかねない空気さえありました。

それが、21世紀になって、音楽家に対するイメージは大きく変わって来ましたが、まだ現状には追いついていないように思います。

私はかねてから、芸術家も舞台に立つ以上はアスリートでなければならないと言い続けて来ました。
オペラ歌手も、バイオリニストも、ピアニストも、男女を問わず、モデルかと思うような見事な体つきをしている人が増えています。

音楽は目でも聴く時代。演奏家の風貌もまた、音楽の一部として重要視されるようになったことを受け、美しいプロポーションを維持するために、普段の生活から留意している演奏家も少なくありません。

私も、肉体的な管理には十分な注意を払っています。
外見的な要素もないわけではありませんが、その何倍も大切なのが、演奏に必要な体力の維持です。

エレクトーン演奏は、実にたくましい体力が必要です。
昔は「指一本で簡単に弾ける楽器」だなどと宣伝していましたが、少なくとも芸術の域においては、とんでもない話です。

その指一本でさえも、全身の筋肉と神経の絶妙なバランスの中から打鍵されるのであって、単に鍵盤に指を滑らせれば音楽が奏でられるというほど単純なことではありません。

あらゆる楽器がそうですが、エレクトーンもまた全身を駆使して、絶妙にコントロールしなければ、よい演奏はできないのです。

たとえば、同じ鍵盤楽器のピアノと比較した場合。
決定的な違いは、エレクトーンでは、打鍵してから鍵盤を離す瞬間まで、継続的に圧力をコントロールしなければならない点です。
これが、肉声に例えれば、声の強弱やニュアンスに相当することであり、同時に鍵盤の微妙な傾きで音程をもコントロールしているのです。

そのため、エレクトーンでは、ほぼ演奏している間中、ずっと鍵盤に圧力をかけつつ、それを微妙に調節し続けなければなりません。

最大限押し込み続けることも容易ではありませんが、むしろ難しいのは、鍵盤を押しこむ途中で、指が宙を浮いた状態を保ちながら、わずかな加減を調整するという技です。

これは手の指だけでなく、足鍵盤でも同じことをやっています。

こうして指先の圧力を自在にコントロールするには、体の重心バランスが極めて重要です。

演奏中、重心はフォームやポジションによって刻々と変化しますが、どんな体勢であっても、体のバランスを保ち続ける必要があるので、まずはそれに関わる筋肉をトレーニングしなければなりません。

私は、ベッドに横になった際、臀部だけで体を支え、上体と下肢を持ち上げたまま、あらゆる角度にゆっくり動かして、重心を見つけるトレーニングが気に入っています。それは、ぐっすり眠るにも効果があるように感じています。

あと、腕の筋肉や腹筋が必要なのは言うまでもありませんが、指の筋肉を自在に動かすトレーニングが重要です。

小指と薬指の間に生卵を挟み、同じ手の親指と人差し指で茹で卵を剥くと、いい練習になります。使う指を逆にしてみるのも効果的です。

こうして身につけた筋肉は、ダイナミックな演奏にはもちろんのこと、繊細な表現時にも大活躍します。

無駄な力を排除し、必要なところに必要にして十分な力のみを注ぐことができれば、演奏スタイルは洗練されていくでしょう。

楽器に向かっている時は、音楽的な工夫に集中したいもの。
だからこそ、体幹のバランス感覚や筋力を養うには、日ごろの生活の中でのちょっとした工夫が大切です。