学校巡回コンサートの危機

12年に渡り全国の学校を訪問してお届けして来た巡回コンサートが今、危機に瀕しています。

思えば、これまで日本各地いろいろな学校を訪ね歩き、本気の演奏を通じて、多くの子どもたちと音楽で交流してきました。ところ変われば子どもたちの個性もそれぞれですが、こちらが真剣に弾けば子どもたちは必ずそれを受け止め、ストレートな反応を見せてくれたものです。

何かを届けるつもりが、大きな喜びをこちらがもらってくるのが、お決まりのパターン。音楽のすばらしさはもちろん、自信や先へ進む意欲さえも、私は子どもたちに気づかされたように思います。

こうした学校巡回コンサートは、正直、楽ではありません。移動に次ぐ移動で体力は消耗しますし、演奏に最適とは言えない環境でストレスも嵩みます。であれば、キャリアの浅い音楽家が、経験や食い扶持のために受ける類の仕事なのかというと、決してそうではありません。

むしろ、超ベテランの一流どころが名を連ねており、その質の高さに圧倒されるばかり。リサイタルのチケットが万を超えるトップアーティストが、今日もどこかの体育館で、その音楽を惜しみなく披露していることでしょう。

これは誰かがやるべきこと。未来を託される子どもたちに必要なこととの信念で、私も精いっぱい取り組んできました。

しかしながら、ここに来て存続が難しくなってしまいました。

その理由はただひとつ。エレクトーン運搬コストの増大です。学校巡回コンサートでは、エレクトーンを専用のハードケースに収納し、東京の倉庫から現地へと配送。巡回中は自分たちで管理・運搬をするという形式を取っています。

エレクトーンシティ渋谷の協力によりエレクトーン本体は低予算で借りることができますが、運搬は一般の運送業者を使うので、ある程度の経費が必要です。

それが、昨今の運送業者問題のあおりを受け、これまでの何倍もの料金が掛かるようになってしまったのです。

交通手段や宿のランクを落とすとか、賃金の度重なる減額にも応じてきましたが、それももうぎりぎりのところまできてしまいました。

エレクトーンによる巡回コンサートは今年で終わりになるかもしれませんが、だからといって子どもたちにとってマイナスになることはひとつもありません。エレクトーンが行かなくても、歌やヴァイオリン、ピアノなど、素晴らしい演奏家たちが、これまで通り全国の学校を訪ねて回り、音楽の魅力だけでなく、生きて輝くことの何たるかを鮮烈に伝え続けてくれることでしょう。

さみしいのは私の方です。これまで、子どもたちとのふれあいから多くのことを学び、無敵の勇気もそこで掴んだもの。この先、私はどこでそれを見出せばいいのか、途方に暮れてしまいそうです。

でも、悲しむ前に、今年決まっているスケジュールに情熱を注ぎたいと思います。

10月には波多江史朗さんとデュオで静岡県を、11月には波多江さん、米津真浩さん、石川昇平さんと佐賀県を巡回します。

この豪華な顔触れは、むしろ一般公演では実現困難かもしれません。今年はどんな笑顔に出会えるのか、待ちきれないほど楽しみです。