400時間

5月6日。会場さえ使えれば、今日は東京文化会館大ホールに皆さまをお迎えし、2年かけて準備したリサイタルで演奏する予定でしたが、今年もまた昨年同様、願いはかないませんでした。中止せざるを得なくなってからというもの、敷地から一歩も出ることなく、毎日17時間の稽古と編曲に全力を注ぎながら、このリサイタルを幻で終わらせることのないよう、チームメンバーと作戦を練り続けています。

まだ具体的な日程をお知らせできるところには至っておりませんが、チーム全員が揺るぎない熱意で取り組んでいますので、よいご報告ができる日もそう遠くはないはずです。

5月6日を断念した時は、本当にがっかりしました。どう折り合いを付けようと努めても、心の声が不条理だと納得してくれなかったのです。その思いは今も消えていませんが、日頃より応援してくださるお客様、関係者、共演者からのメッセージが日々届き、それによってとてつもない気力を呼び起こしてもらいました。とりわけ心ある共演者たちからの励ましには、私がこれまで彼らに注いだものの意味を改めて思いだす言葉が多く含まれ、読み返す毎に胸にこみあげるものがあります。

同時に、自分の過ちに気付かされることもたくさんありましたので、今後の振る舞いを考えるよいきっかけになりました。限られた時間と労力を、少しでも価値あるものに活用していこうと思います。

リサイタルの稽古は継続しますが、その他にもすでに稽古が本格的に始まっている演奏会がいくつかあります。今度はそれらの演奏会が本当に開催できるのか、雲行きが怪しくなってきました。

我々は気の遠くなるほどの時間を掛けて準備をしています。私がひとつの新規公演に費やす時間は、最低でもざっと400時間ほど。こうして準備したものが、電話一本で消えていき、その無念を当人のみで処理しなければならない時代になりました。考えると切なくなるので、稽古に戻ります。弾いている間だけ出現する別世界へ。