山口県での1週間

原点回帰と人生の集大成。山口県での1週間は、まるで死に際に見る夢のように記憶と溢れる思いが交錯する旅でした。

2007年6月、全国の学校に生きた芸術を届ける「青少年劇場(日本青少年文化センター主催)」事業に参加して以来、毎年欠かすことなくどこかの学校を訪ねて演奏をしていますが、その初巡回が山口県でした。初めの3年間に県内各地を訪ねてからはしばらく機会がありませんでしたが、今年は13年ぶりにご指名いただき、意気揚々と馳せ参じた次第です。

懐かしい萩では、山間に佇む桃源郷のような小学校へ。話題独占の阿武では、明るく活発な子どもたちが迎えてくれました。そして山口市、周南市、下関市の小中学校を巡り、行く先々で新しい出会いと、ドラマのような再会に心を震わせました。

私は不器用なので、子どもたちが喜ぶような演奏はできません。自分が心底傑作だと思えるものだけをふだんの演奏会と同じように弾くだけですが、どこへ行っても心を開いて受け入れてくれ、どんな環境であってもそこが音楽会場として輝くことに、毎回驚きを感じます。

思えば15年前、子ども相手の演奏をどこかで見下していた自分が、上関小学校で初めて演奏した時、すべてが変わったと実感しました。一瞬にして別世界へと到達したかのような体験に、今も感謝する日々です。人生についてつくづく考えるこの歳に、こうして原点に呼び戻されたことにも、何か意味があるのかもしれません。

今回の旅では途中から両親が合流しました。ちょうど母の誕生日でしたので、旅先でそれを祝うことができ、これまた格別な思い出となりました。

旅の締めくくりは恒例となっている山口県旧県会議事堂でのコンサート。もう長いこと企画を担っている実行委員会の皆さまに、コロナで2年中断したことを乗り越え、これまで以上の熱意で開催していただきましたことを、たいへん嬉しく思います。

演奏曲目はフランスの作曲家による小品と組曲「展覧会の絵」。前半はおしゃべりを交えてサロン風に、後半は歴史ある空間美との融合を意識しました。

毎日2回の学校演奏や、長距離移動と毎日変わる慣れないホテルの狭い部屋。どんなにセルフコントロールを意識しても肉体的な消耗が蓄積するため、モチベーションは高くても、集中力の維持が厳しくなっていきます。気温の高さも影響しますが、今はどこでも窓を開け放っていますので、爽やかな風を感じたり、弱音部分で野の鳥たちとのアンサンブルが実現したりと、コンサートホールにはない面白みがあったものの、残念ながらそれも集中力に対しては悪影響なのです。

低下した集中力を奮起させるのが、同行チームの機敏で無駄のない準備姿と、息を呑むような聞き手の期待感で、それらはどんな薬剤よりも効果覿面です。それでも、さらに集中力を高めなければ思い描く演奏に到達できないので、一層の鍛錬をしてまいります。

エレクトーンによるクラシック作品の演奏もだいぶ進歩しましたが、自分で客観的に評価してまだまだなところも散見されます。絶妙なバランスと隅々の細部まで行き届いた演奏には、私自身があと20年欲しいところ。それまで弾いていられるとは到底思えませんが、やっと目指すものが見えて来たので、たとえそれに触れることは叶わずとも、どうすれば手に取れるかに気づき、それを後進に伝えられるところまでは行ってみたいものです。