尺八とエレクトーン

今年は和との出会いに恵まれています。能楽師の観世三郎太さん、三味線奏者の浅野祥さん、そして尺八奏者の辻本好美さんとの共演機会をいただき、初めて触れる日本文化の真髄に強く触発されるとともに、新しい可能性に心震わせながら務めました。回数こそ多くありませんが、その影響は非常に大きく、どれもが強烈な経験になっています。

11月5日に豊洲シビックセンターホールで開催した1×1=∞シリーズの第4回公演は、尺八奏者の辻本好美さんとともにお贈りしました。尺八古典本曲、辻本さんオリジナル作品、西洋クラシック作品など幅広い選曲を、時に渋く、時にチャーミングに、緩急自在の圧倒的な表現によって吹く辻本さん。

あえて舞台には一切の装飾をしませんでしたが、きっと心象世界には雪が舞ったり、花々が咲き乱れたり、霧にむせる森になったり、退廃的な都市の街角になったりと、さまざまな時空が浮かび上がったことでしょう。

尺八という漠然としたイメージから、あらかじめこの日のステージを想像するのは難しかっただろうと思います。なぜなら当の私が思いもよらないことと感じたのですから。

もしかするとエレクトーンのイメージにも同じことが言えるかもしれません。エレクトーンの演奏会に参加することでどんな音楽体験ができるのかを、はっきりとイメージできる方はとても少ないのが現状です。

私を応援してくれていた亡きアトムは、いつも「エレクトーンを当たり前にしたい」と言ってくれていました。一歩一歩前進している手ごたえはありますが、まだまだ努力が必要です。

エレクトーンの認知度は低くても、和楽器との相性がとてもいいことを、今回の公演でも証明することができました。もちろん弾き手のセンスが欠かせませんが、使い方次第で絶妙な相乗効果が望め、無限の可能性を醸し出すことができます。

辻本さんは、確固たるビジョンを持っており、常に明快な要求を述べてくれる一方で、こちらの提案をも柔軟に受け止めてくれるので、一緒に編み上げていくプロセスを楽しませてもらいました。

このように、1×1=∞シリーズは、可能性とチャンスを生み出す企画制作実践室のようなもので、これまでの公演はすべて新たな展開を続けており、回を重ねる毎に急成長を繰り返しています。この辻本さんとのコラボレーションも、今後の展開がとても楽しみ。早くも11月26日には和歌山県田辺市での公演が決定しています。ぜひご注目ください。