深川-札幌-小樽

10年と6ヶ月ぶりの北海道。わずか3日間でしたが、眩い太陽、美味しい食べ物、そして人のあたたかさに触れる実り多き旅でした。今回も両親が同行。年寄りに風邪でもひかれたら大変と、防寒装備万全で出かけたものの、ほぼコート不要の気温で助かりました。

新千歳空港で姫路からのチームメンバーと合流し、一路深川へ。リアウインドウ越しに広い空と夕陽を眺めていたら、あっという間に到着。初めて訪れた街並みもどこかエキゾチックで、不思議な旅情を掻き立てられます。

一度宿に落ち着いた後、大人気の中国料理店「志峰飯店」で顔合わせの夕食会。事務的な話題は一切なく、ただひたすら楽しく食べるひととき。まるで旧友と食卓を囲んでいる感じで、初対面であることなどどこかへ吹き飛んでしまいます。甜品が運ばれる頃、厨房から店主が出てきてくれました。人生が滲み出ているいい笑顔に触れ、心も満たされました。

コンサート当日。札幌でピアニストとして活動している弟子の種村敬子が朝から訪ねて来ました。ひと通りリハーサルを聞いてもらって、客席での音響などに問題はないか尋ねると、信頼できる的確なことを言うだけでなく、演奏に向かう気分を盛り立ててくれました。いつもカバンに入れて持ち歩けたらいいのにと思います。

今回はステージにスピーカーの用意はなく、会場の壁面に埋め込まれたスピーカーから音を出します。その埋め込みスピーカーは舞台より前面の両脇にあるため、舞台上で聞けるのは会場を反射してくる音だけで、音量もごくわずか。別途モニタースピーカーを設置することも可能ですが、局所的な音だけを聞くと全体像をつかみにくい上に、ステージ上だけが孤立した世界になる気がするので、それならむしろ聞こえない方が弾きやすいというのが私の感覚です。

リハーサルも落ち着いたので、近くの喫茶店「ふれっぷ」へ。店の前にコンサートの看板が出ていると聞き、現物を拝みに。看板屋さんが手書きした味わい深い立て看板と記念撮影。そしてパフェとコーヒーで本番に備えます。店内はレトロな雰囲気。片隅には古いエレクトーンも置かれていました。

ホールに戻ると、受付の準備が始まっていました。すべてが手作りのコンサート。楽屋には歓迎の手書きカードがたくさん入ったフォトアルバムが用意され、それを一枚一枚読みながら本番を待ちました。

出演者は私一人。セッティングもシンプルなので、ギターソロにも匹敵する身軽さです。プログラムは前半がクラシック、後半に映画音楽。ソロなのでリラックスはしていますが、気持ちは引き締めて舞台へ向かいます。

演奏しながら背中で感じる客席の雰囲気は、まさに北海道。かつて何度も味わった北海道公演ならではの沁み渡る空気を懐かしく思い出し、気分よく演奏することができました。照明や音響を担当した会場のスタッフも一緒になって楽しんでくれていたと思います。

終演後は名残惜しく深川を後にして札幌へ。せっかくの種村との再会、そして両親の旅に彩りをと、札幌に1泊する予定を組みました。そして最終日は小樽へのショートトリップ。思い出の風景を追いながら、当時の自分と今を重ね合わせるひととき。それでもまだ人生は続く。さあ、よい演奏、そして親孝行に励みましょう。